王女と作戦会議
翌朝、扉のノックオンが聞こえたためシルイトが開けてみるとそこにはコンフィアンザの姿があった。
「ますた、起床の時間です。早めに王女との話し合いを終わらせて朝ごはんをいただきましょう」
「そうだな」
二人は一つ隣の王女の扉をノックする。
さほど時間を置くことなく扉が開き、中から王女が現れた。もう寝間着ではなくちゃんとしたドレスに着替えているようだ。
「今日の内に細かいことについて話し合うんですよね。どうぞ中へ」
下手に応接室を使うと内容を盗み聞きされる危険性も出てくる。
その点、王女の私室であれば盗み聞きもできないだろうという魂胆だ。
シルイト達もその真意に気付いたようで特に異論を唱えるわけでもなく素直に部屋へと入っていった。
「それで、どのように協力して頂けるんでしょうか?」
シルイト達が席に着くと早速王女が話し始めた。
その言葉は主にシルイトに対して向けられたものだったが昨日のような親密さは感じられない。
シルイトの方も若干事務的な口調になっている。
「俺たちは参謀と実務の両方から援助します」
「参謀ですか」
「はい、今の王女の戦略についても少し調べましたがいくつか指摘したいポイントがあります」
王女は驚いた。
なにしろ余計な波は立てないように気を使って今まで行動してきたので特に指摘されることもないと思っていたのだ。
「本当ですか。今まで特に変なことはやっていなかったと思いますが・・」
「そこですよ。例えばボモラ王子は馬車をすべて廃止して自動車を導入すると公言しています。それに対して貴女は特に目立つことを発言していません。確かに下手な失敗はせずに済んでいますが、それ以上支持を得ることもできません」
そこで、王女はシルイトが言わんとしていることがわかったのかこくんとうなずいた。
「なるほど・・」
「そこで一つ大きなことを公約として掲げることが大事だと思います」
「しかし何をすればいいんでしょう?何を言っても反発がありそうで」
どうやら王女は公約を掲げることでそれに反発する人から支持を得られなくなることを恐れているようだった。
だが、そんな王女に対してシルイトは自信満々の表情を浮かべた。
「大丈夫です。丁度良いのがありますよ」
「それはなんですか??」
「大陸を囲む外海を再び航海可能にするという公約です」
このエスカメシオン王国が存在しているラプリメラ大陸は外側が全て海で囲まれている。
その海は外海と呼ばれ、ずっと航海していくと別の大陸に繋がっていると言われているのだが、現在の外海は突発的な竜巻や荒波のせいで船が壊れてしまい航海できない。
つまりシルイトは王女の公約として外海を突破する何らかの策を実施することをアピールしろと言っているのだ。
「実際に可能なんですか?」
「確約はできません」
「ちょっとっ!」
「けれど可能性はあります」
王女はシルイトの投げやりな発言に異を唱えようとしたのだが、その後のシルイトの言葉に訝し気な顔をしながらも次の言葉を待とうと口をつぐんだ。
「とりあえず外海に対してアプローチする研究機関に資金を投資するというのは解決策の一つですし、俺自身もいくつかの考えがあります」
「その考えっていうのはなんでしょうか?」
「貴女が王になったらお教えしましょう」
シルイトの言葉に王女は少しムッとした顔をした。会話を始めた当初のような気まずい雰囲気は薄れてきている。
「それでとりあえずこんな感じで行こうと考えているのですがどうでしょう?」
王女は外海を渡る方法を教えてくれないシルイトをちょっとにらんだが、すぐに表情をもどしてうなずいた。
「はい。いいと思います。もとよりシルイト様に従おうと考えていたので」
「それはよかった」
コンフィアンザが会話はもう終わったとばかりに立ち上がり荷物をまとめ始める。
それを見て王女は少し寂しそうな顔をするが、せめて見送ろうと思い席を立った。
だが、シルイトはまだ座ったままだった。
「・・ますた?」
「フィアン、少しの間この部屋から出ていてくれ」
「なぜです?」
「王女と話したいことがある」
「・・・了解です」
コンフィアンザは王女の方をちらりと見た後、部屋から出た。
王女はその姿を見送った後、再び席に座った。
「話したい事ってやっぱり・・昨日のことですよね」
少し緩んでいた王女の雰囲気は既に緊張感を取り戻している。
「はい。政略結婚についてです」
王女は緊張したのか生唾を飲み込むような動作をした。
「端的にいえば貴女が王位継承戦に勝てば政略結婚について悩む必要はないと思います」
「あの、決してそれだけでシルイト様のもとへ訪れたのでは・・!」
王女が慌てて否定しようとするものの、それを遮るようにしてシルイトが言葉を発する。
「気を使っていただかなくて結構です」
それを聞いて泣きそうな表情をしてしまった王女の顔を見てシルイトは少し頭が冷えた。
「すいません、無礼なことを」
「本当に政略結婚が嫌なだけでシルイト様によ、夜這いしたわけではないんです」
「ではどうして・・?」
「それは・・言えませんが、どうか信じてください」
シルイトはしばらく王女の顔を見ていたがやがてゆっくりとうなずいた。
「わかりました。信じます」
「あ、ありがとうございます!これで仲直りですねっ!」
うれしさからか、ぐぐっと距離を詰めた王女にどぎまぎしながらもシルイトは笑みを浮かべる。
「では、これから一緒に頑張りましょう」
「はい!」
扉の外で待っていたコンフィアンザと合流してシルイト達はそのままウィスターム邸へと向かった。
城を出る際には王族がお忍びで城を抜け出すための抜け道を使わせてもらったため警備の人に出会うこともなかった。
「ふぅーん、それで協力することになったのね」
シルイト達がウィスターム邸に戻ると、そこには家の防御に阻まれて中に入れないでいるブラッキーとゴールディアンが居た。
慌てて二人を通行許可にしたシルイトは文句を言われながらも王女とのやり取りのあらましを説明したのである。
「ぎんいろが王女と仲が良いのは意外」
シルイトがブラッキーに王女と知り合いであることを教えたときに眠っていたゴールディアンは意外そうな顔をしながら聞いていた。
コンフィアンザもシルイトの説明を聞いていたのだが、そこでふと思いついたかのように質問をした。
「ところで、王位継承戦っていつまで続くんでしょう?」
だが、シルイトもわからなかったのか首をかしげるだけだった。
そんな様子にブラッキーは呆れたようにため息をついた後、口を開いた。
「あと一週間よ」
これからシルイト達にとって怒涛の一週間が始まる。
次回は来週の土曜日の零時に投稿します。




