6-3
次は俺たちの番か。
「まずはマーベル。お主はワシを含むシルフィ政府の優先取引先として指定させてもらった」
「ありがとうございます」
・・・内容からして商売の、しかも結構良い条件に聞こえる。
「ってことはつまり?」
一応聞いておくか。
「私も他の大手さんと同様、政府相手に取引ができるわけです」
やっぱりそうか。
「私はあくまでも商人ですから。目の前の報酬はもちろん大切ですが、それよりも未来への布石のほうが重要です」
「うん、あなたはそういう人だ。聞けて安心したよ」
今回の報酬は今回っきり。商売は続けなけりゃならない。
次の仕事に繋がるように仕掛けていく。さすがはマーベルさんと言ったところか。
「ワシとしても助かる話でな。扱う商品だけじゃなく、こちらの事情を理解して動いてくれる。これがなかなか難しい」
ガーベラさんは自分の部隊を持ってる。
政府相手っていうより、どっちかっていうとガーベラさん個人の取引って意味合いのほうが強そうだな。
まあ、マーベルさんがやることだし、聞いたら戻れなくなるかもしれないから、これ以上踏み込むのはやめよう。
「最後はキリヤじゃな」
とうとう俺の番か。
俺は特に何って希望はない。
お金さえ貰えれば、しばらくの旅費になる。
そりゃあ、言わせてもらえるなら、もっと良い装備が欲しいとか色々あるんだが、そういうのはちょっと違う気もするしなぁ。
「キリヤにはこれを渡そうと思ってな」
スタッフがとある物を持ってきてくれた。
「こちらです」
「・・・どうも」
受け取ったのは、
「・・・ブレスレット?」
一本のブレスレットだった。
これが報酬・・・?
いや、悪いとかはないけど・・・これ一本?
俺はこういうのに疎いから何ともだが、そこそこしっかりした装飾がなされた物で、素材は何らかの金属製。見た感じは銅に近いような色合いだ。
確かに高価そうに見えるが・・・
「それはクローゼットバングルというアイテムでな」
「クローゼットバングル・・・!?すごいアイテムではありませんか!」
「・・・そんなにすごいのか?」
ただのブレスレットにしか見えないが、マーベルさんの驚き様からして凄いアイテムなんだろうなぁ。
「このバングルはアイテムを収納できるアクセサリーでの。この世のほとんどの物を収納できる優れものじゃよ」
「・・・はあ」
聞いてもイマイチ実感がないんだが・・・
「それはの、物の大小や量を関係なく腕輪に収納できる物なのじゃ」
「大小、量も関係なく?」
「例えばの話じゃが、剣を一本収めることもできるし、百本収めることもできるし、大量の野菜でも宝石でも、一軒家を丸々収納するということもできるんじゃよ」
「・・・ワーオ」
「あくまでも例えばの話じゃよ。基本的には道具や素材という名目でしか収納できん。一軒家を収納はできんと思う。やったことがないから分からんが」
仮にそうであったとしても、大きさや量に制限がない収納アイテムってことに変わりはない。
「物を大量に収納しても、それらと同じ重量となるわけでもなく、バングル内は時間が止まっておるようじゃから、食品を入れても腐らん」
これはアツい!
相当アツい!
