第五十二話 魔法具店へ
あ~、相変わらずいい槌捌きしてやがる。超気持ちいいーーーー! こんなおっさんに、おっさんに、うぅ――
と、それはそれとしてだ。
『なあドゴン。さっきミラになんであんなことを聞いたんだ?』
「……」
だ、だんまりか。聞こえてない――て、ことはないよなやっぱ。
そして若干手つきが雑になった気がする。些細の変化だけど、動揺したのか?
『ドゴン、今のでちょっと仕事が雑になったぞ』
「……チッ、俺としたことが」
で、すぐに軌道修正した。このあたりは流石だな。
『なあ? そんなにいいにくいことなのか?』
ドゴンの方からミラに聞いておいてなんでだよって気もしないでもないが。
「さっきもいったろ。守秘義務があんだよ」
守秘義務ね――まあ、言いたくないなら無理してこっちも聞かないけどな。
『じゃあそのことはもういいさ。それで話は変わるんだけどさ』
「今必要なことなのか?」
仕事の邪魔すんなとでもいいたそうだな。まあ、直してもらってるのが俺だしな。
だから、とりあえず俺の修理が終わるまでは待った。
で、防具の手入れに入ったところで改めて聞く。
『さっきの続きなんだけどさ。アロマの店に行ってスキルのLVについて話したんだけど、アロマは進化PTのことを知らないって言ってたんだよ。俺はこれでスキルのLVを上げたりが出来るんだけど、ドゴンはそのことについて何か知ってるかな?』
「は? 進化PTだ?」
ドゴンは一旦作業の手を止めて、そして顎に手を添えて考えてみせる。だけど返ってきた答えは――
「それは、俺も初めて聞くな。まあでも、そういう剣があってもいいんじゃないか?」
『え? あ、そうか? うん、まあ、そうなのかな――』
何か上手いことはぐらかされたような気もしないでもないけどな。
『ああ~、それとだ。ゴブリンロードは無事倒したんだけどな、一体逃げたゴブリンがいるんだよ。それが何か変わったゴブリンでね。ドゴンそんなゴブリンに心当たりあるかな?』
俺が更に質問を重ねると、ドゴンの手が金槌を振り上げたままピタリと止まった。
判りやすいなおっさん。
『その様子だと知っているのか?』
「知らんとは言わんがな」
だけど、そう応じると、金槌の動きを再開させた。それにしても革を手入れするのになんで金槌なのかといったところだけど、ドゴンによるとこの革はある程度叩いてやった方がいいらしい。
詳しいことは聞いてもよくわからないけどな。
「ただ、その手のは個体によって違うから説明は出来んな。だが、間違いなくゴブリンロードよりも厄介な相手だろう。油断しないことだな」
やっぱそうなのか。普通のゴブリンではないんだな。
でも、ドゴンもなんかはっきりしない回答が多いな。
そんなことを思っていたらドゴンが俺を掴んで作業場を出て、既に眠っているミラの横に置いた。
「お前はうるさくてかなわん。ここでおとなしくしてろ」
うん、見事に追い出されました。
「う~ん――」
『起きたかミラ』
朝が、来てるかどうかはさっぱりわからないけどミラが目覚めた。
丁度その頃には俺や防具の手入れが終わっていたな。そしてなんかカウンターにかごに入ったパンが置いてあった。朝食にってことなんだろう。
「それ食ったらとっとと行け。俺はまだ仕事が残ってるんだ」
一見冷たい言いぐさに思えるけど、パンに牛乳までつけてくれてて相変わらずのお人好しぶりだ。そしてどんだけ素直じゃないんだ。牛乳どっから持ってきたんだよ。
「うん、美味しい。ありがとうございます」
「余りもんだ。感謝されるほどじゃねぇ」
余り物多いなおっさん。
そしてミラも遠慮はしなくなったな。遠慮しても食えと引っ込めないしな。
さて、実際ドゴンも忙しそうだしな。だからミラと一緒に店を後にした。
その後は魔法具師の店に向かうことになる。
だからあの水門から――いくわけないな。手間になるけどゴブリンロードのいたあの場所に一旦戻った。
水門側からだとまたアクアシャークやエレキエイの相手をしないといけないしな。後々には依頼された手前狩らないといけないけど、魔法具なしだと色々面倒だ。
まあ、途中これといった相手も出なかったから戻るのは楽だった。
「さて、また潜らないとね」
『ああ、でも聞いた話だとそれほど距離も離れていないみたいだから、タイミングを見計らっていったほうがいいな。出来ればまだ薬に頼りたくないし』
「そうだね~じゃあ――」
そう言ってミラは、鮫の背びれが離れているタイミングを見計らって――飛び込んだ。
……は? おいおい! 下が水だからって結構高さあんだぞ!
