羽柴秀吉との対面②
「ああ、筑前(秀吉)、よく来てくれた。すまないな、忙しい時分に」
「なんのなんの、中将様の御為ならこの筑前、いくらでも犬馬の労をとりましょうぞ!!」
初対面の羽柴秀吉の印象は、とても元気な親戚の伯父さんみたいなイメージだった。
にこにこ笑みを浮かべながら、こちらの様子を窺がっている。
「まだ身体が思うように動かなくての、布団の上からで、申し訳ない」
「いやいや、そんな時分にわしのために拝謁の時間をいただき、誠に申し訳ないことで」
「なに、対面できるのに父上の仇を討ってくれた筑前に会わぬなんて事はできぬよ」
ようやくではあるが、寝起きする分には特段問題ないところまではやってこれた。
身体の筋肉が完全に衰えてしまっているので、まだ長時間立ったり動いたりはできないので、
このような対面になっている。
「いえいえ、わしは上様の家臣として、当たり前の事をしたまでで」
へへっ、と頭を掻きながら照れたように笑みを浮かべる。
「いや、あのような場所から神速で畿内に戻り、そのまま明智を討伐するなど、尋常の
事でできるわけでない。本当に凄いよ、筑前は」
「中将様…」
史実とその結果から、自分達はあれこれ批評したりできるのだが、当事者となってみると
改めてその凄さを感じれる。
敵の総大将(毛利家)と対峙しており、こちらも総大将の信長と光秀の援軍を待っていたら
その光秀が謀反で援軍が消失どころか新しい敵が発生。
敵の領土奥深くで孤立してしまうという、通常であれば詰んでいる状況。
実際問題、羽柴軍以外に戦線を維持できたのは柴田勝家率いる北陸方面くらいなもので、
滝川一益の関東方面は北条家に攻められ壊滅、織田信孝、丹羽長秀の四国征伐軍は
本能寺の変の情報が広まるや否や兵の脱走が続出してしまうなど、
惨憺たる結果になっている。
そんな中、敵の最前線からほぼ全軍を率いて撤退して、そのまま最短で京まで帰還、
そこから近畿の織田家諸将を纏めて一気に明智光秀を打ち破るという、
凄まじい結果を残している。
少なくとも自分にはできずに、逃げるだけ逃げて、気を失っていた始末であった。
自分ではなにもできなかった。勝長や利治はじめ、皆の頑張りでようやく身一つ逃れる
事ができただけであった。
「……儂にはできなんだ事をしてくれてありがとうな、秀吉、本当に、ありがとう。
亡き父上に代わり、御礼申し上げる」
そう言って、頭を深々と秀吉に下げる。
頭を下げた先から、涙で嗚咽声が聞こえる。
「……どうした?」
「いやぁ……中将様にそう言っていただけてほっとするのと同時に、『あぁ、ほんとーに信長さま
はいなくなってしまったんじゃの』って思ってしまいましての……」
涙を袖で拭きながら、すいませぬなと秀吉はからっと笑ってそう話す。
「わしゃあ、信長様に、褒められたくて、認められたくて、若い頃から頑張ってきましての……
上手くいって褒められたこともあれば、出しゃばってどえりゃあ怒られた事もありました」
「あの御方の『サル、でかしたわ!』のお言葉が、いつも嬉しゅうて、それが励みで頑張って
いつのまにやらこんな立場になっとって……もう、その声が聞けないと思うと、寂しゅうて、悲しゅうなりましての……」
目を真っ赤にして、父信長の思い出を語る秀吉。
常に本心で、赤心を見せているように感じる。
それが、彼の魅力なのだろう、そう思えた。




