第七十話:名古屋方面開発計画その十二
ずいぶん間隔が空いてしまいましたが連載を再開します。
相変わらずの亀更新ですがご容赦ください。
旧琵琶湖沿岸に漁村を作るための調査とは名ばかりのバカンスキャンプで、俺は海に潜って大物を探していた。
そして見つけたのが砂に隠れているヒラメかカレイのどちらかである。
俺は狙いを定め、モリを一突きする。
すると、狙いどおりに突き刺さって恐ろしい力で暴れ出した。
が、”気”で強化された俺の膂力を凌ぐことなどできようはずがない。
魚はしばらく暴れたのち、ついには大人しくなってその身を俺の手に委ねたのだった。
――大きいな。これ一匹で何人ぶんになるかな。
そんなことを一人考え、海面に向かって泳ぎだす。
獲物が大きすぎて水の抵抗が激しいが、そこは力ずくでどうにでもなった。
浜にもどって魚が捌ける女衆がいるか探してみたが、今は俺と高科一家以外全員調査に行っていることを思い出す。
「あらあら、立派なお魚ね」
浜で一人寂しくしていたのだろうか、希美花さんがおっとりした声で話しかけてきた。
その後ろには目を丸くした藤崎さんと護衛の三人もいる。
モリに刺されて俺の背に担がれた魚は、体長一.五メートルを超える大物だった。
「なんか沖のほうで潜ったら見つけました」
「はじめてみる魚だが、これほどの大物であれば兵たちにも行きわたりますな」
そう言った藤崎さんの前に魚を横たえる。
魚はもう死んでいるのだろう、ピクリとも動かなかった。
それからしばらくして一花と遥が戻ってきた。
両手にはそれぞれ釣り竿と紐に通された魚が持たれている。
「大量だったみたいだな」
「そうなんだけど一花様には負けちゃったわ」
少し悔しそうに遥がそう言うと、一花は少し胸を張って誇らしそうだった。
「私のほうが少し運がよかっただけです。よれよりも約束は約束ですからね」
そう言って一花は俺を見つめてきた。
あの時は勢いに任せてああ言ってしまったが、そういえば何をプレゼントするのか考えていなかったと思い出す。
「もちろん約束は果たすよ。一花ちゃんが喜びそうなものを考えないとな」
「楽しみにしています」
弾けんばかりの笑顔で紡がれたその声には喜びが溢れていた。
遥が寂しそうにしているのでフォローしとかないとなと考える。
「……そうだな。遥にもなにかあげるよ。勝負に勝った一花ちゃんの後になるけどね。それでいいだろ?」
俺の提案に一花も不満はないようだった。
含みのない笑顔で頷いてくれたから間違いないだろう。
「ありがとう空、楽しみにしてるね。だけど、空が捕ってきたんでしょその大きな魚」
遥も嬉しそうだったから俺はとりあえずホッとして返す。
「うん、沖のほうで見つけたんだ。これは美味い魚だから楽しみにしててよ」
そんなとりとめもない話をしているうちに陽一さんが呆れるくらいに大量の牡蠣を抱えて戻り、簡単な昼メシを食って午後は疲れを癒すことになった。
そして夕方、調査隊と護衛の兵たちが戻って宴になった。
「あれならば十分漁村が作れるでしょう」
牡蠣を頬張りながらそう言った藤崎さんは満足そうだった。
兵たちも海の幸を堪能して賑わっている。
「じゃぁ今回の調査の目的は果たしたも同じですね」
「いや、まだ楽しみつくしてないではないか。私はまだ満足してないぞ」
牡蠣を頬張った口でそう言ってのけた陽一さんに、希美花さんの冷ややかな視線が突き刺さっていた。
「陽一君はもう十分楽しんだでしょ。明日は兵隊さんの休養に充てて陽一君はお仕事ですよ。空君が見つけてきた場所まだ見てないでしょ?」
「それはそうなんだが……明後日では」
希美花さんの視線がきつくなった。
「せめて明日の夕方」
希美花さんは笑っていない。
「じゃぁ明日の早朝」
「仕方ないわね。陽一君は我がままなんだから」
ようやく笑顔に戻った希美花さんに、陽一さんは胸をなでおろすように牡蠣を飲み下したのだった。
そして翌朝、気が付いてみれば陽一さんそして藤崎さんの姿はなかった。
俺と一花と遥、そして妊娠している希美花さんはのんびりと浜辺で過ごし、兵たちは潜って漁をする者、釣りを楽しむ者、俺たちみたいにのんびりとしている者など、思い思いの時を過ごしている。
そんなこんなで時は過ぎ、俺たちは予定を切り上げて帰途に就いたのだった。
わが家に帰り着いた翌日、俺は大公宮にて陽一さんと打ち合わせ中だ。鈴音ちゃんたちはまだ発掘から帰ってきていない。
