清州会議当日③
「ここからは、私が話すとしよう」
そう言い、部屋に入っている者が一人。
「侍従様……?」
織田信長の3男である織田侍従三七信孝が、そこにいた。
部屋に入り、つかつかと歩くと、自分の場所はそこであるかのように、自然に座る。
「……そこは御当主様の席なんじゃがの、侍従様」
「今から説明する、そう急くな、筑前」
座ったのは一段高い上座、誰も座っていなかった織田家当主の席であった。
鷹揚に、非常に余裕のある表情で羽柴秀吉の問いに答えている。
周囲を見渡せば、動揺している人の方が少なかった。
(柴田の親父様は目を瞑ってなにも言わん……五郎左はあんま良い顔しとらんがなんも言わん)
こちらと同じく分かってなさそうで首を傾げているのは池田殿のみ、
(こりゃあ、事前に話しついとるの)
問題は、どういった話し合いで、なにを決めているのかといったところなのだが。
「議題は、織田家の今後の当主についてである」
「はぁ……?」
信孝の発言に、なんとも間の抜けた声を発する秀吉。
「今後もなにも、織田家の家督は既に中将様が引き継がれているのでは」
既に織田家の家督は信長生前より織田信忠に引き継がれている。
議題にもなにもなるまいといった秀吉の言葉に、
「『織田家の家督』はの。それ以外は、そうではあるまい」
「…………?」
どうも信孝の言っている事は要領を得ないと言うか、わかりづらい。
意図的なのか、それとも無意識なのか。
家督を継いでいるのならそれが当主ではないのか。
「私がいいたいのはな、筑前。父上が果たしていた織田家の役割を、誰が引き継ぐのかといった
話なのだ」
(……ああ、そーいうことかいな)
「修理亮、兄上の様子はどのようにきき及んでいる」
「……はっ、顔を見ても、ほとんどの者の顔が分からぬようでございます。
名前を名乗ると、一部の者の名と経歴は思い出せるようですが」
「そうか……長きに渡る昏睡の後遺症かの。お労しい事じゃ」
あまりそうは思ってなさそうな声で、信孝は形式上、悼むような事を言う。
「なーにが問題あるんじゃ?頭があほんたらになったわけじゃないんじゃろ?普通に喋れて、
普通に意思疎通はできるんじゃろ?問題ないじゃろ」
「織田家の家督を継ぐ者と一領主ならば補佐がいれば何とでもなろうがの。天下を差配する
当主となれば、それでは難しいと思うが、どうか」
秀吉の問いに信孝はそのように答える。
「織田の家督とそうじゃな、尾張は織田家由縁の国ゆえにそこはそのままでよかろう」
(だんだんわかってきたのぉ……)
織田政権の代表者と織田の家督は別問題。
要するに織田信長の後釜に自分がそのまま乗ると言っているらしい。
織田政権は織田信孝、織田家の家督は織田信忠にするとの事らしい。
(また、ややこしいことを……)
「三七様……織田家を割るおつもりかの?」




