第六十三話:名古屋方面開発計画その五
ザックに詰められるだけお宝を詰め、俺たち五人は発掘師街へと急いだ。
そして途中一泊した夕方に、目的の場所へとたどり着いていた。
「なあ遥、えらい賑わいだな……」
「それだけ凄いお宝が出たということよ」
発掘師達で賑わう発掘師街は、十日ほど前に俺たちが一泊したときよりも格段に人の数が増え、雰囲気が激変していた。
俺たち五人はそんな賑わいを他所に、協会のテントが並ぶ一角へと一直線に足を運んだ。
いざ到着してみると、せわしなく動き回る発掘師協会の職員たちで、言わば修羅場と化していた。
「ほう、ずいぶん遅かったのう。目的のお宝は見つかったのか?」
椅子に座って杖を突き、職員に指示を飛ばしていた五所川原会長が、俺たちを見つけるなり聞いてきた。
俺はことに残念そうな顔で口を開く。
横では遥が吹き出しそうになるのをこらえていた。
俺の顔がよほど芝居じみて見えたのだろう。
「いやぁ、本命はまだ見つかってないっす。でも、ちょっとした収穫があったんですよ。だから一旦戻ってきました」
「で、何を掘り当てた? 遥嬢の顔を見ればおおよその見当はつくがのう」
「コレよ」
そう言って遥が俺のザックから取り出したのは、ブランデーのボトルだった。
それを見た五所川原会長の目が見開かれた。
「凄いお宝でしょ。しかもコレ一本じゃないわ。全部は持ってこれなかったけど五百本近く発掘したのよ。それにお宝はお酒だけじゃないわ。多すぎてわたしたちだけじゃ運べなかったから、今日は」
「お主らこれをどこで……」
遥の報告を遮ってそう言ったきり、五所川原会長は視線をブランデーのボトルに固定して絶句している。
他のお宝も鈴音ちゃんや阿古川哲也が出して見せたが、会長の視線はブランデーから離れなかった。
よほどこのブランデーが飲みたいのだろうか。
「ココから西に歩いて一日半ってとこかな。ずっと森の中を歩くから正確な距離は分からないけど」
俺の声は聞こえているはずなのに、五所川原会長は固まったまま動かない。
が、しばらくして。
「……全部でどれくらい出た? まだ埋まっとるのか? 遺跡の規模は?」
再起動を果たしたとたん、五所川原会長は矢継ぎ早に質問を飛ばしてきた。
そして俺たちの周りには、いつの間にか人だかりができていた。
発掘品を卸しに来た発掘師達だが、皆一様に驚いているようだ。
五所川原会長の反応と、俺達が発掘したお宝が珍しいこともあって彼、彼女らは集まってきたのだろう。
ここに来るまでに見かけたお宝は、ほとんどが金属部品だった。
そういえば中村さんのところのクランが大規模工場を掘り当てたらしいが、今もその現場での発掘が続いているのかもしれない。
「わたしたちが今回運び込んだレベルのお宝が今回持ち込んだ量の十倍以上はあるわね。質を落とせばまだまだあるみたいだけど」
「なんともはや……たまげた大発見じゃのう」
「そう、大発見よ。それで会長に相談があるんだけど、荷運びの人手が欲しいの」
遥の相談に、五所川原会長は難しい顔をして考え込んだ。
「ふむ、紹介できんこともないが、今の状況ではちと難しいかのう。ワシとしては力になりたいところじゃが……」
今もひっきりなしにお宝が運び込まれている卸し場と、修羅場と化した協会のテントを見れば、人手が足りないのはどこも同じなのだろう。
俺たちだけエコ贔屓してくれというのは都合が良すぎるということだ。
なんてことを考えていたら、遥が食い下がった。
「報酬を多めにしても無理そうですか?」
ここはベテランの遥かに交渉を任せた方がいいのかもしれない。
荷運びの相場がどのくらいかは知らないが、本命の宝探しを再開したい俺としては、多少どころかかなり色を付けた対価を運搬人に支払ってもいいと思っている。
「どの程度までなら出せる? 正規の運搬人は無理じゃが、額によっては都合をつけられんこともないぞい」
五所川原会長が言う運搬人というのは、発掘師協会に登録している荷運び専門の人たちのことだ。
ここまで来る道すがら、そう言った職業があると遥に聞いていたが、運搬人は”気”力が僅かに足りなくて発掘師になれなかった人や、”気”力は足りているが試験に落ちて浪人中の人が登録しているらしい。
