6-2
「よう集まってくれたの、皆の衆」
翌日、俺たちはガーベラさんに呼び出され、謁見の間へ。
「あれ?随分とさっぱりされてるんですね」
俺たちが謁見の間に通された時には、ガーベラさんは王座に座っていた。
当人は屋敷で身に纏っていたシンプルなドレスを着用していて、アクセサリーは最低限に抑えられていた。
「おう、ワシはこれで十分じゃ」
「てっきり女王になったから相応の身なりになるんだと思ってましたよ」
「そういう時は着飾るが、今は特に誰かと会う予定もないし、普段どおりで十分じゃ。これでも着飾っておるほうじゃよ」
シンプルなドレスとイヤリングだけなら、セレブのパジャマのようにも見えるが・・・まあ、俺たちも見慣れてることもあるし、特に何も思うこともないが。
本人がそれでいいなら十分だ。
仮にもマーガレットのやり方や税金の使い方を否定したわけだし、王座を勝ち取った後に派手になるなら話が違うと思われる。この点に関しちゃあ、国民に知られることでもないだろうし、気にしなくてもいいと言えばいいんだが、知ってる俺からすれば気分が悪くなるよなぁ。
「さて、早速本題に移ろうかの」
ガーベラさんが三回手を叩くと、裏から女性のスタッフがカートを押しながらやって来た。
どうやら何かしら荷物を載せているようだが・・・
「心ばかりじゃが、報酬を用意させてもらった。それを渡そうと思っての」
報酬は貰えるって話だったし、それは覚えてはいた。
ただ、内容は期待してない。
正確に言うなら、期待し過ぎるのも危ないかなってことで、何かしら貰えるだろうって程度に留めておく・・・が正しい。
ガーベラさんのキャラからして、小遣い程度の金銭とか、冒険者に不釣り合いな美術品や骨とう品ってことはないとは思っちゃいるが、期待し過ぎるとガッカリすることもあるだろうし、期待しすぎないってことは案外重要だと個人的に思っている。
「まずはお金のことじゃが、ここは全員に均等の金額を払おうと思っておる」
スタッフが押してきたカートに五人分の巾着袋が見える。
それなりに入ってそうに見えるが・・・
「相変わらずわたしの分はないね」
俺たちよりもヴェロニカのほうがよっぽど仕事をしているが、六人分を用意すれば、その一枠分は誰のだって話が始まる。
ここはいつも通り黙っていてもらおう。じゃなきゃ大変なことになる。
「こちらをお受け取りください」
「では、私からいただきましょう」
マーベルさんが先陣を切る。
「中身を確認させていただきます」
受け取った巾着をその場で開封。
「おう。お主は相変わらずよの」
「信用していないわけではないのですが、確認は重要です。契約でもありますし」
ガーベラさんの目の前で開けるってのはなかなか勇気がいるよなぁ。
まあ、マーベルさんが言うこともごもっともな話だから、あまり言えないんだが。
「続いてそれぞれに用意した報酬を渡そうと思う」
それぞれに用意した報酬・・・
お金以外に貰えるって話だったっけ?
仮にいただけるってなら、それはそれでありがたいんだが、それにしちゃあ物らしい物は大してないように見えるが・・・
「まずはキース、リオーネ。お主らはワシの配下として働いてもらう」
へぇ・・・物じゃなくて、就職先ってこともできるのか。
っていうか、
「いつの間にそんな話をしてたんだ?」
そういう交渉ができるなら、俺もしておきたかったもんだが。
「いや、つい最近だよ」
「キリヤくん、外出禁止になってたし、その間にね」
・・・ここに連れて来てもらえるだわけだし、俺もついでに召喚してもらえたんじゃないのか?
何か事情があるのか?
「特に隠すこともないから伝えておくけど、私は家が心配でね」
「実家か」
リオーネは小さく頷いて、
「今回の選挙でマーガレットを支援していたでしょ?その影響もあって色々揉めててね」
「揉める?」
「どうもな、マーガレットがしておったことが噂で流れておっての。貴族相手に騒動を起こす輩が出てきておるようじゃ」
・・・穏やかじゃないなぁ。
「何でそんな噂なんか」
「発生源は分からぬ。しっかり調査をすれば分かるじゃろうが、今は騒動を起こすほうに対する対応が急務じゃ。その辺りは可能な限り詰めるように指示しておる」
依頼先はオニキスかな?
あの男ならすぐに犯人を特定できそうなもんだが・・・
「騒動の件はわたしもどうしようもないんだけど、家でも選挙のことで揉めててね」
「マーガレットを支持した件で?」
「私としてはそこなんだけど、一族がマーガレットを支持した件もあってね」
一族の中で離反者が出た・・・ってな感じか。それはそれで仕方がない一面はある。
貴族故の立場、メンツもあるだろう。世間体ってやつだな。
今回はリオーネが裏切っているから、余計にマズい状況なんだろうが・・・
「家のことも心配じゃろうし、リオーネの立場を守るためにも、しばらくはワシの配下として動いてもらうほうが都合が良いと思っての。ワシが勧めておったのじゃ」
女王がバックについていれば、貴族たちもうかうか手を出せないだろう。
ガーベラさんとしても、ベネット家の子であると分かった上で協力を依頼したわけだし、その辺りもきっちりしとかないといけないってのもあるか。
どっちにしても、ガーベラさんがバックにつくほうが安心か。
「キースは?」
事情がそれだし、リオーネはよく分かるんだが、
「俺は家とかそういうのはないけど、実力をしっかりつけたいと思っていたんだ。決めかねている時にオニキスさんから提案があってな」
キースも一人で中型くらいまでは狩れるようにはなった。自分でスキルの組立も考えてしているし、後は経験を積むくらいかなと思ってはいた。
中型だけじゃなく、大型とも戦えるようにならないとやっていけない。自覚はあったらしいが、
「オニキスから何の提案が?」
そこでオニキスが出てくるのが不思議だった。
「稽古をつけてくれるらしくてな」
あの男・・・隠密なんだよな?
