アポストルズと今後の方策
ブラッキーは言った。
「人と人の争いを止め、世界を守る。これがアポストルズの理念よ」
シルイトは一瞬ポカンとした顔を見せたがすぐに苦笑いに変える。
「世界を守るってちょっとスケールデカすぎな気が・・」
「別に大したことはしてないわ。最近主にやっていたことは裏社会の組織同士で戦争でも起こらないようにしてるくらいね。あとはいま、あなたの蛮行を止めようとしていること」
そこでコンフィアンザが割って入った。
「ますたの行いを蛮行呼ばわりするのは許せませんっ!!」
「あら、ごめんね。フィアちゃん。別に貶すつもりはないわよ」
シルイトはコンフィアンザを抑えつつブラッキーとの会話を続けた。
「アポストルズについてはわかったが、この浮き島はなんだ?今の技術じゃこんなもの作れるわけないのはわかってる。どうやって手に入れたんだ」
「これは少し前の話になるんだけどね」
ブラッキーが物語を話して聞かせるように話し始めた。
「あるとき私たちは人里に降りて悪さをするドラゴンを倒すために討伐隊を組んで戦闘したことがあるのよ」
シルイトはこの時点でなんとなく話が読めて来たなあと思いながらも話を聞くことにした。
「それでもう少しで討伐完了って時にそのドラゴンが降参したのか攻撃を止めて頭を垂れたの。それで試しに近づいてみたら背中にのせられてここまで連れてこられたわけ」
ブラッキー曰く、ドラゴンは地上とこの浮島とをつなぐ橋渡し役でしかないらしく、意思疎通もできないためこの浮き島がどうやってできたのかはまだ分かっていないらしい。
「下手にいじって落っこちでもしたらシャレにならないからね。地道に少しずつ調べていくしかないわ」
「なるほど。それじゃあ、昼間に金色の封印を俺ができた理由はなんだ?俺が指定魔術師認定されていたっぽいけど」
ブラッキーは思い出したというような顔をした。
「ああ、あれね。理由は簡単、ウィスタームもアポストルズの一員だったってことよ。アポストルズの魔術部門を担当していたウィスタームの血が入っているあなたも自動的に指定魔術師として認識されていたってだけ」
それを聞いたシルイトは驚くと同時に少し納得したような顔をした。
「確かにウィスターム家の王都を守護するっていうのもある意味人同士の争いを止めるという理念に合致するな」
「さあ、これであなたちの疑問は解決されたでしょう?今度は私たちの質問に答えてもらうわよ」
私たちというのはブラッキーとゴールディアンのことである。
と言ってもゴールディアンは既に夢の中なので頭数に入れるのも変な話だが。
「いいよ。そっちが特に危ない集団じゃないこともわかったし、わざわざ拠点まで見せてくれたからね。正し、質問は一回だけにしてくれ。早く敵を討ちたいのは変わらないから」
ブラッキーはまだ殺そうとしているシルイトに何か反論しようと口を開きかけたがいったん思い直した。
「それでいいわ。じゃあ・・何を質問しようかしら」
うんうん、と少し考えた後、ブラッキーはポンとひらめいたように口を開いた。
「じゃあ、あなたが最近急に強くなったって情報があるんだけどその理由を教えてくれないかしら」
「ふふ、良い質問だな」
確かにシルイトが答える質問は一つだけだが、質問の仕方によってはより多くのことを答えなくてはいけない。
例えば、昼間の電磁砲ルクスリスについて聞かれたら、イシルディンの説明もせずにただ原理の説明だけしただろう。
だが、強くなった理由を聞かれるとシルイト達の全ての技術の根幹である錬金魔術のことを話す必要がある。
そういう意味でいい質問だなとシルイトが言ったのである。
「答えられないとは言わせないわよ」
「わかってるよ」
「しかし、ますた。いいんですか?かなり機密事項のような気もしますが」
