天王山の合戦⑥
明智軍との緒戦はある意味で想定通り、当初は明智軍優勢で戦況は進んでいた。
特に陣中央にて先鋒を任せられている斎藤利三の勢いは凄まじく、合わせて三倍近い
兵力の中川隊と高山隊を相手に優勢を保っている。
(思ったより、明智軍の勢いが強いの…)
ここで負ければ後がないといった思いが兵達にもあるのだろう。
兵の士気、勢いともに尋常でないものを離れた中央の秀吉本軍まで感じさせるものがあった。
「戦巧者の瀬兵衛(中川)や右近(高山)をもってしてもこれとはの……」
むしろこの両名だからこそ、後退はするものの、戦線を崩壊させずに維持できている
といった方が適切なのかもしれない。
それほど明智軍の勢いは凄まじく、それをなんとかいなしている中川、高山隊を褒めたくなるほどであった。
この両名は明智と関係が深い事もあり形成次第では敵方にいた可能性もあった事を思うと、
無理をして全軍を率いてきた自身の選択は間違いなかったとこの時点で確信できた。
「久太郎(堀)に後詰願うと伝令を」
「はっ!!」
とはいえ、こちらの想定を上回るほどではない。
当初よりこちらの先鋒の次陣に控えていた堀隊に、当初の予定より早く進軍するように伝令を送る。
「あい分かった。後詰に向かう」
『名人』との異名を持つ堀の救援により、混乱気味であった中川、高山両軍も落ち着きを
取り戻し、一刻もすると戦線は膠着状態になった。
それを見て、明智本軍からも援軍を出す動きが見られた。
(……遅い)
光秀らしからぬ判断の手際の悪さに、秀吉は舌打ちをした。
相手の一手一手が、致命的に遅れている。
一手そのものは大した影響がなくとも、その積み重ねが取り返しのつかないものになっていく。
兵が少ないから、出し惜しみをしているのか。各戦線より救援要請が届き、
優先順位をつけかねているのか。
援軍を出すなら、中川高山両隊が崩れかけている時こそであったであろう。
今更援軍を出しても、それが戦線の維持には繋がっても、
戦勝には繋がらない事はもはや明らかであった。
(勝負どころじゃな)
当初ほどの勢いが減衰し、明智兵の疲労を感じた秀吉は判断を下す。
「わしらも出るぞ!右翼の勝三郎(池田)殿、左翼の官兵衛(黒田)と小十郎(秀長)に
総攻めと申し伝えよ!わしらは兵をふたつに分け、両翼の後詰に向かう!
本軍の五郎左(丹羽)殿に、後の采配はお任せし申すと申し上げよ!!」」




