第七十七話:発掘計画
運べるだけのお宝とともに俺たちは全員で発掘師協会に戻った。
もちろん発掘現場には俺の名前で権利を確保する目印を残してきた。
道中はしばらく整備されていない道が続き時間を取られたが、これも仕方がないことだと諦めた。
報告には協会を納得させられるだけの証拠が必要というか話が早くなるからだ。
「別段珍しいものでもないが、この量を持ってこられるとな。ついてこい、会長が待っている」
山岸さんは協会倉庫の大量に運びこまれたお宝の山を見てそう言うと、俺に背を向けてそそくさと歩き出した。
俺と遥がそれに続き、協会の応接室のドアを潜る。
高橋さんたちや鈴音ちゃんたち俺の仲間にはお宝の買い取り手続きを任せてきた。
「あいかわらず仕事が早いのう」
「俺としちゃずいぶん手間取ったつもりなんですけどね」
「にしても規模が違うわい。ちらと聞いた話だと豊田と同程度らしいとも。ん?」
「会長、これを見てください」
そう言って遥が五所川原会長に鉱脈の分布が記されたメモを手渡す。
五所川原会長はそのメモに最初はチラリと視線を落としたが、次の瞬間には顔を近づけて食い入るように見入っていた。
そしておもむろに大きなため息をつき、顔を上げる。
「はぁ、豊田どころじゃないわい。豊田を軽く超えておるぞ。これが本当ならな」
「間違いないはずなんですがね。まぁこればっかりは信じてもらうしかないけど」
「いや、信じとらんわけではないよ。お前さんの能力は分かっておるしの。ただ、規模が規模だけにおいそれとは承認できんということだ――」
五所川原会長曰く、俺が調べたあの地域は過去に何回かの調査が行われていたということだった。
その際にごく小規模の遺物発見はあったが、それが鉱脈に続いていることはなかったらしい。
通常発掘師は地上に出ているガレキだとか建物の痕跡を鉱脈の手がかりとする。
しかしあの地域にはそういう痕跡はあっても地表浅くまで鉱脈が露出している場所はなかった。
一番浅い場所でもあの深さがあったのだ。
一般の発掘師だと地表からは絶対に見つけられないだろう。
「――ま、そういうわけだからの。協会の調査隊が確認するまでちと時間をくれんかのう」
「そういうことなら」
「だがまぁ、お前さんの功績が空前絶後なのは間違いないだろうがな」
五所川原会長はそう言って俺の肩を叩き、笑い声をあげていた。
俗な言い方だが、俺としては利権さえ獲得できれば問題はない。
あの鉱脈はもともと自分で掘るつもりはなかったし、利権だけ貰ってあとは国に任せるつもりだった。
そんな下世話な話は置いておくとしよう。
とにかくこれで、陽一さんからの依頼は果たしたことになる。
俺としては当初から予定していたお宝を今すぐにでも探しに行きたいのだ。
とも一瞬考えたが思い直すことにした。
白状してしまうと、俺が狙っていたお宝は名古屋空港だった。
規模としてはそう大きくない空港だが、あそこには航空自衛隊の基地も併設されていた。
航空機ならば大量のアルミや、その他特殊な金属がふんだんに使われているはずだ。
その価値は計り知れないだろう。
しかし、そんなことはどうだっていい。
名古屋で発見した鉱脈は予測を遥かに超える規模だった。
なにが言いたいのかというと、つまりもうカネを稼ぐ必要がなくなったということだ。
五所川原会長のあの慎重な態度を見れば嫌でもそれが分かった。
、トレジャーハントの魅力とは何だ?
