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第七十一話:久しぶりに二人で


 陽一さんの依頼を引き受けることにした俺は、遥と共に発掘師協会へと足を運んでいた。

 理由は、鈴音ちゃんたちの動向を知りたかったからだ。

 彼女の母である天音さんに聞いてみたが、行先までは把握していなかった。

 ちなみに一花は、今日から仕事復帰らしい。

 一瞬だったが、珍しく彼女の陰鬱な顔を見たような気がした。


「あいつらなら遠征中だぞ――」


 そう言って山岸さんは団扇で顔を仰いでいる。

 あいつらとはもちろん鈴音ちゃんたちのことだ。


「――たしか、二週間は戻らんとか言って新人の連中を引き連れて行ったな」

「誰だか分かります?」

「リーダーは高橋とか言ったか、新人だけのパーティーだったぞ。この前発見された地下街に続きがあったとかなんとかで規模はそれほどでもないらしいがな。なんでもお前さんたちには借りがあるとかで――」


 ようやく話が分かった。

 高橋さんたちのパーティーは、あの地下街をあの後も調べてまだ奥があったことを発見したようだ。

 それで俺たちのパーティーにはそれを教えるのが筋だということで、一緒に掘らないかと阿古川哲也や鈴音ちゃんたちに話を持って行った。

 そして俺と遥が発掘師協会に来たら伝えてくれと伝言されていたらしい。


「――とういうことなんだが、どうする?」

「いや、俺たち二人は別件で依頼を受けちゃったんで、時間が余れば合流しますよ」

「そうか、もし伝えられる機会があったら伝えておこう」

「ありがとうございます」


 用件も済んだので遥と二人協会を後にしようとしたが、今日の山岸さんはなんか変だ。

 いつもなら遥に必ず絡んでくるのにニヤニヤして上機嫌なだけで絡んでこなかった。


「なーんか変なのよね山岸の奴」

「ああ、それは俺も感じたよ」

「ねぇちょっと――」


 協会の入り口付近にいた女性の職員に遥が耳打ちするように尋ねた。

 二人はなにやらひそひそと話し込んでいたが、その話を終えた遥が満面の笑みで戻ってきた。


「いいこと聞いちゃったわ」

「なになに、そんなにニヤけて」

「ちょっとこっちに来て」


 遥に引っ張られ、急いで協会を出て道の脇に身を寄せる。


「結婚するんだって、山岸の奴。しかも式は今年の冬って言ってたよ」


 遥が耳元でそうささやいたとき、俺は先を越された少しの悔しさと、彼にも幸せが来たんだという祝いたい気持ち、そして驚きがないまぜになった。

 俺と一花そして遥の式は来年の予定だ。

 僅かではあるが先を越されるのは、彼に春が来ることなど想像もできなかっただけに悔しいというか羨ましいものがある。


 俺たちの場合は国を挙げての行事になるらしいから時間がかかるのは仕方ないが、彼のように身軽だとそんなしがらみに捕らわれることもないのだろう。

 そう考えて納得することにした。


「じゃぁ、仕事が終わったら景気よく祝ってやろうか」

「そうね、いい考えだわ。どんな馴れ初めだったのか、ぜーんぶ聞き出してやるんだから」


 そう言って遥は悪い顔をして笑みをたたえていた。

 俺はその時の情景を想像し、山岸さんに両手を合わせたのだった。


 そんなことがあった帰りの道すがら。


「なんか二人きりなんて久しぶりだね」


 そう言って遥はさっきまでの悪い顔をどこかに仕舞い、嬉しそうに顔をほころばせている。


「山小屋にいたときを思い出すよ。そういえば、ヒカル爺は今頃山小屋?」

「うん、今年から弟子をとったんだって嬉しそうに言ってたよ」

「弟子ねぇ。物好きもいたもんだ」


 山に籠って猟をするには常人をしのぐ”気”を保有していないとキツい。

 普通はそれだけの実力があれば発掘師とか軍人になるものだが……。


「空の言いたいことも分かるけど、何になりたいのかは人それぞれだよ」

「それもそうだな」


 まったく遥の言うとおりだと思った。

 物好きな人がいたもんだと驚くより、後継者が見つかって良かったと喜ぶべきだ。


