第七十五話:試掘
高橋さんたちのチームである宵の月、阿古川哲也に水瀬さん、そして鈴音ちゃんとも合流し、見つけた大鉱脈の試掘を明日の朝から行うことになった。
しかし、その前に取り決めをしておかないといらぬトラブルを招きかねない。
いくら気心の知れた人たちであろうと高橋さんたちは別のチームだからだ。
「高橋さん、明日の取り決めとかいろいろ話しておきたいんだけどいいかな」
「もちろんOKさ。でも空君、ほんとうにボクたちで良かったのかい――」
高橋さんの言葉は遠慮から来るものではなく、彼らのチームが贔屓されることに対し、協会やほかの発掘師との間に何らかの軋轢が生じるのではないかという懸念から来たものだった。
「そのへんは問題ないですよ。高橋さんたちがたまたま一番近くに居たわけだし、俺と遥だけじゃ試掘に時間がかかる。それに第一試掘したお宝を協会まで運ぶのが俺たち二人だけじゃ大変だったから」
「そう言ってもらえると有難いんだが、しかしな……」
そう言って高橋さんは考え込んでしまった。ここはもうひと押ししておくべきだろう。気持ちよく試掘を手伝ってもらわないと後味が悪い。
「それに高橋さん、一番浅い部分にあるのはたぶん自動車の塊だと思う。台数はかなり多いから一回では運べそうもないよ。次に来るときは他の発掘師にも声をかければいいし。まぁそのへんは高橋さんに任せるつもりだけど」
「それじゃぁ空君たちの取り分が」
「そこは心配しなくて大丈夫。俺たちは鉱脈発見者としての取り分が確保できるから。それに俺がやっていた鉱脈探査は国からの依頼だしね。かじ取りは国と協会がやってくれるよ」
「そこまで大事だったんだ。ということは試掘する鉱脈は……」
「うん、かなり大規模なものになる。たぶんだけど豊田鉱山クラス」
「それは驚いた。そんな大規模鉱脈がこの下に眠っているとはね」
実際はもう少し離れたところから鉱脈ははじまっているが、今はそのことについて言う必要はないだろう。
話は少し変わるが、鉱脈の位置さえ把握できれば一流の発掘師ならば別の採掘口も発見できるはずだ。だから俺は試掘には参加せず、鉱脈の広がりを調査して地図にまとめるつもりでいる。
「ということで試掘の取り分なんだけどね――」
試掘は宵の月と俺を除いた仲間たちに任せようと考えていることを説明し、試掘したお宝の取り分について話し合った。
高橋さんは換金額の七割五分を俺たちのチームの取り分にと提案してきたが、俺はその提案を断った。
「俺たちの取り分は六割でいいよ。人数は宵の月が圧倒的に多いからね」
「それはそうなんだが……」
人手が足りずに発掘を手伝ってもらうときには、取り分に関する暗黙の取り決めがある。
お宝発見の権利が五割、残りを人数に応じて等分するのが通例になっているのだ。
宵の月と俺たちの人数比は約四対一。
だから俺たちの取り分は六割になるというわけだ。
お人よしの高橋さんはチーム同士で取り分を折半しようと考えたようだ。
「六割は通例にのっとった数字だから遠慮することはないよ」
「そう言ってくれると助かるよ。たまたま空君に会えた幸運をチームの皆で分かち合うことにしよう」
そんな話し合いがあって翌朝、宵の月と仲間たちを試掘口の予定地へと俺は案内した。
そこは何の変哲もない平坦な森の中で、探査が得意なベテラン発掘師でないと気づきもしないだろう場所だった。
普通はなにか手がかりになるものが露出していると遥が言っていたことを思いだす。
「ホントにこんなところの下に鉱脈が?」
不思議そうにしている遥に、俺は自信をもって頷き返す。
「分かったわ。確かめてみる」
立った状態では確認できなかったのだろう、遥は地面に右手をついて”気”を集中しはじめた。
「確かに……鉄の塊があるわね。しかもスゴク大きい」
その一言で現場は俄かに色めき立った。
発掘師なら誰でも大きなお宝反応を夢見ているからだ。
「さすがだわ、空。普通はこんな場所素通りするからね。なんで見つけられたの?」
「それは――」
走りながら常時足の裏から地中深くまで”気”を放出しているからだ。
それを説明したら皆から呆れられた。
「始祖じゃなきゃそんなことは出来ないわ」
すこし呆れ気味な遥の指摘に、皆は深く頷いて納得しているようだった。
そんな中、気合を入れなおすように高橋さんが声を上げる。
