見守られ
「大丈夫ですか?あと少しですから頑張ってください!」
ある日出張帰りに体調を崩し廊下に座っていた私に声をかけてくれ、彼女は必死に医務室へと運んでくれた。とても良い匂いがして疲れていた私は危うく襲いそうになったけれど必死で我慢をした。疲労が理性を壊しかけていたが耐えることが出来て本当に良かった。
「もう大丈夫ですからね。ゆっくり休んでください。」
私を心配する彼女がとても可愛くて、襲って嫌われなくて良かったと心底ホッとした。医務官と話をしているうちに彼女が帰ってしまっていて、きちんとお礼を言えなかった事を反省する。事務室にいるミシェル嬢だと教えてもらい明日会いに行こうと思った。しかし次の日お礼を言おうと探したけど居ない。何故か会えない。
「あれ?さっきまで居たのに。どこ行ったのかな?戻ってきたら伝えときますね。」
「あ、大丈夫です。また来ます。」
その日何回か見に行ったけどスッと居なくなる。あれ?逃げられている?え?私嫌われてる?かなりショックなんだけど…。
「帰ろう…明日また行ってみるか」
昨日倒れたためあまり残業しないように周りに言われたから、早めに帰ろうと歩いていたら視線を感じた。誰かに見られてる?まぁいつもの事だろう。自慢では無いが昔から顔のせいでよくモテていたし、令嬢に見られるなんてよくある事だ。
次の日も行っても居ない。何故なのだ。ただお礼を言ってあわよくばご飯に誘いたいだけなのに。帰ろうとしたら、また見られてる?
「あれ?」
鏡越しに見るとミシェル嬢?探しても居ないのに隠れて見ている。ん?何しているのだろう?不思議に思いながら歩いて行くとついてくる。何これ?どこまで来るのだろうか。我が家に着きそっと隠れて見ると、彼女は満足そうに来た道を戻っていく。目的がわからない。その日以降もついてくる。
何日かすると玄関で現れないので少し待つと慌ててやってきた彼女が私を見つけると嬉しそうな顔をして柱に隠れる。何あれ…可愛いのだが。この不思議な関係が少し楽しくなる。
「あ、明日居ないんだった。」
彼女に伝えるすべが無い事に気づきどうしようかと考えていたら口に出ていた。ふと彼女を見るとそうなんだって顔をして帰っていく。伝わったのかな?確認する方法は無いけど居なくて落ち込まれるよりはいいか。
「話がしたいな。目的は何だろう。あ、倒れてたからまた倒れないか心配されてる?」
どうしたら会話してもらえるのか。心配なら一緒に居て心配してもらいたいな。日中会いに行くと隠れてしまうから、私もこっそり隠れて彼女を見ている。同じ課の人達と話す彼女はとても可愛い。私にも笑いかけて欲しいな。考えているうちに数ヶ月経ってしまった。
「セドそろそろ結婚しないのか?相手がいないなら見合いとか。」
「あぁ…結婚するなら1人候補が。」
「本当か!?段取りしよう!誰だ?」
「魔術師団に勤めてるミシェル嬢です。彼女とならしたいですね。」
父上は任せとけ!と喜び去って行った。ミシェル嬢驚くかな?心配してくれるくらいだから、嫌われてはないと思うんだよね。少しずつでも良いから話をしたいな。目を合わせて笑って欲しい。楽しみだな。
「3日後の朝伺うことになったから!いやー、ついにセドも結婚かー。楽しみだな!」
3日後か。明日出張行って帰ってきたらすぐだな。彼女も楽しみにしてくれているだろうか。この時の私は浮かれきった父上のせいですれ違いが起きているなど微塵も思っていなかった。
「セド行くよ!」
「はい。楽しみです。」
嬉しそうな父上と彼女の家へと向かう。やっとミシェル嬢と向き合って話が出来る。
「ミシェル嬢今日はよろしくね。」
「え?何故セドリック様が我が家に?」
え?何故って。彼女が呆然と私を見ている。真っ青になったかと思うと真っ赤になっていて可愛いな。どうしたのかな?