そんな分かり切ったことを追い求めることじゃぁない。
もっとこう冒険に満ちた冒険を……って、日本語がおかしくなったな。
とにかく、もっと神秘的なところに行って何が出るか分からないワクワクする発掘がしたいんだ。
「そう思うだろ? 遥」
「えっ? いきなりどうしたの。そんなにキラキラした顔で嬉しそうにして」
「あっ、いや、ちょっといいこと思いついたんだ」
協会から自宅へ帰る道すがら、そんなことを遥かに話して俺は想いを新たにしていた。
五所川原会長との話を終えたあとも、今回のお宝買取りの手続きがまだ済んでいないようだった。
鈴音ちゃんや阿古川哲也にこれからどうするのか聞いてみると。
「この手続きが済んだら俺たちはまたあの現場に戻るよ。鈴音ちゃんも他の皆も同じ意見だ」
「そうか、なら頼むよ。俺と遥は他の仕事があるから、またしばらく別行動だな」
「新しい山でも探しに行くのか?」
「ああ、今度のところはちょっと危険な場所なんだ。哲也たちには悪いけど、今回はふたりで行こうと思ってる」
「分かった。頑張れよ」
とまぁそんなことがあって、屋敷に帰り着いた俺は一心不乱に計画を練りはじめた。
人員は遥とふたりきり。
戦力的には心もとないが、連れていける発掘師はかろうじて彼女だけだ。
それほど今回俺が行こうと思っている地域は危険に満ちている。
期間は長くなりそうだから問題は食料になる。
おそらく現地では食料が確保できない。
ならば保存がきいて栄養価が高い食糧を大量に持参するしかないだろう。
そして運搬も大きな問題だ。
人員が俺を含めて二人しか確保できない以上、持ち帰れるお宝には大きな制限がかかる。
したがって探すべきお宝は小さくて価値が高いものに限定されるだろう。
カネはこれ以上必要ないのに高価なお宝を探す意味はあるのか?
そう思う諸氏もいるかもしれないが、宝探し自体が楽しいのだ。
価値あるお宝でないと探す意味はないし、見つけたときの感動も少ない。
そうだアレ、A五の松坂牛をなんの味もつけずに焼いて食うようなものだ。
そんなことは置いておくとして、まっさらな和紙に計画を書いていると、後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。
「あら、お帰りでしたか」
「一花ちゃんこそこんな時間にどうして?」
「今日はお休みです。朝から家に居ましたよ」
「遠征に行こうと思ってるんだ」
「ふーん、また遥さんとふたりきりでお出かけになるのですね」
なんだか今日の一花は話し方が刺々しい。
というか怖い。
ここ最近顔を見てなかったから余計に怖く感じた。
「まぁ、ふたりきりというか……遥しか付いてこれない場所に行こうと思ってるんだ」
「へぇー、遥さんしかついていけない場所ね」
そう言って一花は笑みを深めると、何事もなかったかのように俺の部屋を出て行った。
これは何かご機嫌取りをする必要があるかなと思えるくらい怖い笑顔だった。
拗ねたところも可愛いのだが、行き過ぎるとやっぱり怖い。
「はてさて、一花が好きなものってなんかあったかな……」
そんなことをぼんやりと考えてみたが結局思いつかなかった。
そんなことがあって数日が過ぎ、その間に漁村まで飛んで行って港の出来具合を確認したり、新しく見つけた鉱脈に飛んでは発掘の状況を聞いてみたりした。
そのときたまたま表に出ていた鈴音ちゃんに聞いた話では、最初に見つけた大量の車はすでに掘り出し終え、今は鉱脈に沿って坑道を掘り進めているそうだ。
鈴音ちゃんにはあとどれくらい掘れば次のお宝が固まっている地点にたどり着けるかだけを教え、「頑張って」とだけ言って帰途へ着いた。
すぐに出発しないでなぜこんなことをしているのかといえば、これも仕事の一環だと言うより他にはない。
俺も一応爵位を与えられた身だ。
それらしい仕事をしなけりゃならないし、責任もある。
発掘師協会の鉱脈調査はまだ始まったばかりで、しばらくは結果が出ることはないということだった。
俺は協会に次の行動計画を報告しその承認を得た。
べつに許しを得る必要があるわけではないが、どこで何をすると報告しておいたほうが後々手間が省けるのだ。
そんなこんなで迎えた出発の前日、一花が花のような笑顔でこう宣ったのだった。
「ようやく許しを得ることができました。私も空様の東京発掘にご一緒させていただきます」