だから運搬人は、一般の人より”気”力が高い傾向にあり、荷も多く運べるし足腰も強いということだった。
「具体的にはどういうことかしら」
「まぁ、あれじゃ。成果が出せとらん若手と言ったらいいかのう。プライドの問題も無いとは言わんが、背に腹は代えられんじゃろうからな」
ようするに同業者ということだろうか。
だとすれば、話の持っていき方次第では力になってもらえそうな気がする。
「ありがとうございます。少し仲間と相談させてください」
ということで、俺たちは一旦協会のテントから出てどうするか話し合うことになった。
とは言っても、人目が多いというか注目されていることには変わりはない。
何せかなり高価なお宝をすでにご開帳しているし、俺はおまけとしても、発掘師たちにとって遥は常に注目の的なのだから。
本人に言ったら確実に怒られるので絶対に口にしないが、怖いもの見たさとか憧れとかいろいろな意味で遥は注目の的なのだ。
周りの状況を見ていれば誰にだって分かる。
「さて、人の目があるから大きな声では話せないけど、手短に決めちゃいましょう」
そう言った遥は、発掘師達の目など気にしていないとばかりにニコリと笑みを見せた。
思惑どおりに事が運んだということだろう。
一か所に集まるように遥が手招きをし、俺たちは話し声ができるだけ漏れないように小さな輪を作った。
「遥先輩。さっきの話からすると、私たちみたいな若い発掘師に荷物運びをお願いするということですか?」
「間違いなく、そういうことになるわ」
小声で遥に質問した鈴音ちゃんも俺と同じように理解していたようだ。
他のメンバーから異論が出ないということは、それで間違ってはいないのだろう。
そんなふうに一人で納得していたら水瀬さんが口を開いた。
「ということは報酬が問題になるんですね」
「そういうことよ。安く済ませるなら――」
遥曰く、協会に登録している正規の運搬人に対する報酬は、一人あたり一日千円が相場らしい。
実際にはそれプラス発掘師協会に手数料を支払うことになるが、俺たちが直接運搬人と報酬の交渉をする必要は無く、協会に運搬人の派遣を依頼し、報酬も協会に支払うというのが正規の依頼方法ということだった。
発掘師協会の運搬人以外ではモグリの運搬人を安く雇うこともできるが、その場合持ち逃げや横領などのリスクを伴うらしい。
さらに、モグリの運搬人は”気”力が足りずに協会に登録できなかった者たちがほとんどらしいので、一回に運べる量が少なかったり、お宝を破損してしまうリスクも考えておいた方がいいということだった。
「――ということだけど、モグリの運搬人なら報酬次第で割と簡単に雇えるわ」
「でも、モグリの運搬人なんてどうやって雇うんですか?」
水瀬さんの問いかけに、遥は顎をしゃくるようにして答えた。
「あの人たちよ」
遥が示した方向には、これから発掘に向かおうとしている発掘師の一団に対し、自分を売り込もうとするみすぼらしい服装の者たちが集まっていた。
「でもあれだよな。せっかく凄いお宝を発掘できたのに、カネをケチって余計なリスクを背負いたくないよな」
「そうね。モグリの人たちの説明はしたけど、わたしも哲也君の言うとおりだと思うわ」
「でも、同業者に頼るってのも気をつかうというか、モメ事が起こりそうで……」
阿古川哲也はなんとも割り切れない顔で踏ん切りがつかないようだ。
他の仲間たちも何か思い悩むように考え込んでいる。
「同業者って思わないで、運搬人って割り切って接すればいいんじゃないのか?」
「空、それは極論過ぎるわよ。会長も言ってたけど、彼らにも発掘師としてのプライドがあるでしょうし」
「そうか……じゃぁ、極力雇う発掘師のことも考えて納得できる条件をつければ?」
俺の提案に皆が期待の籠った目を向けてきた。
遥になじるように反論されて場当たり的に「納得できる条件」なんて言ってしまったが、発掘師のプライドを傷つけずに済む良い条件が果たしてあるのだろうか……。
と、考えていたら鈴音ちゃんがハッと思いついたように口を開いた。
「私、お金で報酬を支払わずに、余ったお宝を報酬にすれば発掘師だったら喜ぶと思います……。そのっ、ぷ、プライドは傷つけてしまうかもしれませんが……」
他人からお宝を譲られるというのは発掘師としてのプライドを一番傷つけるんじゃないだろうか?
