王女とコンフィアンザ
王女の様子を見てホッと一息ついたシルイトはコンフィアンザの方に向き直った。
コンフィアンザは王女の部屋にある椅子に座った。
「それで?なんでこんな不敬なことをしでかしたんだ」
「ますたはその女に騙されていますっ」
シルイトはコンフィアンザの言葉を聞いて改めて自分の膝を枕にして寝ている王女の寝顔を見るがとても人を騙すような性格には見えなかった。
それどころか幻想的で儚げなオーラを漂わせている王女はむしろ守ってあげたくなるくらいである。
「こんな儚げな娘がどうして騙すんだ」
「現に、さっきますたと接吻しようとしていたではないですか!?」
それを聞いてシルイトは思わず赤くなってしまった。
あれはやはり自分のことが好きなのではないだろうかと半ばニヤケながら考えているシルイトだったがコンフィアンザは少し不機嫌そうな顔をした。
「ますたはセレネ王女とはもっとビジネスライクな関係なのかと思っていました」
「あ、やっぱり単なる昔の友人以上の感情があるよな!やっぱりセレネ王女、俺のこと・・」
「今はそんな話をしている場合ではありません」
シルイトの話を遮ったコンフィアンザはセレネ王女の方へ目を向けた。
セレネ王女は今の割と声が出ている会話をものともせずに顔をシルイトの方へ向けて眠っているように見える。
コンフィアンザの視線に気づいたシルイトもセレネ王女の方を向くがその儚げな様子に思わず王女の頭を撫でた。
すると、コンフィアンザが大きく反応した。
「あっ!」
「ん?なんだ?」
自分が大きな声を出してしまったのを今更ながら恥ずかしく思ったのかコンフィアンザは小さな声でつづけた。
「今・・」
続きは聞こえなかったシルイトだったがなんとなくコンフィアンザの言いたいことはわかったので返答する。
「ああ、確かに王女の頭をなでるなんて不敬かもしれんな」
そうして頭をなでるのを止めようとすると王女の口が動いた。
「やめないで・・・」
二人とも王女の顔を見た。
ただし、その表情は大きく違う。
シルイトは少し驚きつつも慈しむような表情で、コンフィアンザは驚きつつも様々な悪感情がこもった表情で見ている。
シルイトが撫でるのを再開しようかと悩んでいると、今度は王女の手が伸びてきてシルイトの手をつかんで引き寄せた。
コンフィアンザが思わず立ち上がって引きはがそうと、なんなら王女をたたき起こそうとシルイトに近づいていくがシルイトは必死にもう片方の手でコンフィアンザを止めた。
「どうしてですか、ますた!?そんなにその女がいいんですか!?」
「ちょっと、静かにね。っていうかその女っていう言い方はちょっと危ないよ。せめて王女って呼ばないと」
たしなめるシルイトの言葉に少しだけ我に返ったのか自分の声で誰かが気づいていないかきょろきょろと周りを見渡すコンフィアンザ。
問題はなかったらしく再び椅子に座りなおした。
「参ったね」
「はい、本当に参りました」
二人のセリフには言葉とは裏腹に込められている意味がだいぶ違うようだがここでは問題ではない。
これからどうしようかとシルイトが思案し始めようとしたとき、セレネ王女が可愛らしい声と共に目を覚ました。
「あれ、私・・」
「起きられましたか。俺です、シルイトです」
シルイトの膝で寝ているため目を覚ますと最初に視界に入ってくるのはシルイトの顔である。
その顔を見て安心したのか起きた直後に浮かべていた緊張感を伴う表情はふっと緩んだ。
「シルイト様・・あの、私とても悪い夢を見たような・・」
どうやら王女は眠る前の出来事を悪夢だと脳内で処理したようである。
しかし、それで黙ったまま見ているコンフィアンザではない。
「夢ではありませんよ?」
うっすらと殺気をにじませながら凄みのある声で王女に語り掛けるコンフィアンザ。
その迫力にヒッと小さく悲鳴を上げた王女は横になったままの姿勢でシルイトの腰に手をまわしてシルイトのお腹に自分の顔をくっつけた。
その後恐る恐る声がしてきたコンフィアンザの方を見る。
そこにはいろいろな理由でどろどろとした感情が溢れて見えるコンフィアンザの姿があった。
