アポストルズ拠点
「ここは・・どこだ?」
数分後、四人はとある土地に降り立っていた。
上を見上げると夕日と、それに伴って暗くなってきた空に星々が輝き始め、そしてそれらを遮る山などが一切ない大空が広がっている。。
「ようこそアポストルズの拠点へ」
「俺の記憶が正しければこのドラゴンは上昇しっぱなしで全く下降してなかった気がするんだが」
シルイト達をここまで連れてきたドラゴンはまだ隣にいて羽の様子を確かめていた。
ドラゴンを移動法にするアイデア自体は既に実用化されている。
利用者の多くが王族レベルの権力者ということ以外は特に異常でもない技術である。
本当に異常なのは今シルイト達が立っている土地だ。
「その通りよ。かと言ってここが高い山の頂上というわけでもないわ。この島はいわば浮き島。完全に地上と切り離されて空に浮かぶ島よ」
「・・・え?」
シルイトが後ろを振り向いてみると、驚いてその場を急いで離れた。
シルイトの後ろに足場はなく、下を見下ろすとどこまでも続く空が広がっていた。雲は上空でなく下の空を漂っている。
ブラッキーの言う通り、ここは本当に高高度の空に浮かぶ一つの島らしい。
大きさ的には都市一つ分くらいの広さがあり、アポストルズはこの島を拠点として王都に降りて活動していたという。
「なんで浮かんでるんだ」
「まだよくわかってないのよね。今も一応調べさせてはいるんだけど・・って、そんなことは今は置いておきましょう。問題はその袋の中身でしょう」
そう言ってブラッキーはコンフィアンザが背負っている袋を指さした。
「いや、この島が異常すぎて正直ルトゥカは後回しにしたいところなんだが。そもそもアポストルズって何者なんだよ」
「あとで教えてあげるわよ。今はルトゥカから情報を引き出しましょう。早めに王都に返しておいた方がいいだろうから」
「あ、ああ」
「大丈夫ですか?ますた」
コンフィアンザは心配そうにシルイトの顔を覗き込んだ。
「お前は驚かないのか」
「特には驚きません。それに後で説明してくれるという話ですし今はルトゥカを優先しましょう」
どうやらコンフィアンザは浮き島の謎よりもシルイトの敵の解明が先らしい。
シルイトもとりあえずコンフィアンザに従うことにした。
「そうだな」
「なら、行くわよ。ついてきなさい」
コンフィアンザのタフさに驚きつつもおかげで冷静になったシルイトはブラッキーの背中を追って歩き始めた。
少し歩くとすぐに畑を耕す人たちの姿が見えた。
「彼らはここに住んでるのか?」
「ええ、私たちもそうよ」
空にあることを除けばいたって普通の町が出来上がっているようだった。
シルイト達が案内されたのは一つの邸宅。
「これは私の家ね。ゴールディアンは何度か来たでしょう?」
「来た。黒魔術みたいな家」
「・・・ひどい言われようね」
シルイトは一見普通に見えるこの家にどんな秘密が隠されているのか戦々恐々としていたが、パッと目につくところには特に異常なものは見当たらなかった。ゴールディアンの冗談なのかそれとも巧妙に隠してあるのかは謎である。
そのまま地下室へ行くとそこでブラッキーは足を止めた。
「じゃあ、その袋の中身を外に出して。尋問よ」
乱暴に袋から出されたルトゥカはまだ魔術の影響で眠っていた。
尋問が始まる。
~~
尋問が終わった時にはすっかり辺りが暗くなっていた。。
ルトゥカはここまでの記憶をすべてシルイトによって消去され、既にアポストルズのメンバーによってエーゼン邸に返されている。
シルイト達はルトゥカを返したという報告を聞くために、一度ブラッキーの家の応接室で集まっていた。
「戦闘もあったけどおかげで有益な情報を手に入れられたわね」
「・・ああ、真の敵がわかった。次の目標は王宮だ」
もう出発の準備を始めようとしているシルイトをブラッキーは慌てて止めた。
「ちょっと待って、一回情報の整理をした方が良いわ」
「なぜでしょう?ますたの敵がわかれば後は始末するだけだと思いますが」
もうすでに出発の準備を終えているコンフィアンザが異議を唱えた。
確かにコンフィアンザにとってはマスターであるシルイトのことが最優先事項なので人殺しに忌避感を感じることはない。
忌避感を感じないという面ではブラッキーも似たようなものなのだが、それでも止めるということは別の理由があるのだろう。。
「もし殺しちゃったらあなたたちもその敵と同族になっちゃうわよ」
ブラッキーの言葉に思うことがあったようで、シルイトは準備の手を止めて少し考えた。
「・・・それもそうだな。よくよく考えるとアポストルズについても教えてもらってないし」
そこで冷静になったのか浮き島についてまだ教えてもらっていないことも思い出したシルイトはそのまま応接室のソファーに腰かけた。ブラッキーの正面の位置で、間にはローテーブルがある。
「よろしい。それじゃあ情報の整理といきましょう」
コンフィアンザも準備の手を止めたシルイトを見て持っていた荷物を床におろした。
「まず敵の確認ね。あなたのご家族を殺した黒幕は・・」
「ボモラ第一王子だ」
ブラッキーの言葉に半ば重ねるようにしてシルイトが言葉を発した。
話を早く進めろという気配を感じ取ったブラッキーだが特に影響されることなく淡々と話し続ける。
「そうね。彼はここ何年かずっと王位継承争いを続けている。そのうえで自分のライバルとして最も脅威になりそうなセレネ第一王女の後ろ盾を皆殺しにするという策を練った」
「実際に荒事をやる人間を集めたのがルトゥカだったってわけだ」
そこでシルイトはボモラやルトゥカに怒りを覚えたのか握る拳に力が入る。
それをコンフィアンザは不安そうに見つめていた。
「ここで大事なのはボモラ王子を暗殺してもあなたたちがただの殺人犯となってバッドエンドってとこよ」
ブラッキーがそう言うと、コンフィアンザは強い口調で言い返した。
「それくらい王国を出て生活すれば済むことです!」
「俺もそう思う」
シルイトも同調する。
しかし、ブラッキーは首を横に振った。
「私たちが困るのよ。物理的に相手を殺してのし上がる王の施政下では必ず反乱の種が蒔かれるわ。そうなると活動しづらいもの」
それを聞いたシルイトは少し首を傾げた。
「前から思っていたんだがアポストルズっていったい何者なんだ?普通裏社会の組織なんて暴動が起これば活動範囲が広がって万々歳だと思うんだが」
ブラッキーはいつものニヤニヤ笑いを苦笑交じりにしながらも口を開いた。
「アポストルズは必ずしも裏社会の組織というわけではないわ。拠点がこの浮島ってことからもわかるだろうけど」
「まあ、そうだな。裏社会どころか普通の組織でもこんなところに拠点を構えてるものはないだろう」
シルイトの言葉に軽くうなずいたブラッキーは表情を少し真剣なものに変えた。
次回は明日の零時に投稿します。