でも、鈴音ちゃんの案が俺にはかなり魅力的に聞こえたのも確かだ。
「確かにプライドは傷つけるかもしれないけど、依頼の仕方だと俺は思うよ。実際に俺たちは人手が足りなくて困ってるんだし、運搬を依頼するというよりも助けて下さいってお願いすれば気持ちよく引き受けてくれるんじゃないかな?」
「たしかに空の言うとおりかもしれないわね。となると、問題はどの程度のお宝を報酬にするかってことになるわ」
遥が言うとおり、俺たちが発掘したお宝をどの程度報酬に割り当てるかというのは大きな問題だ。
善意だけを求めて報酬をケチるということはあまりにも身勝手だし、俺の気分も良くない。
皆も同じだろう。
かと言って俺に相場なんて分かるわけがない。
それでもあえて報酬を決めるとすればどの程度が納得できる報酬になるのだろうか。
正規の運搬人の日当が一日千円だとすると、発掘師という特別な職業に就いている人に出す報酬は少なくとも倍以上にしないと見向きもされないだろう。
いや待て、俺たちが一日に稼ぐ額を考えると、贅沢に聞こえるかもしれないが一日二千円で雇われるというのは勘弁願いたい。
ならば……。
「まだ地下街に残ってるお宝全部ってのはどう?」
俺の提案に仲間たちは目を丸くして驚いていた。
俺としては、すでに選別したお宝だけで稼ぎとしては十分すぎると思っていたので、仲間たちの反応に少し驚いた。
「ちょっ、ちょっと待て空。それはいくら何でも奮発しすぎじゃないのか?」
阿古川哲也はそう言って暗に反対の意を示したが、俺としてはお宝運搬を早めに終わらせて本命の調査に戻りたいというのが本音だった。
「私は空さんの意見に賛成だわ。ちょっと驚いたけど、自分たちで納得して選別したんだし、稼ぎとしても身に余る額だと思う」
「美奈がそう言うなら俺は構わないけど……やっぱりちょっともったいないような気が……」
「ハッキリしなさいよ哲也! 男でしょ」
そう言ってバチンと阿古川哲也の背中を叩いた水瀬さんの顔は笑っていた。
どうやら彼女は、かなり男らしいというか気前のいい性格のようだ。
「私も空さんの意見に賛成です。五所川原会長は成果が出ていない若手って言ってましたから彼らも困ってると思うんです。だから……」
「鈴音ちゃんは優しいわね。わたしも空の意見に賛成よ」
鈴音ちゃんと遥が賛成してくれたことで俺たちの意見は固まった……と思ったら遥が付け足してきた。
「でも、地下街に残ったお宝をわたしも確認しておきたいわ。一応ね」
なるほど、特級発掘師である遥が確認してくれると安心できる。
阿古川哲也や水瀬さん、それに鈴音ちゃんを信用していないわけではないが、俺としても地下街に興味はあるし、価値が無くても欲しいものが残っているかもしれない。
「もし高額なお宝が残っていたら新人のためにならないからね」
「分不相応ってことですか? 遥先輩」
「結構キツいこと言うのね。でも水瀬さんのそういうところ、わたしは好きだよ」
「一応俺も地下街に残ってるお宝は見てみたいから、遥と一緒に俺も見て回ろうと思う。ということで俺たちの意見は纏まったなと考えてもいいよな」
阿古川哲也だけはほんの少しだけ不満顔だったが、仲間たちは一様に頷いてくれた。
ということで、俺たちは協会のテントで五所川原会長にその旨を伝えたのだが……。
「ほう! それはまた剛毅だな。少し気前が良すぎやせんか? それとも、残り物は安物ばかりとは言わんじゃろうな?」
「そんなことありませんよ。一応ですけど、わたしが責任もって報酬は選別するつもりです」
「遥嬢がそこまで言うなら安心じゃが……相場は間違えるなよ。若いモンの為にならんでな」
「もちろん分かってます。心配ご無用ですよ」
「ほっほっほほ。心配なんぞしとりゃせんよ。ちょっと言うてみただけじゃ。それよりも、持ち込んだ宝はそこのパレットに積んでおいてくれんかのう。若手共の驚く顔が楽しみじゃ」
笑いながらそう言った五所川原会長は、「少し待っておれ」と言い残してテントを後にした。
会長も人が悪いな、なんてことも考えたが、そういったお茶目なところに俺は好印象を抱いた。
生真面目で性格が硬い人を悪いとは思わないが、どうしても苦手なのだ。
「いい人たちを紹介してくれるといいですね。遥先輩」
「会長の紹介だから大丈夫でしょう。それよりも鈴音ちゃん、持ってきたお宝を整理しておきましょう。みんなも良いわね」
そう言って遥はパレットが置いてある場所に向かい、ザックからお宝を取り出した。
俺たちもそれに倣い、会長が示したパレットにお宝を並べたのだった。




