第七十六話:お宝発見
お宝発見の報に、発掘現場では歓声が上がっていた。
お宝さえ見つかってしまえば発掘師たちの動きは速い。
いくら高橋さんたち宵の月のメンバーが新人の集まりであろうと、それぞれが役割を自覚しているように効率的な動きで現場が慌ただしくなった。
縦穴には瞬く間にスロープが掘られ、その先に続く坑道からは手押し車に載せられた土砂やガレキが次々に運び出されてくる。
坑道には大量の木材が供給され、その奥からは木を打ち付ける音が響いていた。
「盛況みたいだな」
「うん、今お宝が見つかったところ」
「ちょっと覗いてくるよ」
「邪魔しないようにね」
「もちろん分かってるさ」
遥に声をかけ、作業の邪魔にならないように注意して坑道に潜った。
中に入ると、奥行きはそれほどでもないが、広げられた坑道の壁の底からぐしゃぐしゃになった車が顔をのぞかせていた。
発掘師たちは車の上部を掘り広げていて、その周囲を木枠で固めている。
天井部には太い木の根も露出していて、それを傷つけないような配慮もなされていた。
いたる所からコンクリートや鉄筋が顔をのぞかせているところを見ると、ビルと一緒に攪拌されたのだろうということが想像できる。
「かなり大変そうだな」
「ああ、空君。そうだね、きっちり補強を入れないとどんどん崩れてきちゃうから確かに大変さ。でもある程度固めたら後は楽になるよ――」
作業を見守っていた高橋さんに声をかけ、話をしている間にも作業はどんどん進められていく。
阿古川哲也や鈴音ちゃんも、木材を運び込んでは支柱を立てたり天井や壁を補強したりして坑道はどんどん広がっていった。
「もうろそろかな」
そう言った高橋さんが指示を出し、最初の一台が引きずり出されようとしている。
体格がいい三人が引っ張っているが、何かに引っかかったように車は出てこない。
「よし、俺も手伝うかな」
「空君のパワーは凄いからね。そう言ってくれると助かるよ」
「おう、力仕事は任せてくれ」
見ているだけだと冷やかしているようで一生懸命働いている発掘師たちに悪いと思ったし、思い切り体を動かしたいとも思った。
地中というかガレキの中に埋まっている車を引きずり出すのは、かなり力がいる仕事だ。
自慢じゃないが、力仕事は誰にも負けないくらいの自信がある。
「俺にも手伝わせてくれ」
「あ、助かります。空さん」
車に手をかけて必死に踏ん張っていた発掘師のひとりに声をかけ、彼が手を掛けている横を掴んで引っ張った。
俺の横にいた彼が声を張り上げる。
「動きだしたぞ! ガレキが崩れないように注意な」
「了解!」
ズルズルというよりはガシャガシャと薄い金属が擦れあう音をともない、つぶれたワインレッドのセダンが地中から引きずり出された。
そのあとを見ると、鉄筋を含むガレキと混ざり合うように数台の車が顔をのぞかせていた。
土はほとんどなくスカスカだが鉄筋やアルミの窓枠、そしてひしゃげた車の外装が絡み合うように押しつぶされていた。
その隙間からは、外気よりもかなり濃い”気”が溢れるように染み出していて、顔を出している金属部分の錆が非常に少ないことも頷けるものだった。
お宝の腐食状態としては非常に良いが、かなり潰されたり引き千切られたりしているので部品の状態は分解してみるまで分からない。
しかし、これだけの金属量があれば、量が量であることから、今見えているだけでもかなりの金額になるだろうと予測できた。
「これはいったい、どこまで続いているんだろうね」
そうしみじみと呟いた高橋さんに、分かっている概略を告げる。
「この塊だけで四~五十台くらいじゃないかな。このままかなり奥まで続いているはず。鉄筋ガレキの鉱脈を辿ればそれこそ何キロもこんな塊が点在しているよ。もっと凄まじいお宝も確認したし」
「それは凄いや。でも、この塊だけでもボクたちだけじゃ捌くのに何往復もしなけりゃならないね。いや、まだ道もないしな……」
高橋さんが言うとおり、ここまで道は通っていない。
というか地下街の位置でも、馬車が通れるようなまともな道はないのだ。
確かに大量のお宝は出たが、その運び方には悩まされることになるだろう。
「これは早いとこ報告してこのあたりまで道を通してもらうしかないな」
と、そんなことを考えている間にも次の車が引きずり出された。
