親衛隊との戦闘その3
ブラッキーは黒い煙幕をシルイトの前に展開して大男の視線からシルイトを外した。
自分の姿が完全に隠れたことを確認したシルイトは後ろを向いてイシルディンを動かし始めた。
人間の身長ほどもある巨大なナニかができはじめている。
しかし、それを黙って待っていてくれる大男ではない。
「何をするつもりなのかはわからんが、みすみす黙っているわけにもいかんな」
そう言うと、大男は再びふんっ!と声をあげた。
すると大男から魔力の塊が黒い煙幕めがけて飛んで行った。
一見すると致死性がないその攻撃は手加減をしているかのようにも見えるが、まともに当たれば気絶は必至の攻撃である。
どうやら大男はシルイトを殺さずに生け捕りにしたいようだ。
だが、その攻撃がシルイトにあたることはなかった。
魔力の塊は突如現れた障壁によって完全に遮られる。
「ますた、防衛は私に任せてください」
「ああ、頼む」
始めからコンフィアンザが守ってくれるだろうと思っていたシルイトは特に驚くこともなく作業を続けていた。
数秒後、シルイトの目の前には口径が一メートル近くもある巨大な砲台のようなものが出来上がっていた。
ただ、普通の錬金術による砲台と違って砲身が二メートル近くありかなり長いものとなっている。
「ありがとう。目くらましはもういいよ」
そう言われたブラッキーは一度シルイトの方を見て巨大な砲台を見つけると少し驚いた。
「それが秘策ってやつね。まさか銀白色がこんな風にも使えるなんて。弾も銀白色の奴?」
「そうだよ。本当はあんたを倒すために開発してたんだけどね」
少し慄きながらも煙幕を解除したブラッキー。
それに合わせてコンフィアンザも障壁を解除した。
「実戦に投入するのは初めてだけどいい実験材料になるな」
「はい、ますた」
「よし、電磁砲型錬金魔術ルクスリスを準備段階に移行する」
シルイトがそういった瞬間、巨大な砲台全体が小刻みに振動を始め、砲身からは煙が出始めた。
この砲台は各部を別々に形作ってそれらを組み合わせることで一つの物質に複数の特殊効果を付与できるようになっている。
例えば中心部分は弾を電磁的に加速させるために帯電化の効果が付与されており、砲身の内壁は弾の加速時の摩擦に耐えられるように熱量変化で超低温に保たれている。砲身から煙が出ているのは周囲の空気が急激に冷やされたことによって水蒸気が水に戻ったことによる現象だ。
弾自体は威力を押さえるために極めて小さく造られたイシルディンを使用している。
大男も並々ならぬ気配を感じ取ったのか砲台に向かってまたしても魔力の塊を放ったがまたしてもコンフィアンザが障壁を張って防いだ。
「俺はどんな攻撃でも防ぐ男だ。そんな即席の砲台では俺を倒すことはできない」
発射前の砲台をつぶすことをあきらめたのか大男は防御に徹することに決めたようだ。
何かの魔術を発動したようで、大男の体がうっすらと光り始める。
そうこうするうちに発射準備が整ったのかシルイトは砲台に向けていた目を大男に移した。
「オッケーだ。発動するぞ」
「あ、ますた。障壁をまだ解除していません。少しお待ちを」
大男からの攻撃に備えて再び張った障壁は依然として弾道をふさぐようにして存在していた。
「この程度の障壁は問題ない。下がっていろ」
シルイトがそう言うと、コンフィアンザはそれ以上何もせずにおとなしく砲台の後ろへ下がった。
「電磁砲型錬金魔術ルクスリス、発動」
直後、砲台が銀白色に輝き大男のもとへ一筋の光がコンフィアンザの障壁を突き破ってきらめいた。
音もなくそしてあまりにも一瞬のことに横目で見ていたブラッキーも唖然としている。
光が収まって大男の方を見ると両足が完全に消滅していた。
しかしなぜか出血はしていない。
「摩擦熱によって傷口が瞬間的にふさがれたんだよ。死にはしないだろうが戦うことはできないだろうな」
シルイトがコンフィアンザに講義をするように言った。
この世界で初めて電磁砲が使用された瞬間である。
