第五十三話 人見知りな魔法具師
『……さ、先程は、と、取り乱してごめんなさい。私、ひ、人見知りが激しくて』
カーテンに身体を半分だけ隠し、こちらを覗き込むような姿勢で魔法具店の店主が告げてきた。
その伝え方も口頭ではなく念でだ。俺の使う念話と一緒だな。なんか口だと恥ずかしかったり声が小さかったりで埒があかなかったのだけど、念話だとある程度平気らしい。
うん、ツッコミどころは本当に多いけどな! カーテンで半分だけ隠してどうするんだ、とか、そもそも人見知りが激しくて恥ずかしがりやなのに、なんでそんな色気ムンムンな露出度の高い格好してるんだとか!
「エッジがあんなに怒鳴るからいけないんだよ。ほら、ちゃんと謝らないと」
……俺が悪いのか? すげーミラにジト目を向けられてるんだけど。いや、だって、あの程度で泣くなんて思わないだろ普通。
『ごめんなさい……』
でも素直に謝った。なんかミラにそういう目で見られると弱いんだよな俺。
「エッジも反省してることだし、僕からも謝るよ。ごめんね」
「……え――んな」
『そこは頼むから念話で続けてくれ。話が進まない』
「…………」
「あ! エッジまた!」
『ちょっと待て! 俺は今のはやんわりと言ったぞ!』
いまのの何が悪いってんだよ!
『ご、ごめんなさい、ち、違うんです。話を聞いてくれようとしてくれたのが、う、嬉しくて――』
え~……そこかよ。また涙目になってるし。まあ、今の話で行くと嬉し泣きって感じなようだけど。
『――私、こ、こんな感じなので……い、いつも結局、だ、誰も話を聞いてくれないんです』
「そっか……それはつらいよね」
いや、ミラは随分と同情的だけど、それでよく商売成り立つよな。俺はそっちの方が気になるよ。
『あ、その自己紹介がまだでしたね。わ、私、私――』
そして思い出したようにダークエルフの彼女が自分の事を告げてこようとするが、なんかすげーわたわたしてる。
……ちょっと可愛いと思ってしまったぞ。
「……し――ュ……す」
『いや、無理して口で伝えようとしなくていいから、念で頼むよ」
これじゃあさっぱりわからないしな。
『うぅ、な、なんか申し訳ないです』
「いいんだよ~無理しないで。あ、僕はミラで、こっちの意地悪な剣はエッジね」
『誰が意地悪な剣だよ!』
全く。ま、ミラもからかい半分ってとこらしいけどな。ペロッと舌出してるし。
『わ、私はマージュです、ま、魔法具師をしてます』
うん、まあ、それはなんとなくわかってるけどな。その魔法具を買いにきたわけだし。
「そっか~マージュさん宜しくね」
『は、はい、わ、私の事はマージュでいい、です――』
う~ん、念話でも妙に照れがあるなこの子。
『ところで、念話で指定した人物以外にも声を聞かせるのはLVいくつから可能なのかな?』
それはそうと、ふと気になったから尋ねてみる。マージュの念話は俺にもミラにも聞こえているみたいだからな。
『れ、LV2から、か、可能です、ね』
……何か俺に対しては、ミラよりも更にビクビクしてる気がするな。念なのに。
まあ、最初泣かせちゃったしな……。
『あ、あの、ほ、本日はそれを聞きに?』
マージュが窺うようにしながら尋ねてくる。顔色を窺ってるようでもあるな。
『いや、今のはちょっと俺が思いついただけだ。メインはミラの用件の方だな』
そう告げた後、俺は後をミラに引き継いだ。それにしてもこのダークエルフも、俺が会話出来ることに驚いている様子はないな。
アロマの言っていたように、俺みたいなのはこの迷宮じゃ珍しくないってことか。だとしたら他にどんなのがいるんだろうな。
『――あ、アクアシャークや、え、エレキエイ、を相手にです、か』
「うん、それでアロマに紹介してもらってね。魔法が使えるようになる腕輪というのがあると聞いたのだけど」
『は、はい、あります。魔法の腕輪。で、でも種類が色々、あるので――』
そこでようやくカーテンから姿を見せたマージュが、色々と腕輪を持ってきてカウンターに並べてくれた。