「シルイト様、あの女は本当に仲間なのですか?」
「ええ、俺が命令でも出さない限り危害を加えることはありません」
「本当ですか?でも・・」
王女から見たコンフィアンザはどう見ても危険人物である。
傍から見ればシルイトも十分不審者なのだがそこには王女の特別な感情が働いているのだろう。
だからこそ王女の疑問は当然のことであるのだが、コンフィアンザはそれも気が食わなかったようだ。
「この女はますたのおっしゃることを信用できないそうですよ」
その言葉にハッとした王女は慌てて言葉を付け加えた。
「いえ、決してそういうわけではなく!」
「大丈夫ですよ、わかっています」
聞きようによっては違う意味にもとられかねないシルイトのセリフだが、王女は良い方に受け取ったようだ。
ホッとした表情を見せた。
一方でシルイトは少し気まずげな表情を見せながら王女に語り掛けた。
「それで・・」
「なんでしょうか?」
「そろそろ離れて頂けると」
そこでやっと自分の体勢に気が付いた王女は顔を真っ赤にしながらシルイトから離れた。
少しもったいないことをしたとシルイトが思ったかどうかはわからない。
シルイトから離れたと言ってもまだコンフィアンザのことを警戒している王女はコンフィアンザからシルイトをはさんだ反対側のベッドの上に若干シルイトの陰に隠れるようにして座った。
「さあ、本題に入りましょう。ますた」
もうとっとと終わらせて早くこの空間からシルイトを連れて立ち去りたいコンフィアンザはどんどん話を進めるようにシルイトに提案する。
その案自体は間違っていなかったのでシルイトも了承し、本題に入ることになった。
ーー
「なるほど。そうでしたか」
シルイトの説明を一通り聞き終えた王女は大きく一回うなずいた。
もう夜も更け、眠たいはずなのだが顔からは全く眠気がうかがえない。むしろ若干興奮気味の赤い顔でシルイトの話を聞いていた。
「つまり、シルイト様のご家族を殺したのが私の兄で、社会的に抹殺するために私が王位につくのに協力したいということですね」
このセリフだけ見るとシルイトが相当鬼畜に映るのだが、セレネ王女がボモラ王子を嫌っていることを知っているシルイトは迷うことなく肯定した。
「はい。それで、どうでしょう?」
シルイトの質問の意味がわからなかった王女はこてんと首を傾げた。
その可愛らしい姿にシルイトは少し顔を赤くしたが、コンフィアンザは無言で無表情である。
「?なにがですか?」
「俺たちが協力してもいいでしょうか?」
「あ、はい!もちろんです!むしろこちらからお願いしたいくらいなので」
王女から了承を得られたシルイトは軽くコンフィアンザに目配せする。
シルイトの意図に気付いたコンフィアンザは立ち上がって出発の準備を始めた。
「ありがとうございます。それでは具体的な方法については今度会った時に話し合いましょう」
そう言ってシルイトも立ち上がろうとするが、その手を王女が引き留めた。
「あの・・もう行ってしまうんですか?」
目に少し涙をため力ない手でシルイトのローブの裾を握りながらセレネ王女はか細い声を発した。
一瞬止まってしまったシルイトだったがコンフィアンザが半ば強引に引きはがした。
「はい!ますたは多忙なので。これにて失礼します」
シルイトも頭ではわかっているのか、おとなしくコンフィアンザに連れられてバルコニーへ出た。
そこから帰ろうとしたコンフィアンザだったが、ローブでは空を飛ぶほどの推進力を得られないことに気付く。王城に来た時の場合は落下速度を落としていただけなので問題なかったが高度を上げることはできない。
空を見上げると若干白み始めており、飛行用の乗り物をイシルディンで作っていては確実にばれてしまう。
焦り始めたコンフィアンザ達にセレネ王女が後ろから救いの手を差し伸べた。
「あら、お困りのご様子。ぜひ私の城で泊っていかれませんか?部屋は別にご用意しますよ」
「守衛はいいんですか?」
「あれは嘘です♪」
不機嫌な顔のコンフィアンザと不思議な顔のシルイトは顔を見合わせたが選択肢は一つだった。
一筋縄ではいかぬ・・のか?
次回は短いので明日の零時に投稿します。




