第198話 さらなる寄り道で
「あ、ねえ、見て! アイテムとダンジョンポイントが入ってる」
湊ちゃんが嬉しそうに声を上げた。
「ポイントが2700DPになってる。ドロップアイテムもあるね。これ、なんだろう? 春日井君、知ってる?」
湊ちゃんが画面を見せながら尋ねると、春日井君は心当たりがなかったようでネットで検索を始めた。
「防御用の指輪だ。名称は『森羅の指輪』。弓矢による損傷を一度だけ無効化できるらしい」
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森羅の指輪
弓矢による損傷を一度だけ無効化する指輪。
攻撃を受けると代わりに指輪が壊れてくれる。
すでに怪我を負っている場合でも、弓矢によるものであれば完全に治癒してからすぐに壊れる。
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春日井君はアイテムの相場も調べてくれた。
「うわ、これ、かなりのレアアイテムだぞ。南波のビギナーズラックだな。売れば100万DPにはなる」
「ほんと!? やったあ」
湊ちゃんは両手を上げて喜んでいる。いきなり100万DPなんて、宝くじに当たったようなものだ。
「すごいね、湊。おめでとう」
「ありがとう。装備は春菜からの借り物だから、これを売って揃えちゃってもいいのかな?」
「いいよ、自分の装備を揃えよう。いつまでも借り物じゃ格好つかないしね。あ、でも……春日井君、いいのかな?」
私たちはアイテムの分配について決めていなかった。以前は均等分配が一般的だったが、最近は獲得者がそのまま貰うケースが多い。
「そういえば分配の話をしていなかったな。獲得者がそのまま受け取るのが最近の主流だし、そのルールでいいんじゃないか?」
「そうだね。湊、そのアイテムは大事に取っておいて。うっかり使わないようにね。説明だと、傷を治した瞬間に壊れるらしいから。弓矢のかすり傷があるだけでも発動しちゃうみたい」
「わかった。指にはめなければ大丈夫だよね」
「だね」
湊ちゃんがレアアイテムを引き当て、私たちは上機嫌で地下39階まで降りてきた。回り道で他のハンターと遭遇しやすかったが、40階へ向かうには最適のルートだった。
案の定、何組かのパーティとすれ違う。だが、皆どこか様子がおかしかった。小走りで慌てている者もいた。
しばらく歩くと開けた場所に出た。数人のハンターが集まっていて、中央には一人の男が横たわっている。
「どうかしたのですか?」
周囲にいた女性に尋ねてみる。
「なんだか、大怪我をしているとか。詳しいことは私もわからないのだけれど」
私たち3人は、横たわっているハンターのそばへ歩み寄った。
周囲に座っていた人たちは、救助のために寄り添っていただけのようだ。負傷者は中央の一人きりだった。
腕に巻かれた包帯は血で真っ赤に染まり、苦しそうにうめき声を上げている。その顔は、どこか見覚えがあった。
「ショップで会った茶髪のハンターだよね?」
湊ちゃんが小さく囁いた。私も黙って頷く。
「装備を買ってあげるって、声をかけてきた人だ」
男性には女性ハンターが魔法をかけていた。彼女は手を休めると、別のハンターに話しかける。どうやら、たまたま居合わせただけのようだ。
「さっきからずっとヒールをかけているんですが、私の魔法ではこれ以上の回復ができなくて……」
「特殊な攻撃を受けた可能性がある。たとえばレベルの高いモンスターによる攻撃とか」
「こんな階層でですか? どういうことでしょう?」
そこへ別のハンターが近寄ってきた。真っ白な僧侶服に身を包んでいる。
「ちょっと俺に見せてくれ。こう見えても聖職者のスキルを持っている。傷の分析もできるんだ」
男はスキルを発動して詳しく調べていたが、やがて独り言のように呟いた。
「これは……。モンスターの仕業じゃない。何か特別な弓で貫かれている」
「どうしたらいいのでしょう?」
治療を続けていた女性ハンターが尋ねる。
「もっと高レベルな回復魔法か、地上に戻らなければ完治は無理だ。骨が粉砕されている。即入院レベルだし、ポーションを使うにしても相当な高額品が必要になる」
「数十万くらいですか?」
「いや、桁が違うよ」
「格上のハンターにやられたんじゃないでしょうか?」
「もしかして、PKの仕業か? 誰かに弓で狙われたというのか?」
PKとはプレイヤーキラーの略称だ。ハンターの中には、他者を殺害して金品を奪う冷酷な者も存在する。
茶髪の男は「痛え……、痛えよ……」とうめき声を上げ続けていた。
湊ちゃんが男のすぐ横に座り込んだ。
「ひどい! ひどいです! 誰がこんなことを!」
私と春日井君も、そのすぐ側に腰を下ろした。
僧侶服の男が、負傷したハンターを問い詰めるように身を乗り出した。
「誰だ! 誰にやられた? 相手の正体はわかっているのか!」
男は答えようとして目を開けた。周囲を見回し、湊ちゃんに顔を向けると、驚愕したように目を見開いた。
「いや……それは……」
口ごもる彼に、湊ちゃんは優しく語りかける。それは、まるで天使のような小鳥のさえずりだった。
「言ったら口を封じられてしまう、ということですね。殺されるから、と」
「ひ、ひい!」
なぜか、男は悲鳴に近い声を上げた。恐怖に染まった目で、天使のような微笑みを浮かべる湊ちゃんを凝視したまま動けないでいた。