『こ、こっちが火属性の魔法が使えるようになる腕輪で――』
マージュが説明してくれたが、どうやら補助属性と同じ分の腕輪があるようだ。
各属性によって色が分かれていて判りやすいな。どういうことかと言えば、火の腕輪は赤、水の腕輪は水色、風の腕輪は緑で土の腕輪は茶色だ。
そして氷が水よりも更に濃い青色、雷が金色、闇が黒で光属性が白だな。
「こんなに種類があるんだね、あ、じゃあこっちの銀色のは?」
『これは、無属性ですね。これだけだと魔石がない状態で魔力を放出するぐらいしか出来ません。ただこれは魔石を入れ替えることで使えるようになる魔法が変化するという利点があります』
このダークエルフ、魔法具の話になるとひっかかりもなく饒舌になったな。念話だけど。でもそのあたりは流石魔法具師といったところか。
とは言え、気になるワードがあったな。
『その魔石ってなんなんだ?』
『え、え~と魔石というのは、ま、魔法の結晶を集めて、つ、作る特殊な輝石で――』
だけど魔石の説明になるとまたしどろもどろになった。とりあえず説明を纏めると、魔石は魔晶を集めて作る物で、魔法具にはなくてはならないものなようだ。
そしてこの腕輪に嵌めるタイプの大きさの魔石を作るには、低品質の魔晶で8個、普通ので5個、高品質で3個、そして最高品質なら1個でもいいようだな。
この必要な数は必要な属性にあった魔晶となる。つまり火の魔石なら火の魔晶を集めて作るってわけだな。
そして魔法の腕輪には魔石を嵌め込める孔が3箇所ある。魔石を嵌める数で使用できる魔法が変化する仕組みで、当然多いほうがより強力な魔法が使える。
注意しないといけないのは、例えば火の腕輪なら嵌め込める魔石は火属性のみというように属性毎に嵌め込める魔石が決まってることだな。
ただ、さっきマージュが言っていた無属性の腕輪だけは、どの属性の魔石でも嵌め込める。これによって例えば火の魔石×1、水の魔石×1、風の魔石×1と嵌め込めば腕輪1つで火と水と風の魔法が使えるようになることになる。
尤も当然この場合、どの魔法も魔石1つ分の魔法しか使えないってことになるわけだけどな。
ちなみにマージュからはミラに魔導力とMPがあるかも聞かれた。これがないとたとえ魔法の腕輪をしてても魔法が使えないからだそうだ。
魔法の腕輪はあくまで魔法を覚えていない人間でも魔法を使えるようにする為の物で、本来は火の魔法が使えても他の魔法が使えないというタイプの者が、足りない分を補うために購入するらしい。
ただ、ミラは魔法は使えないけど魔導力とMPはあるからな。使用するのに問題はないだろう。
『そ、それなら、問題なさそうですね』
「うん、良かったよ~でも、何か話を聞いているとその無属性の腕輪が一番使いやすいそうな気もするね~」
『そうだな、無属性なら魔石を交換するだけで魔法が切り替えられるわけだしな。現状魔法が全く使えないミラには一番良さそうだ』
「うん、これなら魔法が使えない僕でも、これ1つで色々と使えそうだもんね」
『あ、はい。確かにそういう意味では、む、無属性の腕輪は、特殊な金属で、で、出来てるので、魔石がなくても、魔力を放出出来るのも、り、利点ですし』
あ~そういえば今さっきもそんなこと言っていたな。
「その魔力の放出ってどんなのなのかな?」
『は、はい、腕輪を嵌めた方の手のひらを相手に向けて、魔力を、ぶ、ぶつける感覚で、ね、念じると使用できて――』
ふむ、どうやら属性の伴わない純粋な魔力のみの攻撃なようだ。ただ、話を聞いていると水の中だからと影響を受けることはないから、十分にMPを乗せられるならアクアシャークやエレキエイ相手でも通じそうだな。
『他の腕輪だと、その属性にあった魔石も購入する必要あるらしいから、無属性の方が魔石がすぐに必要ではない分いいかもな。ただ問題は――』
「うん、そうだね。え~と、それでこの腕輪はいくらぐらいするのかな?」
『は、はい、1、1500マナです……』
……うん、全然足りないじゃねーか!