「皆聞いてくれ。お宝の反応は遥さんが保証してくれた。掘るぞ! いつものように役割に従って動いてくれ」
その声に発掘師たちの歓声が上がり、それぞれが慌ただしく動きだした。
その様子はまるで、止まっていた時が再び動き出したかのようだった。
遥が指示を出し、鈴音ちゃんや宵の月のメンバーがツルハシを振るいはじめた。
食材を集めるために森に入っていく者たちもいる。
皆が皆自分の役割を理解して積極的に行動する様は、宵の月がよくまとまったチームであることを物語っていた。
「空、お前はどうするんだ?」
そんな中、声がかかった。
「哲也か。俺は鉱脈の地図を作ろうと思ってる」
「地図?」
「ここを起点にしたお宝の分布図だよ。協会に報告するには必要なものだし、あまり大人数で寄ってたかって掘っても効率が悪いだろ?」
「それもそうか。じゃぁ俺は掘るほうで頑張るよ」
遥にはあらかじめ鉱脈が伸びる方向とその深さの概略を伝えてある。
だから彼女に監督役を任せ、俺は地図作りに専念することにした。
阿古川哲也は遥に指示を仰いて周囲の木々を切り払っている。
どうやらこの周辺に拠点でも作るつもりだろう。
「ちょっと聞いてくれるか、遥」
「なに?」
忙しく指示を出していた遥を邪魔するようでちょっと気も引けたが、声もかけずに離れるのは彼女に悪い気がしたのだ。
「さっき話したとおり監督役は任せるよ。俺はこれから鉱脈の広がりをメモって地図を作るから」
「現場監督の件は任せて。でも、時々でいいから確認に戻ってきてね」
「うん、そうする。熱中しすぎて食いっぱぐれるわけにもいかないからな」
「美味しい料理を準備して待ってるわ」
そんな優しい遥の言葉を耳に残し、俺はメモを片手に森の中へとその身を躍らせた。
すでに鉱脈があることは分かっている。
だからメモにはその深さと密度を大雑把に書き込んでいくだけだ。
上空から調べられれば楽な作業に思えるが、森の上からでは地中深くにある鉱脈を探ることは出来ないのだ。
だから地道に森の中を走り、足の裏から伝わってくる地中の金属反応を記録していく。
場所さえ分かっていれば、多少深くてもベテランの発掘師なら到達することができる。
だからメモには深さ一キロ近くまでの情報を書き込むことにした。
そして浅い部分には星印を書き込んでいく。
浅い場所は将来の発掘口になる可能性が高いからだ。
「もうそろそろ一旦戻るか」
地図作りに集中していたらいつの間にか陽が頂点に達していた。
俺は午前の約六時間で起点から南半分を、かなり大雑把ではあるが探査し終えていた。
鉱脈は起点から西の方角に二十キロメートルほど広がっていて、南には五キロほどのところで地中深くに消え去っていた。
もっと深いところにも鉱脈は繋がっていそうだったが、今そこまで調べる必要はないだろう。
「どうだ遥、試掘のほうは順調か?」
「あっ、お帰り空。お昼ご飯はもうすぐできそうだけどね。試掘のほうは地盤が緩くて苦戦しているわ――」
何度見ても遥の笑顔は俺を安心させてくれる。
しかし、試掘のほうはトラブル続きらしい。
報告が進むにつれて彼女の表情は渋面になっていった。
試掘口は直径三メートルくらいの縦穴で、深さ四メートルくらいのところから緩やかに下るように掘られていた。
そしてその穴には崩落防止の木枠が密に配置されているのが分かった。
木枠用に木を加工する発掘師も忙しそうに働いている。
最後には縦穴にスロープを付けてお宝を運び出す必要があるが、今はとにかくお宝までの道を掘り進めているところらしい。
「なるほど苦戦してるみたいだな」
「で、空のほうはどうだったの?」
「ああ、予定どおり半分終わったよ」
そう言って遥にメモを見せた。
「これは確かにスゴイ規模だわ。分布にもよるけど豊田鉱山よりも広いんじゃないかしら」
「なっ、言ったとおりだったろ」
「別に疑っていたわけじゃないわ。驚いているだけよ」
言い訳している遥が可愛いなーなんてことを考えていたら昼メシの準備ができたようだった。
献立はイノシシ肉のあぶり焼きと簡単な汁物だったが、森の中で仲間と食うメシは美味いもんだと実感し、心機一転午後の調査にとりかかる。
そして陽が傾いてきたころ、予定の範囲を探査し終えた俺は、遥たちが待つ拠点へと戻った。
「お宝が出たぞ!」
ちょうどそのとき、試掘口の奥からお宝発見の第一声が聞こえてきたのだった。




