⑦これは天女ですか?~いいえ、松姫です~
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ーーー夢を見た。
真っ暗闇の霧中で、誰かの声が聞こえてる。
上下左右も分からない、目隠しで水の中にいるような中で、その声だけが道標。
声が二方向から聞こえてる。
片や、優しい声、こちらに来るよう囁いてる、
片や、凛々しい声、声の逆に行くよう叫んでる、
どちらにしても、指し示す先は同じみたい。
ぼんやりした思考の中で、その声が示す先に意識を向ける。
そうすると、徐々に暗闇に光が差してくる。
囁く声ははっきりと、
叫んでいた声は徐々に微かに。
瞬間、
強い光を浴びたかと思うと、意識はまた深く曖昧に溶けていったーーー
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「ん…………」
目が覚めて、最初に視界に入ったのは木の天井だった。
白い絹の布団に身体は寝かされていて、全身は自分の汗で濡れていて気持ち悪い。
……全身がとてもだるい。インフルやコロナの高熱にかかった後の時を思い出す。
顔を動かすのも億劫で、身体は全身に鉛をつけられたかようにピクリとも動かない。
「…………?」
ふと、右手にとても柔らかくて暖かい感覚。
とても優しく、こわれものを扱うように自分の手を包んでいる。
強い意志でなんとか首を右に向ける。
それだけで短距離走を全力で走ったような疲労がきた。
ーーー朝日を背に、この世の者とは思えない女性が、その場にいた。
簡素な装飾ながらも上質な布の衣装を着、その着物からも分かる美しい肢体。
眠っている表情は天女のように美しい、長い睫毛、意思の強さを感じさせる整った眉、
珠のように滑らかな肌に朱を塗ったかのような紅い唇。
疲労で少し顔がやつれているように思えるが、その程度では彼女の美を損なう事もできもせず、
その翳がより一層彼女の美を引き立てている。
こくり、こくりと船を漕いでいる姿も美しい。
なにこの理想の戦国のお姫様。
自分の好みどんぴしゃの、美少女姫様が、俺の手を包んでそばにいた。
………あ、俺これ死んだのかな?
それで、自分の理想の女性をお迎えに神様が迎えに送ってくれたと。
そう思えば、神様も粋な事をしてくれると思う。
……いや、神がいるのなら碌な事してくれていないか。
だって急に本能寺の変よ?
そんで逃げ出してこの戦国時代の中休まず悪路を全力で逃げて、
仕舞には鉄砲で撃たれて倒れるときたのものだ。
おのれジーザスシット。許すまじ、神。
いやでもこんな天使迎えに送ってくれてるのなら、やっぱ許さないでもない。
見つめている視線を感じたのだろうか、
寝ていた瞳が、うっすら開く。
視線はぼやけ、徐々に焦点があったのだろう、こちらの顔を見つめている。
「のぶ、ただ、さま?」
ぱちくりと。彼女が目を覚まし目と目が合う。
強い意志を感じる凛々しい目に、琥珀のように美しい瞳。
その美しい翡翠の瞳に自分の顔が映っている。
その瞳と表情が、驚愕、歓喜、そして涙が滲んでくる。
「信忠様、信忠様、信忠様!?」
信じられないものを見るように。
奇跡が届いたと思っているかのように。
…………自分をこんなに案じてくれているのは誰だろう。
誰、と問おうと口を開くが、不思議な事に、身体が別の言葉を求め、発する。
ーーー身体が、彼女を覚えていた。
ずっと、求め願っていた相手に、
自然と、口から彼女の名前が零れてくる。
「……松、姫?」
涙の中に歓喜の表情が混ざり、擦れた、それでも美麗な声が唇から零れる。
「……はい、まつにございます」
「ーーーお会いしとうございました、信忠様」
そう言って、こちらに微笑みかける泣き笑顔。
……この世界に来て、この姿を忘れる事はないのだろう。
それくらい、その笑顔は美しかった。




