幕間:大坂城下の謀略(1/2)
織田信孝と丹羽長秀は大坂の地で今後の方針について話し合っていた。
目下、現状の問題は大きく分けて二つである。
1,離散が止まらない兵をどうするのか
2,明智軍への対策について
結局のところ、行きつく先は兵の自分達への信頼の問題なのであろう。
兵達のこの軍、勢力に従っても大丈夫かという確信、そうでなくても強い期待がなければ、
この時代、兵はついてこずに逃亡してしまう事が多かった。
勝ち戦でなければ貰える恩賞にも限りがある。誰だって勝ち馬に乗りたいものなのだ。
特に、この大坂の地はつい最近まで長年敵対していた石山本願寺の本拠地であったわけで、
織田家に対する印象が良いとは言えない場所である。
信長を討った明智側に心象的には好印象を持ってすらいるかもしれない。
現状この近辺で徴募した兵達に忠誠心を求めてもそれは仕方ないため、
利によって兵をつなぎ留めなければならない事は間違いない。
「大事であるのはあの明智軍に、こちらが勝てると思わせる事なのですが」
「初手からそれ自体が難題よな」
信孝、長秀は共に嘆息する。
なにせ明智軍は織田家の中でも最精鋭で知られている。
明智光秀自身が名将でもあり、彼の麾下もその彼の高い水準の要求と指揮によく応えれる
優秀な武将と良く調練された兵が揃っている。
そして彼の本拠地も丹波とこの大坂から近く、何度も援軍として明智軍はこの地に来ているため
地元の兵達もその精強さは知れ渡っている。
1,兵の離散を止めるには、戦に勝つ実績をあげて兵の信頼を上げる事が欠かせない。
2,だが、敵となる明智軍は精強で、兵力に劣る現状では勝ち目はない。
3,兵達もそう思っているので、無断の離散が後を絶たない。
堂々巡り、いわゆる無限ループである。
兵の離散だけならまだましで、武将の誰それが寝返ったという噂、
真偽不明の流言まで飛び交っている始末である。
「儂は明智をけしかけて織田家当主を簒奪した事になっているらしいの」
「流言を全て信じるなら、我ら全て明智方と言う事になりますからな」
あまり笑えないのは、それで皆が疑心暗鬼になっている事だ。
このままでは、疑心暗鬼からいつ内輪での争いが始まってもおかしくない状態である。
「小規模で一度でも、戦に勝って実績を作れればいいのですが」
四国遠征軍は文字通り今回の目的の為に集まったため、
未だこの軍としての実戦は一度も経験していない。
何度も敵を前に戦う事で団結力は上がっていくものなので、その点も問題といえた。
「……まあ、一つ策がないわけではないのだがな」
「誠にございますか?」
信孝のその言葉に、長秀は問いかえす。
正直、友軍を待つほか意外の良策がなにも浮かばない現状、どんな策でもあれば
ありがたい現状である。
「いるであろう。明智方で、そう兵の質も高くなく、戦の準備もできていない者達が」
「そのような都合の良い相手がいるわけが…………」
そう言いかけて、丹羽長秀の口がピタリ、と止まる。
「侍従様、もしや……」
「そなたが言い淀んだという事は、同じことを考えたという事よ」
「………誰かを、戦勝の為の生贄にするおつもりで?」