『ミラ! 無茶しすぎだ!』
「大丈夫だよこれぐらいなら」
と、ミラが口にしてすぐ、バシャーーーーン! と派手な水飛沫が上がった。おいおい――
「ぷはぁ~ね? 大丈夫だったでしょ?」
『どこがだ! 今のでアクアシャークに気づかれたぞ!』
「え? ……あ――」
ミラの顔が引きつった。当たり前だろ、あんなに派手に飛び込んだら気づかない方がおかしい。
「失敗失敗、あはっ……」
『あはっ! じゃない! 早く泳ぐんだよ! 食われるぞ!』
そしてミラも慌てて目的地に向けて泳ぎを開始。
時折天然すぎなところがあんだよなこいつ――
とは言え、実際それほど距離もなく、魔法具師の店があるという場所まで出ることが出来た。途中に勾配があって、そこを上れば地面に出れたわけだ。
わりと危なかったけどな! すぐ後ろまでヒレが迫ってたし!
『本当、少しは気をつけてくれよ……』
「あはは、ごめんね~」
頭を掻きながら申し訳なさそうにミラが言う。まあ、反省してるならいいけどな。
そしてそのまま奥へと向かう。特に魔物の姿はなく、あっさりと最奥まで辿り着くことが出来た。そこまで距離もなかったしな。
で、奥の壁にはやはり扉。でも、やたらと黒い扉だ。なんだろうか、雰囲気が不気味だ。
でもここにしか扉がないから、やっぱこれがその魔法具師の店なんだろうな。
『う~ん、妙な雰囲気を感じるな』
「あはは……でも入らないと始まらないよね」
そりゃそうだ。と、いうわけでミラが扉を開けて中に足を踏み入れる。
「お邪魔しま~す」
そして店の中に入るわけだが、なんか店の中が薄暗い。ドゴンやアロマの店とはまたガラリと違うな。
ただ、店内には棚があって、そこに水晶だったり腕輪だったりとそれっぽいのが陳列されている。杖も壁に掛けてあったり筒の中に入ってたりするな。ここが魔法具師の店というのは間違いなさそうだ。
そして奥には黒いカーテンで仕切られていて、一体どんな様相なのかはこちらからは掴めない。
「え~と……あの、どなたかいらっしゃいますか?」
ただ、店に入ってまだ反応がないのでミラが再び声をかける。
すると、カーテンが揺れ、そしてシャーッと開いて店主らしき人物が姿を見せた。
まあ、奥から出てくるんだから多分店主だろうとあたりをつけただけなんだけどな。
でも、間違いはないとは思う。そして――姿を見せたのは随分となんというか、美人ではあるんだけど凄く淫靡な雰囲気漂う女性だった。
背は高いな。高身長で、そして肌は褐色だ。髪の毛は肩まであって銀髪。三角帽子を被ってマントも羽織ってるんだけど――格好が凄いきわどい。
本当、露出度が高くて胸もなんかすげー大きい。アロマも迫力があったけど、この女性はそれ以上だな。しかもV字にカットされたドレスだから谷間がもう凄いことになってる。
でも、何より特徴的なのはその耳だな。長いんだよな耳が。先がちょっと尖ってるし。目も切れ長で美人だけど気が強そうに思えるな。
「あ、もしかしてエルフ……」
すると、ミラが彼女を認めながら思い出したように呟いた。
エルフ……それは俺の記憶にもあるな。そういえば確かにエルフはこんな容姿をしていたと思う。ただ、この肌の色はエルフはエルフでもダークエルフと呼ばれる種族特有のものなような、そんな気がするな。
「…………ゃ……せ」
て、うん? 今なんかこっちを見て唇を動かしたんだけど、なんだ? 何を言った?
『ミラ、今何か言ってたみたいだけど聞こえたか?』
「え? あ、え~と、ちょっとしか……」
『だよな~』
「…………に――ょか?」
……また、何か言ってるけどさっぱり聞こえないぞおい。
「……で――ん……す――」
『いや! もっと大きな声で話せよ!』
そんな聞き取れない喋りが続くもんだから、つい念で怒鳴ってしまった。会話出来る剣は珍しくないって話だしもう俺もその辺も気にしてないしな。
……でも、おかげですげービクッとされたけどな。
いや、だってさ、これじゃあ話にならないし。
「あ~! エッジ女の子泣かせたー!」
へ? 泣かせたって……あ、本当だ頭を垂れてなんかしくしく泣いてる。
え~……いやだって、そんなことで泣くなんてよ――見た目のイメージと違いすぎだろ……。




