王女とシルイト
そうして再びバルコニーから屋内へと戻った二人は王女につれられるまま王女の私室を出た。
私室の外とはいっても、まだ警備の人員は入ってはいけない場所だ。
ここには王女専用の浴室などプライベートなスペースがたくさんあるためさながら家の中にある家のようなものである。
最初、シルイトはその中の応接室か何かに泊めてくれるのかもしれないと考えていたのだが、予想とは違い王女はそのまま玄関の扉を開け外の廊下へと出てしまった。
恐る恐る顔だけ廊下に出して左右を見回したシルイトだったが意外なことに護衛はおろかメイドや執事までいなかった。
一応安全は確保されたということでそろそろと外の廊下へと足を踏み入れたシルイト。
コンフィアンザも周囲を警戒しながらもシルイトについて行くように廊下にでた。
シルイト達はその後ほとんど歩くことなく一つ隣の扉の前へと連れていかれた。
「こちらが空き部屋となっています。シルイト様はこの部屋に、あなたはもう一個隣の部屋を使ってください。だれも住んでいないので大丈夫です」
その言葉にうなずいたシルイトは指定された扉から中に入ろうとするが、それをコンフィアンザは止めた。
「あの、私はますたの護衛も兼ねているので同じ部屋で寝泊まり・・」
「あなたは隣の部屋をお使いください」
コンフィアンザの声にかぶせるようにして王女が声を発した。
コンフィアンザは少しムッとしながらも泊めてくれる以上は無茶を言ってはいけないと思ったのか割とおとなしく従った。
シルイトが中に入るとそこはほとんど王女の部屋と同じ構成の廊下や部屋が並んでいた。
安全確認を済ませ、罠がないことを確認したシルイトはそのままベッドに寝転がった。お風呂は家に帰ってからにするつもりのようだ。
日が昇ってきたらすぐに起きるようにカーテンを閉めずにそのまま目を閉じた。
うとうととまどろみ始めたころ、シルイトは体の違和感に目を覚ました。
覚醒しきっていないぼんやりとした頭を動かして目をゆっくりと開けるとそこにはシルイトに馬乗りになっている王女の姿があった。
「っ!?セレネ王女!?」
「し、静かにしてください・・」
思わず大きな声をあげてしまったシルイトの口を王女が手で塞いだ。
シルイトもここで大きな声を出して城にいる誰かに聞かれでもしたらまずいと思っておとなしくなった。
シルイトがおとなしくなったのがわかったため王女も口から手を放す。
「それで・・これは一体どういうことです?」
未だに動悸が収まらないまでもシルイトは幾分か冷静な思考を取り戻したため今の状況を分析することにしてみた。
確かにシルイトが寝ている部屋はまさに王女の隣の部屋なのでバルコニーを伝ってくれば不可能ではない。
だがたとえ可能であっても王女がわざわざシルイトの部屋にこっそりと訪れる理由はない。なにか言いたいことがあれば翌日言えばいいだけの話だからだ。
だから直接聞いてみることにしたのだが、王女の返答はシルイトの予想の斜め上をいっていた。
「こういうの、夜伽っていうんですか?」
少し恥ずかしそうに微笑みながら尋ねるその姿にシルイトは一瞬魂を抜かれたもののすぐに再起動して諫めるように話し始めた。
「セレネ王女ももうすっかり大人なんですからそんなに男に対して無防備でいたらいけません。貞淑は大事なことですよ」
「あの、私ってそんなに魅力がありませんか?こんなに誘惑しているのに・・」
シルイトの冷静な態度をみて王女は自分に対して魅力を感じていないと思ったらしい。
悲しげな目をシルイトに向けてぽつりと言葉を漏らした。
それを聞いてシルイトは慌てて弁明した。
「いえ、そんなことは決して!!」
「では、どうしてそんなに冷静なんですかっ」
「俺なんかじゃあ貴女とは釣り合いませんよ」
自嘲気味なそのセリフに王女は怒ったような表情を見せた。
「そんなことはありませんっ!シルイト様はご立派ですよ」
「問題は周りがどう見るかですよ、それよりもなぜ俺なんですか?しかもこのタイミングで」
シルイトの質問は至極まっとうなものであったのだが王女は少し考えるそぶりを見せた。
といってもどう答えるかを考えているのではなく答えるかはぐらかすかを迷っているような態度だ。
やがて答える決心がついたのかきりっとした表情に切り替えて口を開いた。
「私、政略結婚がいやなんです。それで・・」
その言葉にハッとなったシルイトは王女の言葉を引き継いだ。
「俺と関係があることを明かして乗り切ろうと思ったわけですか」
「い、いえ!決してそれだけではないですけど・・」
「その件も含めて明日話し合いましょう。今日はもうお帰り下さい」
もしかしたら自分に惚れているのかもと思っていたシルイトは裏切られたような気持ちを抱いてしまい突き放すような態度をとってしまった。
また、その態度自体が自分の傲慢さからきていると感じたシルイトは余計に陰鬱なオーラを発することになる。
王女は王女でそのオーラを敏感に感じ取って泣きそうになりながらもそそくさと寝室を後にした。
その後、朝まで王女が再び来ることはなかった。
すっかり目が覚めてしまったシルイトは朝が来てコンフィアンザが扉をノックするまでずっと王女のことを考えないようにしていた。
彼はどうして王女がほかでもない自分のところに訪れたのか、その理由を考えることもなく朝を迎えた。
次回は次の土曜日の零時に投稿します。