「え!待って!」
ミシェル嬢が走り出し逃げてしまう。彼女の父上に一言伝え追いかける。嫌だったのかな?本当は嫌われてた?
「どうして逃げるの?私が嫌い?」
「違うんです。」
廊下の端っこに隠れていた彼女を見つけ話しかける。違うと言い真っ赤になるミシェル嬢。どうしたいのかな?彼女の横にしゃがみ込み話を聞く。
「セドリック様結婚するって聞いて…私ショックで落ち込んでいて、そのセドリック様がお見合い相手で現れて…意味が分からなくて…」
「相手聞いてなかったの?」
「…はい。断るつもりだったし、でも結婚した方がって色々あって…。あのセドリック様近くないですか?」
「ゴメンゴメン。やっと近づけたから嬉しくて。結婚するってどこで聞いたの?私ミシェル嬢以外とは結婚する気ないけど。」
「伯爵様が結婚するって言っていたと職場で聞きました。」
「父上が?浮かれてたから勝手に言ったんだね。出張行ってたから職場でそんな話出ていたとは気づかなかったな。それ聞いて落ち込んだの?」
「…はい。落ち込みました。お相手の方といつ会ってたのかなって。」
「そんな人居ないから。私が好きなのはミシェル嬢だよ。結婚するのも君がいい。」
え?と呆気に取られ呆然とする彼女を見つめ
、やっと目が合ったなって呑気に思う。青い瞳が綺麗だな。
「え?好き?」
「うん。助けてくれた日から好きだよ。優しくて可愛いしあっという間に惚れちゃった。」
「失恋してない?」
「私に?私になら失恋してないね。」
「えぇぇぇ…嘘でしょ。どうしたらいいの。」
「私に愛されたらいいよ。大事にするから。とりあえずココから移動しない?話をしようよ。ずっと君と話したかったんだ。」
彼女の手を取り端っこからとりあえず出してみる。見上げる瞳が可愛いな。
「え?セドリック様…」
「あ、つい可愛くて。」
可愛すぎて無意識に彼女の頬に口付けをしてしまった。真っ赤になる彼女は想像していた以上に私の心に刺さる。
「大丈夫ですか?疲れで変になっているのでは無いですか?」
「え?確かにあの日も襲いそうでヤバかったけど、今日は普段通りだと思うよ。」
「…襲いそう?」
「君が思っている以上に私はミシェル嬢が好きなんだ。毎日帰りについてきてくれて嬉しかったけど、もっと近くで話したかったのに逃げるし悲しかったな。」
「逃げたわけでは…。ただ見守っていただけなので…私如きが近くなんてダメだと。」
「見守られてるのも良かったけど、一緒に居たいな。一緒に出かけたり美味しいもの食べたりしたいな。」
話をしながら移動して用意されていた部屋に案内をしてもらう。隣を歩く彼女も可愛いな。
「あの…あまり見ないでください。恥ずかしいです。」
「見たいから諦めて。今まで見れなかった分ずっと見てたいな。」
ソファーに一緒に座り手を握ると、恥ずかしそうに俯くミシェル嬢はさらに可愛い。
「いつ結婚する?」
「本当に結婚するのですか?」
「うん。嫌?私の事嫌い?」
「嫌いじゃないです!私でいいのかなって。」
「ミシェル嬢がいいんだ。私の好きな人をそんな風に言わないでよ。これから私がどれだけ好きかを伝えていくから。明日から一緒に帰ろうね。」
顔を真っ赤にして頷く彼女を抱きしめる。可愛すぎるでしょ。
「父上ミシェル嬢と結婚します。婚約手続きを早めにお願いしますね。」
彼女を連れ父親達のもとに向かい告げると、2人は嬉しそうに喜んでいる。早々に手続きを進めてくれるとの事でお願いをする。
「ミシェル嬢これからよろしくね。」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
「大好きだよ。明日一緒にご飯食べに行こう。玄関で待ち合わせね。」
「はい。楽しみにしています。」
嬉しそうに微笑む彼女が可愛すぎる。私はやっと彼女と向き合って話が出来る事が嬉しく思う。毎日待っていたのに改めて待ち合わせをするという不思議な感覚に笑ってしまう。




