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第六十二話:名古屋方面開発計画その四

書籍化することになりました。

詳細は活動報告をご覧ください。

 今日の成果もダメだったと気落ちした気分で拠点に戻ってみれば、そこには満面の笑みを湛えた阿古川哲也たち三人の仲間が待っていた。


「悪い。今日もダメだったよ」

「気にするなって。それより大ニュースだ」

「なんだ、やけに嬉しそうじゃないか。良いお宝でも見つかったのか?」

「おうよ! 腕時計なんか目じゃねぇシロモノがあったぜ」


 そう言って阿古川哲也がザックの中から取り出した代物は、どこをどう見てもカメラだった。

 この時代でカメラが使えるのか?

 と、一瞬疑問に思ったが、そう言えば記念撮影したこともあったなということを思いだした。

 機械式の腕時計が今でも使えるように、機械式のカメラなら使えてもおかしくはない。

 考えるだけ無駄だが、カメラは難しいにしても、フィルムは作り出せるようになっているのだろう。


「機械式のカメラにそんな価値があったとは思ってもみなかったよ。そうだと分かれば探索候補に追加した方がいいよな……」

「そうね。でも、腕時計なんて目じゃないっていうのは言い過ぎだけどね。哲也が大げさなのはいつものことだから」

「水瀬さんの言うとおりね。正確には腕時計より若干価値がある傾向にあるわ。状態と性能次第だけど、専門家に鑑定してもらわないと正確な価値は分からないわね」


 さすがに水瀬さんは、阿古川哲也の性格をよく理解していた。

 それでも遥の言いぶりから見て、三人が掘り当てたお宝は価値があるものだということが理解できた。

 低空飛行を続けていた俺の気分も、これで少しは晴れたような気がする。


「まぁ、なんにせよ高価なお宝が見つかって良かった。これで少しは気が楽になったよ」


 とは言ってみたものの、プレッシャーというか焦りが無くなったわけではない。

 が、地下街の保存状態が良いということはまだまだお宝が眠っているのかもしれない。


「ところでみんな、明日は地下街の捜索を続けるんだろ?」

「もちろん! あの場所にはまだまだ凄いお宝が絶対に眠っていると俺の感が告げているぜ」

「まぁ、あの地下街はまだ続いているようだったから哲也が言うことも尤もだけど、絶対とは言い切れないわね」

「水瀬さんの言うとおりだと思うわ。それよりも、あの場所にはそれなりの価値があるお宝が結構あるみたいだから発掘権を主張しとかないとですね。遥さん」

「こんなところまで発掘に来る人はいないと思うけど、鈴音ちゃん言うとおり看板は立てておいた方がいいわ」


 遥が言う看板とはもちろん発掘権を主張する看板のことだが、看板を立てたくらいで別のグループとの争いや横取り、盗掘などが起きないのかと言えば、勿論その可能性が無いわけではない。

 しかしながら、そんなことした者は当然発掘師の免許を取り上げられることになる。

 そのために発掘師協会があるわけだし、見つけた遺跡というか場所は発掘師協会に発掘したお宝とともに報告する義務があるから、争いが起こる可能性は少ないと聞いたことがあった。


 ともあれ、遥が言っているとおり、こんなところまで出張ってくる発掘師は俺たち以外にはいないだろう。

 それに、阿古川哲也たちの報告を聞いて遥の顔にも安心したというか、ホッとした様子を伺うことができた。

 彼女にはナビゲーターという地味な仕事をしてもらっていることもあって、できるだけ早いうちに俺の方もお宝を発見してしまいたい。


 そんなことがあって、翌日からは気を引き締めなおして探索作業に取りかかったわけだが、そう簡単に目的のお宝を探しあてることはできなかった。

 それでも、地下街の探索作業は順調に進んでいるようで、一回では運びきれない量のお宝を確保することができたそうだ。


 そして地下街での探索をはじめて三日目の夜。


「地下街の探索はほぼ終わったんだが……そっちはどうだ?」


 夕メシを食いながら阿古川哲也が少し言い辛そうに聞いてきた。


「うん……何か所か怪しい場所は見つけれたんだけど、反応が小さいんだよな。ただ、金属反応とかに行き当たる頻度はあがってるから目的のお宝には近づいているような気がするんだ」

「そうか……」


 阿古川哲也は申し訳なさそうに下を向いたが、俺の感覚では、かなりでかいビル群というか建物に使われていた鉄筋と思われる反応が、高密度に点在しているエリアに行き当たった手ごたえがあった。