キースは戦士だし、得物も違うし動き方も違う。
あの男のことはそれなりに分かったつもりだったが、キースに合う指導ができるのか?
「もちろん、キースに合う戦い方を完璧に伝授することは難しいじゃろうが、経験値はワシが知る中では最も多い。最適ではなくとも、現段階での最高であると考えておる」
最適解ではなく、今の手札で組める最高の役ってことか。
「それに、キースにはシルフィで展開する戦士職の例になってもらいたくての」
「・・・例、ですか」
「キリヤも承知しておるじゃろうが、シルフィは接近戦を得意としておる者が多くない」
そこはもちろん、承知している。
良くも悪くも、ジェシカが良い例だった。
「人ももちろんそうじゃが、モンスター相手でも接近戦を得意とする者は重要じゃ。無論、ヒーラーや弓兵、隠密なども重要なんじゃが、それと同時に兵力のバランスも重要じゃろう」
接近戦を挑むヤツがいないと、壁を作れない。足止め役がいないと、大型モンスター相手だと簡単に突破されてしまう。
逆にアーチャーやヒーラーのみの構成だと、遠距離攻撃には強くても、接近を許してしまえば脆い。
何かに特化し過ぎるわけでもなく、ある程度の特色はあっても、バランスが取れた内容で戦力は構成しておくべきだろう。
「そこでキースが主戦力になるように訓練し、経験を積ませることで、本人のレベルアップも行いながら、ワシらに合う戦士像を構築したいというわけじゃな」
そうやって聞けば、ウィンウィンな関係のような感じだ。
「まあ、ボルドウィンに戻っても、戦士は就職が難しいからな。就職先を見つけたと思えばそんなもんだろう」
そう言えば、ボルドウィンは戦士が多いから、試験をクリアしないといけないって話があった。トールとジャンもそうだし、首都で出会った奥さんたちの旦那たちも戦士として仕事はできていなかった。
今戻っても戦士として活動するのは難しい。
そうなると、ここで就職するのも悪い選択でもないか。ガーベラさんの配下って話だから就職先としては最も信頼できるところだし、オニキスが稽古をつけてくれるなら立ち回りも最適化するかもしれない。
二人は身の安全と就職先を報酬としてもらった、か。
「悪いな、キリヤ」
「ごめんね、相談もしなくて」
「いや、別にいいよ」
一時的にパーティを組んで動いていて、今まで続いただけだ。
「残念だなと思うけど、二人の人生だしな。俺がとやかく言う権利はない」
レッドゴブリンの件から始まったこのパーティだが、不思議と悪いようには思えなかった。
そもそも、討伐するために片っ端から声を掛けていっていた中の二人だったわけだが、俺が話しかけなきゃこの関係が始まることがなかった。
色んなトラブルにも巻き込まれたし、巻き込みもした。その都度、何かと助けてくれた。
「楽しかったし、勉強させてもらったよ」
いつかは終わるパーティ。そう割り切っていたとしても、気に入っていただけに多少はダメージがあるらしい。
それほどに、この関係はちょうど良かったってことか。
「ところで・・・お前は?」
キースとリオーネはここに残るわけだが、ジェシカはどうなんだ?
ガーベラさんも名前を出してなかったし、ここに残るってことじゃないのは確定だが・・・
「・・・うるせぇよ」
ジェシカは報酬が入った巾着を受け取ると、謁見の間から出ていってしまった。
「なんじゃ、ありゃ」
「ジェシカにもウチの戦力として迎えると話をしたんじゃが、何か踏ん切りがつかんようでの」
ジェシカもガーベラさんに誘われてたのか。
だとしたらもったいない話だ。
俺が提案したスキル構成と戦術だから文句を言えないものの、ただでさえスロースターターでダメージを受けることを前提とした立ち回り、かつ打たれ弱いっていう弱点を持ってる。
明らかにヒーラー向きな実力だってのに格闘家であることに強いこだわりがある。一般的に使い辛い人材であることは確か。
そんなのをエリート部隊に引き入れるって話なら、素直に受けとくべきだろう。
「まあ、あの子にはあの子の考えがある。ワシはとやかく言うつもりはないぞ」
とやかく言っても仕方がないし、そもそも言う時間がないってところか?
「一応、気が向いたらウチに来てくれればいいとは伝えてあるが」
ガーベラさんの懐は広くて深いなぁ。
ゆくゆくは俺も拾ってくれないかね?全てが終わったら。
「あとはキリヤとマーベルの報酬じゃな」




