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「さて、人も出払ったところで」
キリヤさん、キースさん、リオーネさんは戻っていった。
大臣や近衛兵たちも下がらせている。
今ここにいるのはガーベラさん、ヴェロニカさん、私の三人。
そして、
「遅くなりました」
裏口からオニキスさんがやって来た。
「首尾はどうじゃ?」
「始めたばかりですので、まだ成果はありません。もうしばらくお待ちください」
オニキスは何かしら仕事をしているようですが、内容は分からない。
調査のように聞こえますが・・・
「ヴェロニカには礼を言わねばならんの。助かった」
「そんな大変な仕事じゃなかったし、大したことはないよ」
ヴェロニカさんはガーベラさんにとある仕事を依頼されていた。
それは、キリヤさんの発言を広めるという内容だった。
キリヤさんは異世界人。
異世界人にはこの世界の常識や理屈は関係がない。シルフィの現状なども関係がない。
そしてシルフィの現状やマーガレットのやっていることをある程度知っていて、最低限の常識や政治の知識を持っている。
更に、キリヤさんは思ったことを包まずに口にすることがある。
ガーベラさんは数少ない接触の機会で、キリヤさんのそういった面を見抜いていた。
演説の様子を見せることで、思ったことを素直に口にするだろう。
ガーベラさんはキリヤさんを使って広めてやることで、民衆にマーガレットがやっていることを知らしめ、流れを引き込もうとしたのだ。
もちろん、そんなことをするためには、相応な能力を持っている人物の協力が不可欠。
ガーベラさんの配下には、そこまでの技量を持った人物がいなかった。
最も信頼のおけるオニキスさんでさえも、広範囲に展開できるほどの力量がなかった。
そこで白羽の矢が立ったのがヴェロニカさんで、ヴェロニカさんはガーベラさんの要請を受け入れた。
選挙当日。会場にいる人々だけでなく、首都中に響き渡るように、テレパシーを応用してキリヤさんの発言を発信。
ガーベラさんとヴェロニカさんの予想どおり、キリヤさんは自分の考えを包み隠さず演説会場で口にした。
その結果、民衆が持つ不満をかき立てることとなり、マーガレット有利をひっくり返すことができたのである。
「まあ、代償は大きいとは思うけれど」
ガーベラさんが勝利した。その結果、キリヤさんの自由が無くなることとなった。
この計画はキリヤさんが思いの丈を包み隠さず言うことが大前提。
それ故に内々でしか発言しない。余計な火種になりかねないので、大勢の前では口をつぐむ。
観覧席での発言も、周囲の貴族たちには聞こえてしまうリスクはあったものの、民衆には聞かれないということで発言したものと思われますが、それを知らぬ間に展開されてしまった。
大方、不満を持っている者半分、現状維持が半分という選挙結果。
変更しなくても良い、もしくは変更したくないと思う方々からすれば、キリヤさんは余計なことを言い出した政敵であるとも言える。
故に過激派の方々から狙われる可能性がある。
外出も満足にできなくなる。これを強いることになったのは、
「ワシが言い出したことじゃからの。文句を言われても仕方がないところじゃが」
「わたしも加担したからねぇ」
この二人である。
「不満そうじゃな」
「・・・顔に出ていましたか?」
「雰囲気で分かる」
ガーベラさんは苦笑いで、
「そりゃあ、悪いとは思うがの。いくら国のためとは言えど、利用する形になってしもうた」
利用するという自覚がある分、まだ可愛げはありますが・・・
「その辺りは仕方がないでしょ」
ヴェロニカさんは少し違うようで、
「何かを変えるためには犠牲が必要なこともある。それが今回、キリさんだっただけだよ」
「キリヤさんに事前に断っておくだけでもかなり違うと思うのですが」
知っているかどうかだけでも、気持ちは変わるはず。
「あの人のことだからねぇ。今回のことは断ったかもしれないねぇ。想像力はかなりあるほうだし」
「そうなると勝てなかったかもしれんな。それほどにあの法律が与えた影響は大きい」
美しい者が女王。
この法律が全てを狂わせたと言って過言ではない。
「もちろん、エルフ族だけの話ではないのだがな」
「この国に住むヒト族も判断が鈍っているのは間違いないがの」
それほど国の頂点から発信されるものの影響は大きい、ということですが。
「マーベルが言いたいことは分かる。ワシも申し訳ない気持ちもある。故にクローゼットバングルを報酬として準備したんじゃぞ?」
アーティファクトは価値が高い。
いくらお金を積んでも手に入れたいと思う者がいるくらいの代物。持つことで他を圧倒できる性能を持つからだ。
それを一冒険者に渡すというのは、他では見られないこと。
異世界から来たキリヤさんならまだしも、存在を知っている私からすると有り得ない話ではある。
それだけ、ガーベラさんも気に掛けているということではありますが・・・
「それを言うならマーベルだってそうでしょ?」
矛先が私に・・・?
「この話、マーベルだって一緒に聞いてたでしょ?」
ヴェロニカさんは一人で行動できない。
空中を移動することができるようですが、一般的に赤ちゃんがそういったスキルを使って移動するのは不可能だし、特殊な存在として認識されてしまう。
そうならないよう、キリヤさんや私が連れて歩くわけで、この日も私が一緒にいた。
「気になるなら、その時に強く止めていればよかったじゃない?」
「・・・そう言われればそうですが」
おっしゃることはその通りなので、ぐうの音も出ない。
この依頼を受けた時、疑問には思っていた。騒ぎの中心人物になる可能性も想像はできていた。その未来を想像したため、心配もした。
その時に止めていれば、ああいうことにはならなかったかもしれない。
「じゃが、その場合はこの国は変わる機会を失ったじゃろう」
「また数年、不毛な時代が続いただろうな」
キリヤさんの安全と引き換えに、この国の変化はなかった。
どちらが良かったのか。
なかなか難しい問題で、答えが出ない。
しかも、当の本人は知らないこと故、余計にそうなる。
「もちろん、クローゼットバングル以外のことも考えてはおるよ。資金援助は難しいが、この国におる間の情報収集や宿屋の手配は可能じゃし、ヴェロニカの件が終わってシルフィに来るようであれば、可能な限りの援助は約束しよう」
そういうことでもないように思えますが・・・
「済まぬな。こちらも自分たちのことでいっぱいいっぱいじゃ。キリヤだけでなく、お主たちにも感謝しておる。今はワシの顔に免じて許してくれんか?」
女王から頭を下げられると困りますが、
「キリヤのことに関しては情報操作をしている最中だ。ガーベラ様の関係者とするかどうかが悩みどころだが、悪いようにはしない」
「マーベル、この件に関してはわたしたちも同罪だから、わたしたちもキリさんに対してできることをしていこうよ」
「・・・分かりました」
ヴェロニカさんが言うこともごもっともな話か・・・
ガーベラさんたちも動くようですし、それを信じるしかありません。
私も一枚噛んでいるというのも間違いではないので、私もできることをしていくことにしましょう。
「それじゃあ、わたしたちも行こうか」
「そうですね」
「キリヤもそうじゃが、気を付けて旅を続けるのじゃぞ」
「何かあれば連絡をくれ。可能な限り対応する」
荷物をまとめ終わったら、首都を出ることになる。
また旅が始まります。




