第204話 大量のボス
「どこだ? あいつらはどこにいる?」
ハンターの男は魔法で生み出した光の球を持ち上げた。ボス部屋の様子がぼんやりと見えてくる。
壁には小蟻がびっしりと張り付いていた。凄まじい数だ。小蟻が壁にある魔石を覆い隠しており、それがこの部屋の暗闇の原因だった。
「すごい数だ……」
「まずいな……これは……」
ぼそりと呟くハンターに、私は声を掛けた。
「急いで仲間を探さないといけませんね。さすがにこの状況なら、私たちがモンスターを攻撃しても構いませんよね?」
「あ、ああ……。当然だ……」
返事を待つ間ももどかしい。私は隣にいた湊ちゃんに声をかけた。
「湊、いける?」
「うん」
湊ちゃんは弓を構えていた。すでに弦も引き始めている。
「魔石に張り付いている小蟻をお願い。まずは部屋の明かりを確保しよう」
「わかった」
短く返し、湊ちゃんは矢を次々に連射していく。正確な射撃で10匹の小蟻を瞬く間に仕留めた。魔石に取り付いた蟻だけを狙い撃ったのだろう。背中に矢を受けた蟻が次々と落下し、一気に部屋が明るくなった。
「危ない!」
春日井君が叫び、前に躍り出た。
1匹の蟻がこちらに向かって突進してくる。
小蟻ではない。
人の背丈ほどもある、巨大な蟻のモンスターだ。
オリハルコン製の日本刀を一閃させ、春日井君は巨大な蟻を一刀両断にした。
斬り伏せられたのはジャイアント・アント。
通常ならボスとしてこの部屋に現れるモンスターだった。
「ジャ、ジャイアント・アント……。ボスだぞ……」
ハンターが驚愕の声を漏らす。
頭をかち割られたジャイアント・アントが床に転がり、ぴくりとも動かなくなった。
「ちょ、ちょっと待て。こいつはボスを1撃で倒したのか? 一体どんな強さなんだ……」
私は視線を前方へ戻した。春日井君が一体仕留めたが、まだ同じ敵がたくさんいた。
「油断しないで。大きいのがまだたくさんいる」
小蟻の多くはまだ壁に張り付いているが、私たちの目の前には巨大な蟻がひしめき合っていた。
全てがボスであるはずのジャイアント・アントだ。
ボス級の個体が群れをなして出現していたのである。
「う、うわああああああ!!」
同行していたハンターが悲鳴を上げた。仲間を置き去りにして逃げ出そうとしたが、その背中へ1匹のジャイアント・アントが飛びかかる。
「危ないですよ!」
叫びながら、ミスリルの大剣を振り下ろす。ジャイアント・アントの首を断つと、ごとりと音を立てて床に転がった。
「背中を見せないで! 狙われます!」
忠告も虚しく、この男だけでなく、もう一人のハンターまでもが背を向けて走り出してしまった。
「し、死にたくねえ!」
複数のジャイアント・アントが一斉に動き出す。逃げようとする2人に反応したのだ。ハンターたちは入ってきた扉を目指して必死に駆けていく。
私と湊ちゃん、春日井君は彼らを守るべく、ジャイアント・アントの集団の前に立ち塞がった。
「大丈夫!? 湊!? いける!?」
「大丈夫!」
湊ちゃんが力強く応じる。
「春日井君は!?」
「もちろん!」
頼もしい声が返ってきた。私は早口で指示を飛ばす。
「私と春日井君が前衛。湊は後ろから支援をお願い。三角形の陣形でいくよ。いい!?」
言葉を交わす間にも、3匹のジャイアント・アントが肉薄していた。1匹が私を狙う。繰り出された前足の打撃を大剣で受け止める。
春日井君は鮮やかな二連撃を放っていた。向かってきた個体の触角と前足を切り落としていた。
もう一匹のジャイアント・アントは完全にノーマークだった。そこへ湊ちゃんの矢が飛ぶ
ジャイアント・アントの眉間に矢が突き刺さり、蟻は動きを止めた。完璧な急所への狙撃だ。
「湊、ナイス!」
「まだいける! どんどんいこう!」
湊ちゃんは休むことなく次なる矢を番える。
「おう!」
春日井君も応じ、前方から次々に迫るジャイアント・アントを迎え撃つ。敵の機動力はそれほどでもないのだが、人の背丈に匹敵する大群の圧迫感は凄まじい。奥の壁が見えないほどだった。
さらに左右の壁からは小蟻が這い降りてくる。私たちを挟み撃ちにしようとしていた。
「湊! 左右の小蟻をお願い! 数がとんでもないけど、大丈夫!?」
「まかせて!」
湊ちゃんは即座に連射を開始し、次々と小蟻を射抜いていった。
「私と春日井君で大きい方を食い止める!」
「待て! さっきのハンターたちが!」
春日井君の声で振り返ると、逃げ出した男たちは入口まで辿り着いていた。だが、そこにある扉は固く閉ざされていた。
「ち、ちくしょう! 開かねえ!」
「閉まるなんて聞いてねえぞ!」
腕を振り上げてドンドンと扉を叩いている。
その2人のハンターに向かって、壁からぞろぞろと小蟻たちが降りてきた。慌てて2人は剣を抜き、必死になって小蟻と戦いだした。
まずい、と思った。この扉がロックされるのは、特定の条件が満たされた時だけだ。
蟻部屋では卵が孵り、膨大な数の個体が生まれる。
通常は小蟻が主だが、稀にジャイアント・アントが生まれ、それがボスとされる。
しかし、現状は……。
異常な数のジャイアント・アントが孵化していた。
産卵を終え、無事に我が子の孵化を見届けた母親がどこかにいるはずだった。この女王蟻の出現が扉が閉じられる条件だった。
私は天井を仰ぎ見た。
視線の先は、入ってきた入口の真上。
扉のすぐ上の天井に、ひときわ巨大な影があった。
全身を燃えるような深紅に染めた、ジャイアント・アントの3倍はあろうかという巨体。その巨体が、今まさに扉の前の2人のハンターを狙い定めているところだった。