 今探索しているエリアを重点的に調べれば、きっと目的のお宝に行き当たるはずだと考えている。


「なあ空、提案があるんだが聞いてもらえるか?」

「提案ってなんだ?」

「地下街のお宝なんだが、一旦引き返さないか?」

「一旦引き返す?」


 阿古川哲也の提案に俺が首をかしげていると、水瀬さんが呆れたように口を開いた。


「つくづく思うけど、哲也はいつも言葉が足りないね。私から説明するわ。地下街で見つけたお宝の量が凄いことになったんです。高そうなものを優先的に選んだつもりなんだけど、私たち五人で運んでも一回や二回じゃ運びきれない量になってしまって……」

「そんなに?」


 目を丸くした遥に、鈴音ちゃんが答えた。


「そうなんです、遥さん。入り口の踊り場に纏めてきたんですけど、捨てて帰るのはあまりにも惜しくて」

「そっか……往復に少なくとも三日はかかるからわたしたちだけじゃ運べないとなると、一旦引き返して人手を雇った方がいいかもね」


 思案顔でそうつぶやいた遥だったが、何か心配事でもあるのだろうか?


「何か問題でもあるのか?」

「ええ、中村さんたちが発掘している現場はかなり大掛かりだって空も聞いたでしょ。それだけじゃないわ。その他にもお宝は沢山見つかってるだろうしね」


 確かに遥が言うとおりだと思った。

 名古屋鉱山はまだ見つかったばかりだ。

 しかもあそこは郊外の工場地帯だと俺は考えている。

 となればお宝は大物で、それを発掘する人手も、運び出す人手も足りなくなっている可能性が高い。


「問題は人手が雇えるかどうかってことか」

「そんなところね。でも、戻ってみないと分からないし、哲也君たちが集めたお宝も見てみたいし、明日は全員で地下街に行ってみようか」

「そうだな。俺は遥の意見に賛成するよ」


 地下街組も遥の意見に賛成し、明日は阿古川哲也たち三人が集めたお宝を見に行くことになった。

 そして翌朝、日の出とともに拠点を出発した俺たちは、地下街へと続く縦穴に到着していた。


「深いな」


 縦穴を覗き込み、ついつい呟きを零した俺の後ろから鈴音ちゃんの声が聞こえてきた。


「三人で頑張って掘ったんですよ」

「そうそう、俺たちじゃこんな深いところにあるお宝なんて絶対に見つけられないからな。空のこと疑ったわけじゃないが、心配にはなったかな」

「正直言うと私は半信半疑だったかな。でも、哲也とか鈴音ちゃんが空様のことを信頼してるのが分かったから頑張れたんですよ」


 水瀬さんが半信半疑だったことは当然のことだろう。

 が、俺には自信があったし、この程度の深さのお宝を見逃すことなんてあり得ない。


「水瀬さんが半信半疑だったことは尤もだと思うよ。それでも、俺としてはこんなに深い穴を掘ってくれたことが嬉しいかな」

「わたしは発掘作業には参加できなかったけど、この下にお宝が埋まってることについては確信してたわ。さ、下に降りましょう」


 そう言った遥は、躊躇することなくロープをつかむと穴の底へと降りて行った。

 阿古川哲也、水瀬さん、鈴音ちゃんと遥の後に続いた。

 そして最後に俺は穴の底へと降りていった。

 遥たちが持つカンテラの明かりで薄らと平らな底が見えている。

 飛び降りても良かったが、なんとなくロープを伝って降りることにした。


 いざ穴の底に降り立ってみると、そこはやや広い踊り場になっていて下の方に階段が続いていた。

 そして踊り場の壁際には、阿古川哲也たち三人が集めたお宝が階段にまで積まれていたのだった。


「スゴイ量だな。遥」

「ええ、この量をわたしたちだけで運ぶとなるとひと月はかかるわね」

「俺が空を飛んで運んだとしても、この量を運ぶには何十往復もする必要があるな……」

 

