5-2
「よう」
夕方になって、オニキスがやって来た。
今度は屋根とか死角とかからじゃなく、玄関から真っ当に。
「おう、どうした?」
俺はと言うと、狩猟用のナイフの研ぎをやっている途中だった。
買い出しは俺自身ができないからマーベルさん頼りで、またもや騒ぎの引き金となったヴェロニカは昼寝中。
大して使っちゃいないナイフだが、刃のメンテナンスくらいはしておいたほうがいいってことで、刃の付き具合を確認して、全体的に研いでいた。
「先の狩猟祭は世話になったな」
「いや、俺は大したことをしちゃいないぞ」
参加自体は巻き込まれたみたいなもんだが、その分、自分の目的のために使わせてもらった。
実績としても、マーガレット側の連中を混乱させるために走り回って、最終的に熊を一頭狩っただけで、他は大したことはない。
「そう言うな。お前さんが動いてくれたおかげで、俺も動きやすかったんだ」
「まあ、あがれよ」
「おう」
玄関で話し続けるのも何だし、部屋にあげてやることにする。
「ヴェロニカは昼寝中か」
「まあな」
子供は寝てミルクを飲むのが仕事だ。
月齢とか年齢にもよるんだろうが、大体は寝ているはず。メンタルが大人であっても、体は赤子のヴェロニカにとっても睡眠は大切・・・というより、抗えないものなんだろう。
まあ、ヴェロニカの場合は別の仕事も多いが・・・
「で、本題は?」
オニキスが単独で来るってことは、何かしら案件があるはず。
「いや、大した用事じゃないんだが」
「何だ、話をしに来ただけか?それはそれで別に構わないけど」
「単純な話じゃないが、まあ、そういうことだ」
狩猟祭も終わったし、後は協力した報酬くらいしか話すことはないと思っていたが、それはガーベラさんがするような気もする。
「お前さん、ジョブは探検家だったな?」
「・・・ああ、まあね」
ジョブ・・・?
「お前さん、隠密のスキルを取っていく気はないか?」
「ん?」
ジョブじゃなくてスキルの話か。
「急にどうした?」
「ガーベラ様の件が終われば、ここを発つだろう?その前にお前さんに色々教えておこうと思ってな」
「・・・ほう」
「どうした?」
「いや、意外だと思ってな」
これって一種の技術提供みたいなもんだよな?
「こういうのって企業秘密っていうか、他人に明かさないものだろ?」
自分が得た技術は誰にも教えない。
漁師でもそうだ。釣れる技術や仕掛けがあって自分が食っていける。
自分が食っていくためには誰よりも技術を得ないといけない。そして守っていかなきゃいけない。自分が優位に立てなけりゃあ、食っていくことが難しくなる。
考えて、体感して、工夫して得られた技術は宝だ。
親しかろうがそうでなかろうが、それを簡単に教えはしない。
「まあ、普通ならそうだろうな。だが」
「だが?」
「俺はお前さんを気に入ってる。単純にそれだけだ」
まあ、意外と言えば意外なんだが、
「・・・なら、ありがたくご教授いただこうか」
俺は俺でオニキスを気に入っていた。
友達・・・っていうより、戦友に近いか?
いや、そこまで近くはない?
何て言うか、今までの人生経験上、年上でここまでフランクに話せる人間がいなかった。
話すだけじゃなく、行動を共にしてさほど違和感を覚えてないのも大きいだろう。
オニキス本人の素質みたいなところもあったんだろうが、割と話せて、それも割と気が合うってのはなかなかない。
気に入ってもらえてるなら、それはそれでありがたい話だ。
自分自身のスキルアップのためにも、ここは素直に教えてもらっておくべきだろう。
「お前さん、盗賊関係のスキルは持ってるのか?」
「かくれんぼくらいだな」
あまり用がない・・・というより、使いどころが分からないってのが正しい。
「使えると思って覚えたものの、効果があるのかないのかがよく分からなくてな。結局それ以降は頼ってないんだよ」
ボルドウィンでも何かしらの形で捕捉されたみたいだし、本当に効果があるのか怪しいと思うのは仕方がないだろうと思っている。
「まあ、言ってることは分かる。レベルが低いと効果が薄いのも事実だ。かくれんぼだと特にな」
だが、とオニキスは笑って、
「使いこなせばかなり強いぞ」
「・・・ガノダウラスの時のアレか」
「そうだ」
オニキスは指をパシッと鳴らして、
「かくれんぼを使いこなせば、スキルは進化する」
「・・・そうなのか?」
スキルって進化するもんなの?
てっきりスキルツリーに表示されている内容だけかと思ったが・・・
「いくつか強化される場合がある。全て進化するわけじゃない。俺の体感上、基礎的なスキルや効果が薄いスキルなんかは進化しやすいように思える」
ということは、
「例えば鞭レベルとかも?」
「基礎的なスキルで言えばそうだな」
ということは、今のところ上限であっても、何らかの条件がクリアできれば、レベル3なんかを覚えることができるってことか。
「かくれんぼもそうだが、他にも効果がよく分からないスキルはあるだろう。使いこなしていくことで、効果を上げることができる」
効果が強くなったら・・・って良い例は目の前にある。
誰にも気づかれない、モンスターの目さえも欺けるような能力を発揮できるなら、かなり使えるようになる。
「それは単純に使い続ければいいのか?」
「使うだけじゃなく、何かしら条件があるように思える。それは俺にも分からん」
その条件ってのを使いながら紐解いていかなきゃならんのか・・・
「結構時間と手間が掛かるな」
「まあ、そんな簡単に人間は強くなれんってことだ」
「ご説ごもっとも」
それが簡単にできるなら苦労しない。
最近のラノベは最初からチート能力を持っていたり、生まれが恵まれていたりと様々だが、残念ながら俺にはそういう待遇はない。じっくり取り組まないといけないことは変わりないか。
「ただまあ、俺からの助言がいくつかある」
「それが今回の本題か」
何かしらの条件・・・たぶんこれだろうってのだけでも分かれば助かるが。
「かくれんぼの場合、恐らくだが相手の視界から消えることが条件だと思う」
「・・・相手の視界から消える?」
「ああ」
急にハードルが上がったぞ、これは。
「もうすでに発見されてる状態になるよな?」
「かくれんぼにそこまで強い効果はないが、全てにおいてそうだとは言えない。ただ、最初から気配を消しきることは難しいのも事実。見つかっている場合が多いだろう」
だろうと思った。最初から強い効果があったなら、今まで苦労しなかったし。
「捉えられている場合で重要なのは、如何にして相手の気配からすり抜けるかということだ。そのコツを今から教える。覚えて、自分なりに試してみろ」
「よしきた」
せっかくの技術提供だ。ここで糧にさせてもらおう。