この後、百年以上あとに電磁気を利用した物体の加速法を実用化できるだけの電力を作れるようになった錬金術士が似たような性能のものを開発することになるがシルイトは既にこの時実戦ベースのものを開発していた。
まさに錬金術による電磁気の存在と実用化できるだけの電力を造れる魔術を合わせたことによる錬金魔術の成果と言えよう。
他の親衛隊員も今のシルイトの砲撃で大男が倒れたのを見ていったん退却することを決めたらしく、大男を拾いつつ風のような速さで退散していった。
「なに?今の砲撃」
ブラッキーが耐え切れずにシルイトに聞いたがシルイトはどこ吹く風である。
「だから言っただろ?対ブラッキー用に開発していた新兵器だ」
「あんなの撃たれたら一瞬で塵になりそうなんですけど」
「塵も残らないだろうな」
「・・・」
それっきりブラッキーは黙ってしまった。
一方でずっと親衛隊員二人とにらみ合いを続けていたゴールディアンは自身の周りに展開していた光の壁を解除した。
「敵性勢力の撤退を確認。ペンサンドの鍵を施錠します。指定魔術師による鍵の封印を推奨します。封印しますか?」
また無機質な声で自身の能力の封印を推奨するゴールディアン。
「どーするシルイト君?」
「封印しないこともできるのか?」
「まあやめた方が良いと思うけど」
「なら封印で」
シルイトが言った途端、ゴールディアンがビクッと肩を揺らした。
「指定魔術師による封印命令が下されました・・・封印完了。人格の変化に注意してください」
どうやら本当に人格が変わったらしくゴールディアンから発せられるオーラが変化した。
「なんで俺の言葉でこいつが反応したんだ?」
「それについては私たちの家に来てから説明した方が早いわね」
「お、とうとう見せてくれるんだな」
「まあね、とりあえずシルイト君の実家から行くのが安全上一番いいだろうからとっとと移動するわよ」
着いてこいと言ってブラッキーは扉から外に出ていった。
シルイトは抱えていたルトゥカ入りの袋をコンフィアンザに奪われて手には何も持っていない状態だ。
素早く砲台をイシルディンの集合球体に戻すとゴールディアンの背中を押しながら扉から出ていった。
コンフィアンザもマスターに荷物を持たせるわけにはいかないと袋をシルイトから受け取って自分で肩にかけながらシルイトについて行った。
四人はブラッキーの案内で正規でないルートを通って壁の外へと出てそのまま王都の外へ出た。
やがてウィスターム邸に近づく頃にはもう夕暮れになっていた。
「時間的にもちょうどいいわね」
「家に戻るのに時間が関係するのか?」
「別にいつでも戻れるけど少し目立つ移動法を使うからなるべく周囲が暗い方が良いのよ」
ブラッキーはシルイトの質問に答えるとネックレスを服の内側から外に出した。
ネックレスの先には小さな笛があり、ブラッキーはそれを口に含んで思いっきり吹いた。
高く、そしてよく通る音がウィスターム周辺の森を響き渡る。すると、数秒後に低い咆哮が空から聞こえた。
「まさか・・移動法って・・・」
シルイトは少し怖気づいたような顔をしているが、それを見て満足した様子のブラッキーは得意げにこう口にした。
「そう。ドラゴンだよ」
その直後、二枚の翼をもつ巨大なドラゴンが二本足でシルイト達の前に降り立った。
見た目的には鳥に若干似ているが、その体表は羽毛ではなく鱗でおおわれ並みの攻撃ではかすり傷すら負わせられなさそうな様相を呈していた。
「まさかこれに乗るのか・・?」
「そうなるね」
ブラッキーは相変わらずのニヤニヤ笑いでゴールディアンは何を考えているのかもわからない無表情。
コンフィアンザは特に恐怖は感じないらしく、四人の中でシルイトだけがおびえていた。
「ますた、大丈夫です。いざとなれば私がついています」
「ああ、ありがとう・・」
そうして後に叫び声を残しつつ四人はドラゴンに乗って夜空へ消えていった。
次話も来週の土曜日の零時に投稿します。