 俺はここに来るまでの間、空を飛んで運べないかということを考えていた。

 が、ここに集められたお宝の量と重さを考えると、とてもじゃないが一回や二回の往復で運べるとは思えなかった。

 ”気”で翼を形成して飛ぶようになってから、飛行速度は格段に上がったが、運べる重さは人ふたり程度が関の山だ。

 この量だと何十回も往復する必要があるだろう。


「うだうだ考えても仕方がないわ。とりあえずはじめに持っていくお宝を選びましょう」

「俺にはここにあるお宝の価値なんて分からないぞ」

「安心して、空。お宝はわたしが見るわ」


 確かに、特級発掘師である遥ならお宝の価値は分かるだろう。


「じゃあ任せるよ」


 他の三人もまだ駆け出しの新人発掘師だ。

 遥が鑑定するということに異論が出るはずが無かった。


 そして遥が鑑定にとりかかったわけだが、すぐに彼女の表情が輝きを増した。


「コレ、正確な額は分からないけど、総額はものすごいことになるわよ」

「そんなに凄いんですか? 遥さん」

「ええ、鈴音ちゃんは発掘師になってまだ日が浅いから分からないかもしれないけど、高価なお宝が大量にあるわ」


 興奮気味にそう言った遥だったが、俺にはどのお宝に価値があるのかさっぱり分からなかった。


「本当ですか! 遥先輩」

「ええ、そう言えば水瀬さんも新人だったわね」

「というか、遥以外は全員駆け出しだよ」

「それもそうね」


 お宝が高額だと分かったこともあり、俺たちは自然に笑い声を出していた。


「で、どれが一番価値があるんだ?」

「そうね、カメラには及ばないけど、この中で一番高価なものはコレよ」


 そう言って遥が手に持ったお宝は、茶色のガラス瓶だった。

 そのガラス瓶にはVSOPと書かれたラベルが張ってある。

 そう、ブランデー、お酒だ。

 しかもよく見れば、ブランデー以外にもウイスキーやワイン、焼酎のボトルや一升瓶がところ狭しと集められている。

 ざっと数えたところで五百本くらいはあるだろうか。


 四千年物のワインや蒸留酒。

 酒の味が分からない俺にその価値は分からないが、二十一世紀でも高級な酒はかなり高かったはずだ。


「価値はマチマチだけど、これ一本で最低でも一万円以上の価値があるわ。この中には一本十万円を超えるお酒もあるかもね。カメラと合わせれば凄い金額になることは確かよ。その他のお宝も結構な額になると思うし。あっ、これも結構な額になるわね」


 ブランデーのボトルを床に置き、次に遥が手に取ったものは光沢のある黒い革製のハンドバッグだった。


「これも一点一万円以上になるかもしれないわ。ピンキリだけどね」

「マジっすか……」


 目を見開き、呆けた顔で阿古川哲也はブランデーのボトルとハンドバックを交互に見ていた。

 鈴音ちゃんと水瀬さんも驚きを隠せないようだ。


 俺ももちろんお宝の価値に驚いている。

 が、カネが必要で総額が気になった俺は、ざっと頭の中で計算してみることにした。

 結果、カメラとお酒だけで一千万弱、ハンドバッグやその他を合わせると一千万を軽く超えるかもしれない。

 もしかしたら二千万、いや、三千万。

 イヤイヤ、取らぬタヌキの何とやらだ。

 遥の鑑定を信じないわけじゃないが、あまり期待しすぎるとしっぺ返しを喰らい、もとい、期待外れに終わって真っ青な失意の底へと蹴落とされるかもしれない。


「よ、よしッ! 分別は遥に任せて持っていくものを決めよう」

「空さん、声が震えてますよ」


 声が上ずり、震えてしまった自覚はあった。

 しかし、鈴音ちゃんに指摘されてしまったことで再び笑いが起こり、場は和やかな雰囲気に包まれていた。


「じゃあ持っていくお宝の分別をわたしがするから、みんなはお宝をザックに詰めてちょうだい。食器とか食料、テントとかは必要最低限にして詰められるだけ詰めていきましょう。空は一番力持ちだからコレをお願い。割れるといけないから一本一本これで包んで。布は破ってもいいから」

「分かった。でもコレに価値はないのか?」

「ええ、これは二束三文よ」


 遥に渡されたのはブランデーのボトルとTシャツだった。

 俺はザックの中身を空っぽにし、Tシャツを破ってボトルが割れないように包んではザックに詰めていく。

 できるだけ入るように上下交互にボトルを詰めていった。


 他のメンバーを見ると、阿古川哲也も俺と同じく酒担当のようだ。

 鈴音ちゃんはハンドバッグで水瀬さんがカメラとその他小物、遥は色々な小物を選んではザックに詰めていた。


「なぁ遥、そんな小物に価値があるのか?」

「高価とは言えないわね。でも、この場所にどんなお宝があったか報告する義務があるの。本当はわたしもお酒を持っていきたいんだけど、種類が多いからね」

「そうなんだ」

「そういうこと。みんな準備はできたようね。そろそろ出発しましょう」


 遥の一声で俺たちはザックを背負い、縦穴をよじ登って発掘師街へと引き返したのだった。

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