6-1
この日、シルフィに衝撃が走った。
「皆さん、声援ありがとう」
ガーベラさんが選挙に勝ち、女王となった。
長かったマーガレット政権が終わった瞬間。同時に新しい時代が始まった瞬間でもあった。
投票最終日に集計が行われ、相当数の人員を投入して結果を確認。
その流れで次期国王が決まり、中央広場で演説が行われる。
「皆さんから託された立場を全うし、シルフィを強い国にします」
今はその演説の真っ最中。
ガーベラさんはいつもの制服のまま、壇上に上がっている。
「なんとか勝てたようですね」
「まあ、らしいですね」
俺たちはレナに案内された、会場から離れた小さな建屋でその様子を見ている。
俺は相変わらず公衆の面前に出られない状態。
それでも結果は気になるだろうってことで、オニキスたち隠密部隊が時々使用している専用の小屋・・・使用目的には打ち合わせや定時連絡等で使う場所を紹介してくれた。
「これでようやく表を歩けますね」
「俺、別に悪いことしてないんだけどなぁ」
ボルドウィンの件も然りだが、何故かそういう損な役回りは俺に当てられてる気がする。気のせいか?
「ようやく国民の目が覚めたみたいね」
「寝すぎだろ」
地元組はやっぱり思うところがあるよなぁ。
「興味本位で聞くけど、ガーベラさんに入れたんだよな?」
「ここまで来て入れねぇとかないだろ」
「右に同じく」
そりゃまあ、そうなるよな・・・でもちょっと安心した自分もいる。
こっちの投票も無記名らしいから、誰が誰に入れたかなんか分からない。ここまで関わっておいてマーガレットに入れることも考えられる。
実際、どうかは分からないから、そこに関してはこれ以上考えるのはやめよう。
「ただまあ、結構僅差だったな」
結果としてはガーベラさんの勝利に終わってるが、マーガレットとの差はさほど開いてるわけではなかった。
他の候補者の票を除けて、ガーベラさんが五割五分、マーガレットが四割五分といった結果だった。
演説の内容も、実現できるかどうかはさて置き、内容がしっかりしているのはガーベラさんだった。
マーガレットはただ単純に自分を選べって言っただけだし、美しさを除ければ薄っぺらい内容だったし、そうなって当然とも思える。
ただ、この結果から察するに、半分近くは現状で問題ないと判断しているってことになる。
一部は変更を望まない層はいるだろう。例えばシルフィに住むヒト族。
全てのヒト族が狩猟活動しているわけでも、接近戦職であるわけでもないが、仮にジョブによる恩恵を受けることができていたなら、大した働きじゃなくても大金を手にすることができる。そこに旨味があると判断できるし、変更は望まないだろう。
これはヒト族に限らず、エルフたちも該当することだが、貴族たちも言えることのはず。
今の立場を守るためには、マーガレットにゴマを擦る必要がある。擦らなければいつクビを切られるか分からないし、状況によっちゃあおとり潰しとか、資産凍結とかの可能性もあるだろう。
それに加えて、マーガレットが落ちた場合の影響も大きい。
今のシルフィを形作ってきたのは歴代の国王たちになるが、今の環境はマーガレットが作り、支配している。
ガーベラさんを含めた他の候補者が勝てば、環境の見直しが行われる可能性は高い。それによって立場や収入が悪いほうへ変わることも考えられる。
マーガレット以外の候補者たちは、演説で現環境を変えることは公表している。そうなっちゃあ困る層は当然、マーガレットに入れるわけだが、思いの外数が多かったっていう印象だ。
「エルフ族は保守的なのか?」
全員がマーガレットの機嫌を気にしているわけじゃないだろうし、環境の変化を望まない層も一定数いるだろう。
「まあ・・・そういうヤツは多い気もするけど」
「全員がそうじゃないんだけど、少ないほうではないかな・・・?」
そういうのはここだけに限らないとは思うが、俺たちはマーガレットの裏の顔も一部見てるし、やってることもアレなもんだから、変えたいと思うほうが多いと思っていた。
ただまあ、結果が結果だったから意外だったというか。
「まあ、変化を嫌う人間がいるのも確かかな」
変化。何かが変わることだ。
変わるのも色々ある。人間もそうだが、環境も、別のものもあるだろう。
良い内容で変わるならいいんだろう。だが、中には悪いほうに変わることもある。
そういう可能性があるなら、今のままでいいって思うんだろうか。仮にそうであるなら、俺も分からなくもない。
ただ、今回の件は変えていかなきゃいけないことのはず。
変化が怖いのは分かるが、そこに勇気を持って一歩踏み込んでほしいものだ。
まあ、結果がアレなもんだから何とも言えないところだが、結果的には勝っているわけだし、これはこれで良しとしよう。っていうか、するしかない。
「俺たちの仕事はここまでだな」
ここからはガーベラさんの仕事だ。
俺たちは見守るくらいしかできないし、これ以上関わることはない。
「おい、なんか揉めてるぞ」
・・・何が?
「またアイツか」
壇上を見ると、マーガレットが複数の黒服を着用した人間に押さえられていた。
「・・・何やったんだ?」
様子からして、何かしらトラブルを起こしたのは分かるが、ああいう場で取り押さえられるって相当なことをしないとそうはならないだろう。
「キース、見てたか?」
「あー、たぶんだけど、マーガレットが何か言って、ガーベラさんがそれに返したんだと思う。そういう風に見えただけだけどな」
マーガレットがガーベラさんに何を言う?
一応、僅差ではあっても負けは負けだし、政権交代はすでに成されている。
アレはアレでプライドが高い。ガーベラさんに言うことなんか大してないように思えるが・・・
「まあ・・・言うことは言ってるよねぇ」
ヴェロニカがテレパシーで聞き取っていたようだ。
「・・・知ってもいい話か?」
「まあ、別に知ってもいいとは思うけれど」
「・・・今はいいわ。別の機会に聞く」
知らないほうが幸せなこともある。聞いて妙な感情を抱くのも嫌だし、一旦置いておこう。
ちょっと時間を置いて、気になったら聞くくらいでちょうどいいと思いたい。
まあ、たぶん明日になったら忘れてそうな気もするが。
「さて・・・帰るか」
演説を最後まで聞くのもいいが、勝った後のことは俺たちの守備範囲外。
ここから先はガーベラさんのターン。良い環境に作り替えてくれることを期待しよう。
「次、お呼ばれしたら最後かな」
報酬の件がまだ残ってる。それさえ終われば契約終了だ。
結構苦労したし、それなりの報酬になると思うが、どうなることやら・・・だな。