最初のセダンが無くなったことと、さらに周囲が掘り進められたことでスペースが広がり、発掘作業がだいぶやり易くなったようだ。
もう俺の力は必要ないだろう。
そう考えて坑道を出た。
「どうだった?」
部品バラしのコツを教えていた遥が聞いてきた。
実際にお宝が掘り出されたことで、バラしに参加している発掘師たちの表情も明るい。
「うん、まだまだどんどん掘り出されるよ。車四~五十台の塊が出たから。コイツは最初の一台」
「わたしが調べたときも沢山あるって思っていたけどそれほどだったとはね。今の作業スペースじゃ足りなかったか」
そんなことを遥が言っているうちにも、次の一台が坑道から運び出されてきた。
かなりの木々を伐採して二十メートル四方ほどを作業スペースとして更地にしてあるが、間違いなくすぐに車の山で埋め尽くされてしまうだろう。
「よし、作業スペースを広げるか」
「それじゃあ、あっちで作業してる哲也君と一緒に広げてくれるかな」
「OKOK任せとけ」
坑道口の周囲には作業スペースとテントスペース、そして煮炊きをする竈スペースが割り振られている。
そのまだ空いている作業スペースで、伐採した木材を鉈で割いて坑道補強用の木材をせっせと準備している阿古川哲也に声をかけた。
「なんか作業スペースが足りないらしい。今の四~五倍の広さにしたいから手伝ってくれ」
「補強用の木材はもういいのか?」
「ああ、今のところは足りてるみたいだ」
このあたりの森は、遥と最初に拠点にした場所に比べて巨木の割合が少なかった。
ただし、直径三十センチほどの針葉樹がかなり密集しているから伐採する本数はかなりに量になった。
結局、作業スペースの隣に新たなスペースを作って伐採した木材を積み上げたのだった。
刀は持ってきてないので伐採には”気”の刃を使っていたが、伐採しなければならない本数を数えて嫌気がさした。
そんなことをしていては、いかな俺でも”気”を放出しすぎて体力が持ちそうにない。
だから途中から斧を借りて伐採に励んだ。
「こんなもんかな」
「十分だと思うぞ。あとは切り株だがどうする? 空」
木材は坑道補強の材料として有効利用できるが、切り株に利用価値はない。
しかもこの数になると引っこ抜くのも骨が折れそうだった。
「こればっかりは俺たちだけじゃキツいな。分解作業に取り掛かる前に皆に協力してもらおう」
「それもそうだな。おっ、サンキューな美奈ちゃん」
「空さんもどうぞ」
「ありがとう、水瀬さん」
切り株に座って手ぬぐいで噴き出す汗を拭っていたら、水瀬さんが水を持ってきてくれた。
冷たくはなかったが、それでも汗が噴き出す火照った体に染入るよに美味く感じる。
体が水分を欲しているということだろう。
このまま水分補給もせずに作業を続けたら、間違いなく熱中症になっていたはずだ。
それはおいておくとして、もともと準備してあった作業スペースがついに一杯になり、切り株だらけの新たな作業スペースにも車が運び込まれてきた。
もちろん車はグチャグチャのベコベコだ。
「面倒をかけるけど切り株は自分たちで抜いてくれないか」
「ずいぶんお疲れみたいですね。ここまでやって頂いただけでも大感謝です」
そう言ってくれたのは活発そうな女性の発掘師だった。
顔に見覚えはあったが名前までは聞いたことがない。
いや、もしかしたら覚えていないだけかもしれない。
バレないうちにとっとと退散しよう。
そんなこんなで日が傾くころには新たな作業スペースも満杯になり、分解作業は明日に持ち越されることになった。
俺と遥の役目はすでに終わったと思い、尋ねてみると。
「うーん……協会に報告するまでは同行したほうがいいかな」
と、遥かに指摘され、よくよく考えてみれば確かに今の状態で丸投げするのは無責任すぎたかなと考え直すことにしたのだった。
新たに『才強学者は異世界で成り上がる』http://ncode.syosetu.com/n4292ed/を投稿しました。
もしよろしければご一読ください。
この作品は『自力トリップ~ある科学者の異世界成り上がり~』の改稿版で、主要パートを一人称の主人公視点に変更したものです。原作の余計な描写を削り、悪文を改善し、セリフやストーリーの一部を変更し、読みやすくしたつもりです。エピソードも新たに数話書き起こしました。
改稿は完結まですべて終わっていて、誤字脱字のチェックをしながら随時投稿していきます。




