第196話 寄り道の提案
シューターを使うといっても、すぐに地下100階まで降りられるわけではない。いくつか経路があって、最短経路もあれば回り道もある。
今はまだ地下1階。薄暗い洞窟の左右は石壁になっており、足元は不安定でゴツゴツとしていた。
いきなり最短経路で地下100階まで降りるよりも、まずは戦闘に慣れながら進んだほうがいいと考えた。
「どうかな、タブさん。地下13階に寄っていこうと思うのだけれど」
私はダンジョンタブレットを見ながら歩いていた。タブレットに話しかけると自動的に返事をしてくれるのだが、その声はAIによる合成だ。
『主よ、我も賛成だ。主の目的はゴブリンメイジだな』
「その通り。さすがタブさん、わかっているね」
私たち3人は横並びで歩いている。右側には春日井君、左側には湊ちゃんがいる。
湊ちゃんは「ゴブリンメイジ?」と不思議そうに首を傾げていた。
私の代わりに、春日井君が説明をしてくれる。
「魔法を使うゴブリンだよ。魔法といってもたいしたことなく、低級のファイアーボールを撃ってくるんだ。威力はそれほどでもないし、連発もしてこない」
「じゃあ、弱いんだね?」
湊ちゃんの言葉に、春日井君は少しバツが悪そうな顔で兜に手を置く。
「いやあ、そんなこともないんだよ。俺もレベルが上がる前は挑めなかった。基本はソロだったし、低レベルのハンターにとっては魔法を使われるだけで厄介な相手なんだ」
「じゃあ、強いの? それとも違うの? どっちなんだろう?」
私は湊ちゃんに顔を向ける。
「今の私たちにとっては圧倒的に弱い相手だよ。でも倒すことが目的じゃなくて、目的は装備の性能確認。湊の神王装備、春日井君のミスリル、そして私のオリハルコンにあるパッシブスキルを確認しようと思って」
「パッシブスキル?」
湊ちゃんが聞き返してくる。私は追加の説明をした。
「自分で選んで能動的に使うのがアクティブスキル。パッシブスキルは何もしなくても自動で発動してくれるスキルのことだよ。例えば、ゴブリンメイジの魔法くらいならMPを消費せずに障壁を張って防いでくれるんだ。その確認に行くの」
「なるほど。一度そのスキルを体験しておこうってことね」
湊ちゃんは納得したように頷いている。
「湊と春日井君のためにね」
今度は反対側の春日井君へと顔を向けた。
「筑紫の話だと、わざとファイアーボールを被弾するってことだな。それはそれで、勇気がいるかもしれない」
湊ちゃんも少し緊張したような声を出す。
「そうだね、でも春菜の言う通り、一度試しておくことは大事だね」
「でしょ? だから、ちょっと回り道して、一般のハンターがいなそうな道をAIで検索してもらっているの。ただ、気になるのはゴブリンメイジが単体になるかもしれないということ」
できれば同時に3匹か4匹を相手にしたかった。1匹では弱すぎて、緊張感に欠けるからだ。放たれた魔法が外れることもあるし、次を撃つまでには時間がある。
春日井君もそのことがわかっているようで、頷きながら答えていた。
「ハンターが少ない場所は、モンスターもバラけていることが多いからね」
「そうなの?」
湊ちゃんはまだ通常のモンスターと戦ったことがない。その湊ちゃんに春日井君が説明を続ける。
「ハンターは遭遇したモンスターを全部倒すわけじゃないんだ。余裕がないと2匹を同時には相手したくないからね。複数との遭遇が避けられた結果、特定の場所にモンスターが固まることもあるんだよ」
「モンスターを集めちゃうんだね」
「意図的に集めるわけではないよ。まあ、レベルが高いハンターならわざと集めることもできるけれど」
『ゴブリンメイジ程度なら、レベルが30あれば集められる』
タブレットから音声が流れた。
タブさんが横から口を出すのは珍しい。
レベルが51の湊ちゃんを安心させるためだろうか?
「つまり、大丈夫ってことなのかな? ちょっと不安だけれど」
湊ちゃんに足りないのは経験だ。自分の強さや、装備の性能をまだ知らない。
私は安心させるように言った。
「湊なら、まったく大丈夫。ゴブリンメイジがどれだけたくさんいてもね。それを確認するためでもあるし、遭遇したのが単体ならそれはそれで構わない。大丈夫だってことを確認したいだけだし、地下100階へ行くまでの、ただの寄り道だよ」
そして私たちはタブレットの案内に従い、シューターを使って一気に地下13階へとやってきた。
歩きながらマッピングアプリを使い、ゴブリンメイジを探していく。




