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廃校でダンジョン  作者: 空気鍋
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1ー16

 辿り着くまでやけに長かったなぁと思い返しながら昇降口から校舎に入ると、右手に第二体育館への廊下、左手に校長室や職員室が並ぶ廊下があった。

 吸血鬼のジルさんは、昇降口の入り口から腕を搦めて離さないのだが、先ほどまでなら邪魔をしていたエルフ二人は、悔しそうに黙っている。

 どうやら、散々歩かされた俺が本気で怒ったと思ったらしく、それをトラさんが宥めたと思い込んでいるようだ。

 確かに少しは怒っていたが、だからと言って怒鳴り散らす様なおじさんと思われるのは心外である。気の短いおじさんってか、理屈の通じないおじさんが居るのは知っているが、それならば会社から素直に追い出されるなんて、しないのだよ。

 会社の上司は邪魔ばかりするクセに、責任もミスも押し付ける嫌味な人だったからなぁ、慣れてしまったのかもしれないね。

 それに、腕がね? 幸せなのだよ。何がとは言わんけど。

 ようやく辿り着いた保健室の引き戸を開けると、石造りの二宮金次郎が女性らしい柔らかい動きで、お茶をテーブルに置いたところだった。


「あらあ、ずいぶん遅かったわね?」


 一通り説明も終わっちゃったわ、と金ちゃんさんが言う。

 彼は二宮金次郎姿のゴーレム“金ちゃん”さんだ。小学校の恩師に二宮金次郎の様になれ、と言われて勉強してきた俺だったが、頑張って入った会社は頑張れば頑張るほど仕事が増えていき、残業が増えると給料が減っていく様な職場だったんだよなぁ……。おまけに見習うべき二宮金次郎の石像は自称“男の娘”だった訳なんだが。

 たぶん、世の中ってのは。こんな理不尽が目一杯詰まった袋の様な物なんだ、たぶん……。

 保健室の白いベットの上に座る少女は、制服の代わりに体操着を着ていた。ジャージじゃない、昭和の小学生が着ていた様な体操着、だ。

 そう、上は白い半袖の厚めのシャツ、下は紺色のプルマである。昭和に生きたおじさんには懐かしく目に眩しいプルマ姿だった。

 それを高校生と思われる少女が令和のこの時に着ているのだよ、どこのA◯かと。

 ……少し小さいし(ボソッ)。

 少女は高校生にしては小柄な感じなのだが、流石に小学生が着ている様な体操着では小さいのだった。


「ダメよぉ? 紳士はジロジロ見るものじゃないわぁ~。」


 視線が釘付けになっていたのを金ちゃんさんが遮ってくれたのは素直に嬉しい。いやぁ、隠しきれないお腹や太腿の眩しさが目の保養でござった。


「主殿?」


 とは言え、搦めた腕を強く引かれる俺は視線を上に向ける……知らない天井だ……。


「カタカタカタカタッ!」


 不意に肩を捕まれ振り向くと、白衣を着た骸骨が立っていた。片手には誰かのドレス(トラさん)が、もう片方の手は俺の肩をギュッと強く掴んでいる。

 もう一つの手で人差し指を立てて振り、更に残り一つの手でお茶うけの菓子を乗せたお盆を持っていた。

 保健室って言っていたから、()()()かなって思っていたんだ。もちろん、人体模型か骨格の模型か…人体模型なら、ちょっと覚悟しなきゃキツいだろうなとも思っていたんだが、骨ならまだマシかな。むろん、薄暗くなってきた廃校の一室で見たくはなかったけどな!

 一瞬、心臓が止まったかと思ったわ! いいか、おじさんの心臓は弱ってるからな? 驚いたら止まるんだぞ! 止まったら動かないんだからな!

 おじさんの俺ならAED使っても「助けてくれてありがとう」って言うからな、躊躇わずに使ってくれ。頼んだぞ、本当に。

 逆立ちしかけた毛を落ち着かせて、トラさんに少女の相手を頼む。

 意外に、と言ってもいいものか、トラさんは世話を焼くのが好きなところがあるんだ。少女に大怪我させた事を思えば、単純に任せる気にはなれないとは言うものの、エルフ二人より気が利くし金ちゃんさんみたいに機微には聡いものの見た目で損していたり骸骨さんみたいな怖い姿でもない。

 自分でも判っているんだろう、俺が頼むと軽く「任せよ」と答えて、勝手に使われた自分の服を少女に着せている。

 俺は一度、保健室から出て所在無く立っていたエルフ二人と向き直った。

 その周りをノートがパタパタ飛んでいるのを無視して。


「……二人とも、聞きたいことがあるんだが、いいかな?」


 まあ、聞きたいことと言うより確認したいことなんだが。


「なんだろ? さっきの事なら謝るから怒らないで欲しいかな? かな?」

「あれぐらいで怒る、ご主人様じゃない、よね?」


 ブルブルと震えるエルフ二人は、異常に“なにか”を恐れている。その“なにか”は判らないが、ビクビクしている二人をそのままには出来なかったのだ。

 そして、今も二人の周りを飛んでいるノート。

 トラさんは、このノートをダンジョンコアと呼んでいた。ダンジョンは「主がいる限り成長し新たな人種が産まれることもある」とも言っているし、今まで何人かの“主”を得てきた話もしている。


「あまり、脅さないでやってくれないか。昔の俺を見ているようで辛い。」


 そう、年下の上司が責任を押し付け理不尽にも八つ当たりをされていた頃、俺はあんなエルフ二人みたいに震えていたんだ。

 なにか反論しようものなら「会社から追い出してやる」と怒鳴り散らす上司に辞めれない俺は、いつ追い出されるかと震えていたのだった。

 結局、俺の仕事とは関係無い経理上のミスで会社を追い出されたんだがね、ハハッ。……なんの為に我慢していたんだか……。

 だから、俺が大した事じゃないって思っている事でノートが威嚇する様に二人の周りを飛んでいて、二人が震えているのを見るのは、なんか…嫌なんだ。

『……今回は、ご主人さまの言葉通り許します。けど、少し浮かれ過ぎていたのは反省しましょうね?』

 黒髪ロングのメガネメイドがプンプンと怒りマークを付けながら、ため息をついてる絵が描かれ吹き出しに長々とお叱りの言葉が並ぶ。しかし、最後には「しかたないなぁ」と()()()を吐く様にページを捲って、俺の手に落ちてきた。

 どうやら、しばらく休みたくなったらしい。


「ご主人様、ありがとうなのです。」

「ご主人様、ありがとうございます。」


 二人は、半泣きで俺にしがみついてきた。

 日も落ちて薄暗くなった廃校の廊下で二人の美少女に抱きつかれる俺。

 事案である。


「主殿、もうよいぞ。」


 突如、ガラリと開けられた引き戸。

 目を丸くするトラさん。

 途端に勝ち誇った顔をする二人(リットとジル)

 そこになおれいっ! と叫んだトラさんと構えたエルフ二人が骸骨に摘まれるまで、あと少し。

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