自分の生い立ちにもかかわる秘密の為コンフィアンザは若干慎重になっている。
「大丈夫だよ。元々俺が開発した技術なわけだし。それにここで話しても悪用はされないだろうからね」
シルイトは心配そうにしているコンフィアンザの頭を軽くなでるとブラッキーの方を向いた。
頭をなでられたコンフィアンザは顔を赤くしてうつむいてしまった。
「もし、俺が強くなったって認識されてるんならそれは錬金魔術の開発によるものだと思うね」
「錬金魔術?」
聞きなれない単語の為かブラッキーが聞き返した。
「そう。錬金魔術。これは錬金術の原理なんかを魔術の力を借りて実行したりあるいはその逆だったり。とにかく二つの技術を組み合わせてより高次なものに昇華していく技術のことだ」
「す、すごいわね。今まで考えもつかなかったわ。でもあなたが魔術貴族の生まれなのに錬金学園に入学していたことの説明もついたわね」
「そういえばそっちはどうして錬金学園なんかに入ってたんだ?見たところ魔術士っぽいが」
「それはもう答えません。あなただって一回しか質問に答えないんだし」
ブラッキーは少しいたずらっぽく微笑んだ。
「それよりも、あなたの錬金魔術をこの浮き島で広めてみてもいいかしら?」
「浮き島の中だけで使うなら構わないぞ」
安易に広めるには革新的すぎる技術だと感じていたシルイトは条件付きで認めることにした。
「ありがとう。それで十分よ。この浮き島に世界初の錬金魔術の国なんて作ってみてもいいかもね」
「面白そうだけど、国を作るには人口も領地も小さすぎるよ」
「それは今後の発展でどうとでもなるわよ」
そう言いつつもやはり冗談だったようでそれ以上言うことはなかった。
「とりあえず私たちの疑問は解消されたってことでいいかしら?」
「まだ聞きたいこともあるがとりあえずはこれでいいよ」
シルイトの言葉に一回うなずいたブラッキーは再び口を開いた。
「なら、今度はかたき討ちについてのお話といきましょう」
「やっぱり殺さずにいくのか。さっきの口ぶりからして何か策がありそうな感じだったけど?」
「もちろんあるわ」
シルイトの質問にやけに自信満々に答えるブラッキー。
「セレネ第一王女を国王に据えるのよ!」
セレネ王女とはシルイトの敵であるボモラ王子の妹であり、ボモラ王子と王位の継承をめぐって今も争っている人だ。
敵の敵は味方という考えはシンプルだが決して間違ってはいない。
「どう?」
「そうだな、確かに有効な手段だ。ボモラ第一王子を社会的に行動不能に追い込むことができるだけでなく王国内での活動も自由になりそうだ」
「しかし、ますた。どうやってセレネ王女を手助けするのでしょう?」
コンフィアンザの言葉にシルイトは少し口角をあげた。
ブラッキーもそこまで考えていたわけではないようで目をそらしたが、シルイトは少し自信がある様子である。
「実はセレネ王女とは面識があるんだ」
その言葉にブラッキーは何かを思い出したかのように口を開く。
「ああ、そういえばウィスターム家は王家とも仲が良かったっけ。王城に行ったら案外歓迎されるかもよ」
「さあ、どうだかね。どちらにせよ大っぴらに王城にはいかないよ」
「ではどうするのですか?」
ブラッキーとコンフィアンザ、二人の視線を浴びたシルイトはふと窓から外を見た。
「今はちょうど夜だ。夜のうちに王城に忍び込んで王女とコンタクトを取ろうと思う」
ブラッキーとコンフィアンザはお互い顔を見合わせた。
無謀だと反対の言葉を言おうとシルイトの方を向きなおしたとき、既にシルイトはいなくなっていた。
一人で出発してしまったのである
人一人が居なくなるのに気づかない理由はいくつか考えられますが、その一つとして挙げられるのはなんといってもやはり隠蔽魔術でしょう。
ということで、次回は来週(次)の土曜日の零時に投稿します。