「――とまぁこんな感じの村になる予定だ」
「これならそんなに時間は掛からないでしょうね」
陽一さんは漁村の図面を見せながら工期や人員の配置を説明してくれた。
俺の役目は漁村ができてからで、それも名ばかりの村長だから村の運営が軌道に乗るまでお手伝いをすればいい。
その後は代官に当たる人に任せ、本命であるとある任務に就くことになっている。
まぁ、それは置いておくとして、漁村ができて道路が整備されれば、かつての名古屋近辺にも人が住み着き始めるだろう。
妖魔の掃討は終わっているから、安全は確保されている。
しかし、もしものことがあっては取り返しがつかないことになるということで、道路の要所要所には軍の詰め所が配置されることになっていた。
そうしておけば富士山跡地方面からの妖魔の流入にも即座に対応できるし、移動する人の安全にも一役買えるだろう。
「それでだ、それまでのあいだ空君には発掘師としての仕事に専念してもらいたい」
「といいますと?」
「豊田鉱山が開発されてから発掘の成果もかなり上がっているんだけどね。最近少々落ちてきているんだよ」
「何がですか?」
「それはね――」
陽一さんが言うには発掘品の流通量が落ち、景気が少しずつ落ち始めているということだった。
今の好景気を維持し、一気に人が住める環境を、つまり富士大公国の支配圏を広げて国力を増強したいと陽一さんは考えているようだった。
今の景気も以前に比べれば雲泥の差だが、それでもすべての発掘師がお宝にありつけているわけではない。
それに今はこの好景気を何としても維持し、人を増やして国力を高めたいとも言っていた。
そのためには新たな鉱山が必要らしい。
「分かりました。喜んで引き受けましょう」
鉱山探索は俺の得意分野である。
豊田鉱山から旧名古屋市街地までの区間というか土地を探索し、新たな鉱山が開発されれば当分の間好景気は持続するだろう。
そしてそれは収入が減りつつあるという駆け出しの発掘師たちにも喜ばれることだ。
「良かった。助かるよ」
そんな感じで話は終わり、夕食の誘いを断って俺はわが家へと急いだ。
予定を切り上げて帰ってきたとあって、今日は一花も家にいるのだ。
妖魔討伐で忙しい彼女のためにも、少しでも安らげる我が家という空間で同じ時を過ごしたいというのも正直な気持ちだった。
「ただいま」
「あら、早かったですね」
そう聞いてきた一花の表情は綻んでいた。
「遥は?」
「なんでも協会に用事があるとか。夕方には戻ると言ってましたよ」
「じゃぁ今日は三人で夕メシが食えるな」
「ええ」
その日は予定通り一花と遥と俺の三人で夕メシに舌鼓を打った。
そして翌日から三日、一花の休みが終わるまで俺たち三人は家でダラダラとして暇な時間を過ごした。
ここのところ働きづめだった体にはかなりの疲労がたまっていたらしく、三日後には体の軽さに驚くことになったが、それは一花も遥も同じだったらしい。
「なんだかモノスゴク体が軽いわ」
「遥さんの言うとおりね。バカンスで疲れは取れたつもりだったのに」
そんなことを言い合っている二人は、肌艶も以前と増して瑞々しくなり、その美貌というか若さというかほとばしる物があって、俺は思わず自室に退避する羽目になった。
なぜかって?
それは俺の下半身にでも聞いてくれとしか言いようがないだろう。
彼女たちとあんなことやこんなことをするのは式を挙げてから、というのが三人で決めたというか彼女ら二人に約束させられたことである。
これは一花と遥二人で決めたことらしいが、二人の間にどんな話し合いがあったのかは知る由もなかった。
俺としてはそんなに拘らなくてもいいんじゃないかなと思っているが、そこらへんは彼女たちに合わせるしかないと諦めている。
そして休暇は終わり、一花は仕事へと家を出た。
俺と遥も陽一さんの依頼を果たすため、発掘師協会へとその足を向けたのだった。
文字数が少し少ないですが、更新を続けるにはこのほうがやりやすいと考えてのことです。
ご容赦ください。
新連載『現代勇者の歩きかた。~人が住めるダンジョン作ってみました~(旧題:奥多摩レジスタンス)』も文字数少な目で連載を開始しましたので読んでいただけたら幸いです。
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