清州会議当日④
「三七様……織田家を割るおつもりかの?」
「別にそんな意図はない。特段、今までとなんら変わりあるまい?」
秀吉の問いかけに、信孝はなんともないとの返答をする。
「兄上がいつ正常に復帰できぬか分からぬ以上、誰かが父上の後を継がねばならぬ。
ならばーーーー父上の子で、方面軍の大将を唯一任せられていた、この信孝こそが、相応しかろう」
いかがか、と信孝は皆に問いかける。
問いかける、といっても既に柴田勝家と丹羽長秀に根回ししている以上、
単なる確認にすぎないのだろう。
その言葉には、有無を言わせぬ意思を自信が感じられた。
「いくつか、質問してもよろしいかの?」
「もうしていると思うが。まあ、いいだろう」
「侍従(信孝)様がその立場になるのを、兄や叔父から反対が出かねんが、どうされますかの?」
「私達の会議で決めた事に、反対などできるわけがないであろう?するなら、それまでよ」
「今後、織田家をどのようにしていきたいので?」
「諸事、父上と同じように。織田家のため、敵対する諸大名を潰していくのみよ」
「侍従様の思う天下とは、なんですかいの?」
「……?天下の諸大名が織田家に全て従った先が、天下であろう」
「なるほど、なるほど!!!」
秀吉は大きく頷き、笑顔を見せる。
「この筑前。諸事、皆様に合わせましょうぞ」
「…………それでは、本日の議題はこれまでじゃ。細やかな部分は追って纏めたのち沙汰するので、
しばしお待ちくだされよ」
そうして、この場は解散となる。
「柴田の親父殿」
秀吉は帰りぎわに、最後に、一度。
自分がまだ吹けば飛ぶような小身の時、まだ面倒見のいい上司として慕っていた時の呼び方で
柴田勝家に問いかける。
「おみゃー様、これで本当にいいんかの?」
「藤吉郎」
「これしかないんじゃ……これで、いいんじゃ」
そう言い、振り返ることなく立ち去っていく。
「……あんなに小さいお姿じゃったかの」
若い頃は到底自分では太刀打ちできない、とても大きく、重たい人物に見えたものだ。
今背中を見つめる柴田勝家は、自分の印象よりも、とても小さく、寂しく見えた。
その後、織田家の所領は以下のように再編されることとなった。
近江一郡……織田信包
美濃一国……織田信孝
尾張一国……織田信忠
伊勢一国……織田信雄
その後、一つの事件があった。
ーーー前田利家、この処置に納得いかず一族を連れて織田信忠の元に出奔。
罰するわけにもいかず、ただ無断で領国を離れたとの咎で能登国は没収された。
信忠は驚き戸惑いながら、元々の故郷の荒子城と尾張1郡を与え、
重臣として手厚くもてなす事にしたという。