今までヴェロニカに頼っていた荷物の保管も、自分でできるようになる。
それだけじゃなく、どれだけ詰め込んでもバングル本体の重量のみってことは携帯性が高まるし、物が腐らないなら食材だけじゃなく、氷なんかも溶けないってことだ。
これは俺たちみたいな旅の者にとっちゃあ、喉から手が出るくらい欲しい物だ。
「こりゃあまるで青いロボットのアレみたいじゃないか」
「何のことじゃ?」
「いや、こっちの話です」
物が白いぺらぺらか、ブロンズのバングルかの違いで、内容的にはアレに近い。
ストレートに言うと何かに引っ掛かるだろうからざっくりとしか言わないが。
この世界にそういう便利アイテムがあるとはな・・・
しかもそれを頂けるっていう。
「ガーベラさんがアーティファクトをお持ちだったとは」
「・・・何、それ?」
なんか聞き慣れないワードが出てきたが・・・
「何だお前、アーティファクトを知らねぇのか?」
「田舎出身だから縁遠くてね」
田舎どころか、異世界人だからな・・・
「アーティファクトとは、現代では製造、再現が不可能な道具のことを言うのです」
・・・ってことは、一種のオーパーツみたいな物の総称ってことか。
そりゃまあ、そうだよな。
ラヴィリアの世界観や文明レベルからして、このバングルを製造するのは難しい。
「クローゼットバングルもそうですが、他にも便利な道具があるようです」
「道具だけじゃねぇ。武器とか防具もあるって話だぜ?」
「・・・武器もあるのか?」
道具もありゃあ武具もある。それは分かる話ではあるが・・・
「例えば?」
「現存しておる武具に関してはワシも多少知っておる。一振りするだけで暴風を起こせる扇があるぞ」
どっかのマンガで出てきたような内容の武器だな・・・
「性能もそうじゃが、未知の素材でできておる故に破壊することが困難で、マナタイトによる合成ができん」
「なんと」
壊れないってのはおいしいが、合成できないってのは結構痛いな。
今のランドウィップ・・・毒と麻痺効果を付与できている現状がかなり使い勝手がいい。自分好みの武器にできるのが合成の旨味の一つだろうと思っているが、それができないってのは人によっちゃあ困るよなぁ。
まあ、そんな得物を手に入れてないから、そんな心配をする必要はないんだが・・・
「そういう代物故に高価な物にはなるが、気にせず受け取ってくれ」
「とは言いましても・・・」
話を聞くだけでも、このブレスレットって国宝級の代物であることは変わりないわけで、そんな物をいただくってのは気が引けるんですが・・・
「なに、気にせず受け取ってくれ。ワシも一本保有しておるし、使わず倉庫に放置しておくくらいなら、お主に託したほうが有用じゃろう」
道具の性質上、一本あれば事足りる。
貴重な代物だから資産価値がある。本当なら置いておくほうがいいが、使える物を放置しておくのももったいないっていう気持ちも分かる。
「そういうことなら、ありがたくいただきますか」
ここまで言ってくれているなら、ご厚意に甘えることにしよう。
まあ、冒険者の一人でしかない俺にここまでするってのは、裏で何かがあるのかもしれないが、それはそれ。
何かしら利用されていたんだろうが、宿やら飯やら色々世話になったし、目を瞑ることにしよう。
「よし、これで精算終了じゃな」
報酬も貰えたし、これで首都での案件は終了だな。
「お主らはこの後、旅立つのか?」
「その予定です」
首都での用事はないし、先に進まないといけない。
ビューラ大陸はまだまだ先だ。
ボルドウィンからそこそこ北上してきたとは言っても、隣の大陸に移動するための船がある港は最北の地。そっちもまだまだ先。
そこまで急いではいないものの、時間は有限だし、できることはやっておくに限る。
「それじゃ、俺たちはこの辺で」
早速クローゼットバングルを左腕に通して、
「うむ。世話になったな、キリヤ」
「こちらこそ、お世話になりました」
「荷物をまとめるのは今からじゃろ?宿に部下を一人出すから、終わったら話しかけるが良いぞ。北門まで送るからの」
「最後の最後まで助かります」
一礼すると、
「全てが終われば、またウチに来るが良いぞ。また協力してくれると助かるでな」
「その時になれば、また」
そもそも生き残れるか分からん旅だ。ここに戻って来られるかも分からん。
それでもまあ、そういうことを言ってくれるってのはなかなか嬉しいもんだな。
「ああ、そういえば」
謁見の間を出ようとしたら、
「・・・どうした?」
ヴェロニカを抱えたマーベルさんが立ち止まり、
「早速商売をしておこうと思いまして」
「・・・だと思ったよ」
相変わらずだな、この人・・・
「終わり次第戻ります」
「・・・程ほどにしといてください・・・」
安心を通り越して呆れる・・・
まあ、いいだろ・・・資金は必要だし、稼げる時に稼いでもらおう。
一番の稼ぎ時に仕事ができなかったこともあるし、ここは素直にさせておくほうがいってのもあるが。
「さて」
首都滞在もここまで。次は港町だ。
ここからどうなることやら。




