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転生したら本能寺で織田信忠だった・・・・あれ、詰んでない?  作者: ハルラララ


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幕間 松姫様は恋をしたい(前編)

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「きみょーまる、さま?」

物心がついた頃には、既にわたくしの許婚、夫となる方は決まっておりました。

織田家の嫡男で、幼名奇妙丸様という御方。 

「へんなおなまえ」

失礼ながら、そんな事を言った事と、周囲はその言葉になんと言えばいいのやら

戸惑っていた事はなんとなしに覚えております。

いえ、今でも妙な幼名とは思いますけれど。印象深くて一度で覚えれましたけどね。


それからというもの、わたくしの日々は嫁入りに向けての習い事に勤しむ日々でした。

武田の姫として、織田の嫡男の正室として嫁ぐものとして、恥ずかしくないように。


楽しかった、と言えば嘘になります。

まだ10にもならぬ幼き子に、所作を始めとする礼儀作法、手習い、最低限の武芸。

名家武田の姫として、他家に恥ずかしくなく嫁がせるためのものですがら、

それは厳しく、大変なものでした。

つらくて、何度も泣いたり逃げ出したりした事もありました。


それでも、投げ出したと思った事や、もう辞めたいと思った事はありません。

時には怒りながら、時にはぐずりながら、それでも最後には自分から習い事に戻ったものでした。


お会いした事もなく、交流は何度か文のやりとりをしたくらい。

子ども同士のやりとりです、やれ最近はどこに行っただの、やれなんの食べ物が美味しかったの。

そんな些細な事のやりとりでした。

他愛のない、日常の日々の交わしあい。


ーーーそれでも、それがとても楽しうございました。

自分の文を奇妙様はどのように見てくれているのだろう。

どんな事を感じてくれているのだろう。どんな事を思い、どんなお返事を書いてくれるのだろう。


そのように思いを馳せ、次の文は、いつくるのだろうと待つ日々は、悪くないものでございました。



自分はいつ嫁ぐのか。

いつ、妻となり、奇妙丸様に会えるのか。


いつかくるその日を待って、日々その準備をする毎日でございました。



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「ーーーーーえ?」


元亀3年、その日々は突如として終わりを迎えます。


後に三方ヶ原の戦、と呼ばれる戦が始まり、武田と織田は断交、手切れとなります。

必然、同盟の証であったわたしくと奇妙丸様の婚約も解消。


ーーーわたくしが、織田に嫁ぐ事はなくなったのです。


戦に向かう前、わざわざ父上様がわたくしの部屋まで来て、

直接その婚約破棄の事を伝えにきてくださりました。


戦国を生きる武将たるもの、情で判断を変える事などありません。

特に甲斐の虎とまで言われた武田信玄ならばより一層、そんな事などないでしょう。


けれども、判断と情が違うのもまた事実。

戦前で忙しいでしょうに、体調もあまりよくないでしょうに、わざわざ時間をとって

自分でそれを告げるのは、判断を下した自分の責任と思われたのでしょうか。


「ーー織田とは手切れになった。まつよ、今後、お前が織田家に嫁ぐ事はもうないのだ」

そう、諭すように父はわたしに語ります。

「お前の夫は、また儂が相応しい相手を見つけよう。お前が気に入る、ふさ」

「いやです」


父上が話す途中で、拒絶の言葉が唇から零れました。


「嫌にございまする」

「まつ、我儘を言うな」


「いやです」

「おまつ!!!」


窘めるように、父上は強い口調で怒鳴ります。

何十年も戦場で数多の敵と戦い続けたその迫力。


身体が震え、怖くて涙が零れました。

それでも、それでも。


「ーーー私は、奇妙丸様の妻なのです!!」


……わたくしの心は、とおの昔に定まっていたのです。


「で、あるか」


視線を逸らさず、父を涙目で強く見据えるその姿をしばらく見つめると、


「好きにせい」


ため息をつくとそう言って、その後は私を見る事もなく部屋から去っていかれました。


表向きは、万一まだ織田と交渉をする事があった際の手札を残すためとして、

わたしくの立場はそのまま留保となりました。

その実は、わたくしの我儘を隠す為の親心。


甲斐の虎と呼ばれている武田信玄でしたが、わたくしにとっては結局優しい父上でございました。


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元服をし、名を勘九郎信忠と名を改めたと聞きました


「おだ、かんくろう、のぶただ様」


もう、奇妙な名前ではございません。

ご立派な、一人の武士としての凛々しいお名前。


…………どこか、遠いお人になったように感じました。


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父上が亡くなり、勝頼の兄上が武田の名跡を継ぐ事になりました。

それに伴い、わたくしの住居も変わります。


それまで住んでいた躑躅ヶ崎館から、同母の兄である仁科盛信の城である高遠の城に

移る事になりました。

国も移り、甲斐の国から信濃の国へ。

隣は美濃、信忠様が住まわれている織田の領国にございます。


あの木曽の山を越えれば美濃の国。

その美濃の岐阜城には、信忠様がいる。


距離してはおよそ数日。女の足でもそれくらいだたどり着ける距離。



ーーーああ、なんと近く。

そしてなんと遠い距離なのでしょう。




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