「後継者ができたかもしれないんだ。ヒカル爺にとっても良かったことかもしれないな」

「そうだね。それでさ、目星はついてるの?」


 遥が何を聞きたいのかはすぐに分かった。

 それはつまりどこを探すのかということだろう。

 陽一さんのリクエストは、仕事が減ってきている発掘師たちが十分な仕事にありつける鉱脈の探索である。

 直接かかわりのない国からカネが出ることはないが、発掘師協会からは謝礼なり発掘権の譲渡金也がたんまり貰えるはずだ。


 卑しい話に聞こえるかもしれないが、屋敷の維持費や後に控える一大イベントのためにも今はとにかくカネを稼ぐ必要があるのだ。

 カネはいくらあっても今の俺には足りないようなそんな感じだから、鉱脈を探す以外にも実は一つたくらみがあったりする。


 それは後述するとして遥の問いに答えねばなるまい。

 豊田から名古屋、そして旧琵琶湖沿岸へと至る道路はすでにできている。

 ならば。


「うーん、新しく作る漁村の手前付近に大きな川があったろ?」

「うん」


 鉱山を探すとすれば昔の工場地帯か都市部がいいだろう。

 そしてそれは旧名古屋市街から木曽川に至るあたりに集中しているはずだ。

 ずいぶん慣れた金属探知の技を使えば、今の俺にならさほど苦労することなく鉱脈を発見できるだろう。


 ただし、ただ発見すればいいということではない。

 一般の発掘師たちでも掘り進められる深さである必要があるし、できうるなら車のような再利用可能な部品が多い異物が眠る鉱脈のほうが価値が高いし、国のためにもなる。

 だから今回は広い範囲を探査する予定だ。


 しかし俺はそれ以外の場所でどうしても探してみたい場所があった。

 だから悠長に探索を長引かせるわけにもいかない。


「その手前から豊田の間には大きな鉱脈が眠ってるはずなんだけど、今回は少し外れた場所にも行こうと思ってるんだ」

「どうして?」

「それはね――」


 豊田から旧琵琶湖沿岸まで道ができて漁村ができる。

 そうすればその道沿いは発掘師たちの探索の場となるだろう。

 その場所を荒らしてしまうのは気が引ける気がした。


 ただし、俺が探るのは鉱脈の位置と深さがメインで、実際に掘るのは一般の発掘師たちに任せるつもりだ。

 もちろんその探索では車を重点的に探し、そこにお宝があることは確かめる。

 そしてそれを発掘師協会に報告することも絶対だ。


 しかしである。

 たったそれだけの仕事で満足する俺じゃぁないんだ。

 前にも言ったように俺にはカネが必要なのだ。

 十分な資金を得てできるだけ多くの人を雇い、そして俺たちの楽園を作らなければならない。


 いや、楽園になるかどうかは置いておくとして、福井のお姫様との約束を果たすためにも頑張らなければならない。

 そのためにも、狙うは新幹線クラスの大物、アルミの塊とか山のような宝石類とか、とにかく一攫千金をねらっていこうと考えている。

 仲間たちが戻ってきたときに驚かせてやりたいという下心も完全には否定しない。


「――まぁ、あとは見つけてからのお楽しみということで」

「いっつも空はそうやって秘密にするんだよね。でもいいわ。楽しみにしてるから」


 概要だけを言って聞かせた俺に対し、そう言って遥は笑ってくれた。

 別に意固地になって秘密にする必要はないけど、もし見つからなかったときにガッカリさせるよりは精神衛生上いいし、見つかったら見つかったで驚かすことができるという楽しみもある。

 俗な考えだが俺は聖人君子じゃないんだ。


 そんなことを考えながらも二人きりの何気ない会話を楽しみつつ屋敷へと戻った。

 昨日はバタバタして寛げなかったが、今日は久しぶりに風呂での嬉し恥ずかしい儀式を楽しんだり、天音さんたちの美味しい手料理に舌鼓を打ったりして短い時間ながら寛ぐことができた。

 やっぱり自分の家は落ち着くもんだと感慨にふけって眠りにつき、そして翌朝準備を終わらせた俺と遥は、朝日が顔を出す前に屋敷を出発したのだった。

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