第200話 階段を降りながら
私たちは地下40階へ向かう階段を降りている。
春日井君を真ん中にして、3人で並んで歩いていた。
「結局なんだったの、あの人? 春菜はあの人のことを知っていたの?」
「ああ、それなんだけれど、春日井君も関係があってさ」
「俺!?」
春日井君は自分の名前が出てくるとは思っていなかったようで、声が上ずった。
「たまたま湊が春日井君とダンジョンに行くのを知った女子生徒が嫉妬してさ。それで元彼に湊を狙わせたんだよね」
「私って狙われていたの!?」
「なんだよそれ、ひでえな」
春日井君が口を尖らせ、湊ちゃんは驚いた顔のままでこちらを見てくる。
「もしかして、春菜は全部わかっていて私に神王装備を貸してくれたの? レベル51まで鍛えたのもそのため?」
私は手を振りながら否定する。
「いやいや、そうじゃないよ。さすがに本当に実行するとは思わなかったから。まあ、湊をちょっと脅かそうとしたんじゃないかな」
「そうだったんだー」
「もしかしたら私がターゲットになっていたかもしれないよ。春日井君のファンクラブが先に嗅ぎつけたのが湊だっただけで……」
「ちょ、ちょっと待って。俺にファンクラブなんてあったの!?」
動揺しながら春日井君は私を見た。
階段を降りている最中だったため、段を踏み外しそうになって慌てている。
「なんだ春日井君。自覚ないんだ。実は結構モテるってこと」
私はからかうように言った。石段を降りる足音がコツンコツンと響く。
「いやいや、告白とかされたこともないし。別にモテてないだろ」
「でも実際にファンクラブは作られているし、抜け駆け禁止のルールもあるらしいからね」
私は霧野さんから聞いた話をそのまま口にした。
「そんなルールがあるのか。もしかして筑紫もそのファンクラブのメンバーか……?」
「ち、違うよ!!」
即座に否定したが、顔が火照るのがわかった。
そのセリフは「俺のことを好きなのか?」と聞かれたに等しい。
湊ちゃんがくすくすと笑う。
「でも、まあ、女の子2人とダンジョンに来ているのは事実だし、もしかして春日井君は両手に花の状態なのかな?」
「両手に花? なんのことだ?」
春日井君の言葉に、湊ちゃんは可愛らしく口を尖らせる。
「今さらなの? ひどいねえ、春菜。こんなに可愛い女の子を2人も連れていて。春日井君には自覚がないんだって」
春日井君は私を見て、それから湊ちゃんへと視線を移した。
「でも2人をそんなふうに見たことがないからなあ。筑紫とは隣の席でふざけあう友だちって感じだったし」
「じゃあ、意識してみたらどうなんだろう? 私のこととか、春菜のこととか」
湊ちゃんはいたずらっぽく人差し指を口に当てた。
「うーん。まあ、筑紫を女として意識したことはないけれど、南波は可愛いんじゃないかな? ……って俺の友だちが言っていた」
いたずらを仕掛けたつもりが、逆にやり返される形になり湊ちゃんは慌てる。
今度は湊ちゃんが階段を踏み外しそうになっていた。
「え!? 私!?」
「あ、友だちが、だぞ。言ってたの」
私は興味津々に春日井君の顔を覗き込む。
「え? 誰だれ? 誰が言っていたの? 誰が湊を可愛いって言ったのよ」
「そこは守秘義務があるからさ。男同士の秘密だよ」
春日井君は私たちから顔を背け、毅然として前を向いた。
私はそんな春日井君を肘で小突く。
「でも、春日井君の友だちでしょ? じゃあ、野崎君とか新井君とか、あるいは同じ部活の……」
「やめろって。詮索するなって」
「春日井君もモテるし、湊もモテる。いいなー」
私は両手を頭の後ろに置いて、天井を見上げながらぼやく。
階段はそろそろ終わる。地下40階は目の前だ。
湊ちゃんは前を向きながら静かな声で言った。
「じゃあさ、春日井君。私と春菜と、どっちか選べって言われたらどっちを選ぶ?」
湊ちゃんは少し足を早め、先に地下40階の地面を踏んでいた。
後ろ姿だけが、私たちに見えていた。湊ちゃんがどんな表情をしているのかはわからなかった。




