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「いっそ潰れろ、だと?」
マーガレット演説で沸いていた観覧席が一変。
一気に殺気立つ。
「貴様・・・どこの小僧か知らないが、言って良いことと悪いことの区別もつかんか?」
「ん?別に良いも悪いもないだろ?」
殺気立ったこの場で、俺たちは孤立してしまっている。
いや、正確に言うなら俺だけが。
この貴族たちもそれなりの地位にいるし、何かしら実力があって今なわけだから、無傷で脱出するのは難しいだろう。
「ここは政治の観覧席。政治について議論してもいいはずだろ」
無理矢理逃げることもできなくもない。
ただ、ジェシカの憤りも分からなくもないし、リオーネもキースもどこか悔しさが見える。
マーベルさんはよく分からないが、正直に言えば俺も腹が立っている。
なら、一発かましてやろうじゃねぇか。
「確かにあんたらが言うように、維持するだけでも立派だってことは分かる。一理ある。だが、その維持も限界があるだろう」
本当に安定しているなら維持でもいい。
だが、増やさず、寧ろ減らすほうに舵を切ったほうが、税金を必要としなくなる分、良い面はあるだろう。国民としてはそっちのほうがありがたいわけだし。
ただ、それを良しとしない層があるのも事実。
「パッと見、この国は平和そうには見える。だが、思いの外そうでもなさそうだぞ」
「何がそうではない、と?我が国は平和ではないか?」
「だからパッと見っつったろ。ジェシカが言うように、頭の悪い連中が横行してる」
カモられそうになった武器屋もそうだが、あれは可愛いもんかもしれない。いや、一つも可愛くはないけど。
俺たちが憤っているのは傭兵の連中だ。
「あんたらみたいな連中が雇ってる傭兵たち、仕事してないのが大半だって知ってるか?」
「そんなことはない。彼らは我々のために自らの身を危険に晒し、守ってくれている」
とまあ、そういう回答になることは分かっている。
「実際、それを目にしたことはあるか?」
「何を言っている、貴様は?」
「俺が言ってることが分からないのか?傭兵連中が仕事してる様を見たことがあるのかって聞いてんだ」
見てりゃあ、そういう回答が出るわけがない。
「・・・そんなことはどうでもいい」
「見てねぇんじゃねぇかよ!!」
「吠えるな、ジェシカ。俺も知った上で聞いてるんだ」
切ろうとするってことは、自分の目で確認していないってことだ。言わなくても分かる。
こういう流れになることは何となく分かっていた。
「あのさ、一応確認しておくけど、狩猟祭に出てたマーガレット陣営の連中、あんたらが雇ってるんだよな?もちろん、一部は正規軍なんだろうが」
「貴様には関係がない話だ」
「ああ、関係ないけどな。ただまあ、近くで見てたから分かるよ。あれこそ税金の無駄遣いだ」
戦うために出てるくせして、危なくなれば逃げる。
そりゃあ、本気でヤバくなれば逃げるのは当たり前だが、一頭でも狩らなきゃならないって状況、かつとんでもない戦果を得られるモンスターを相手に逃げるのは話が違う。
戦わずして逃げる。それで本当に傭兵と言えるのか?
金のために戦うのが傭兵って一面もあるけど、まあ・・・傭兵の定義は一旦置いておこう。
「正規軍の連中も相当バカだったけどなぁ」
直接戦っていた連中は置いておくとして、指揮をしていたあのおっさんは相当ヤバかった。
上司にしたくないランキングとかさせたら、ぶっちぎりでベスト3にランクインしそうなヤツだった。
「ああいう連中も然り、あんたらも然りなんだろうが、本気でこの国のために気概はないんだよなぁ」
「貴様・・・我々をコケにするか?」
「そりゃあまあ、するだろう」
・・・あれ?何かがおかしい。
何か急に静かになったような・・・
観覧席がじゃなくて、なんかこう、全体的に・・・
「あんたらは結局、マーガレットのご機嫌取りで忙しいんだよな」
貴族連中だって、自分の身が可愛い。
頂点とは言わなくともそれなりの権力を持ち、贅沢ができるだけの財力を持ち、国民に対してマウントを取れる。
現場であくせく働かなくても、空調が効いた部屋で書類をいじっていればそれでいい。
この環境に旨味を覚えれば、手放したくもない。
そうなると、最大の障害はマーガレットになる。
こいつらだってマーガレットがヤバいってことくらい気付いてるだろう。俺たちみたいな一般人と違って、それなりに接する機会はあるはずだし。
なら、機嫌を損ねれば一瞬で立場を崩してくるってことくらい分かってるはずだ。
だから機嫌を取る。
どんな風に取ってるかは知らないが、どうせゴマでもすってるんだろう。ゴマが粉末になってもまだゴリゴリゴリゴリするんだろう。
そうすることで自分の立場が守れるなら安いもんだ、と。
「あの女のご機嫌さえ取れたら無事に過ごせる。あくせく働かなくてもいいし、涼しい部屋でコーヒーでも飲みながら過ごせる。街で働いてる連中を見下しながらな」
「黙れ、小僧。貴様に何が分かる?」
「そんなに言うほど分かってるわけじゃねぇよ。だが、いくつか分かることがある」
貴族たちの雰囲気がどんどん悪くなるが、もうここまで来たら、行くとこまで行かなきゃしょうがないでしょう。
「あんたらが本気で守りたいのは国や国民じゃねぇ。自分だけなのよ」
国を守りたい。
国民に幸せになってほしい。
そんな気持ちがあるのなら、もっと現場に目を向けるはずだ。
もちろん、一人で全て見て回るとかは難しい。だから部下たちを使うわけだが、こいつらはそれをしていない。それは傭兵連中の管理ができていないことで確定だろう。
いや、やってるのかもしれないが、それでも動いていないのならかなりヤバい。
「俺は所詮外様の人間だ。この国の全てを知らない。だから本当にヤバい問題が何かまでは分からないし、税金を上げることも正義なのかもしれないし、国外に流出する連中がいることも当たり前なのかもしれない」
ジェシカの様子からして、全ておかしいってことは何となく分かっているわけだが、
「そんな俺でも言えることはあるぞ?」
「何だ?」
「美しさが正義なんか、大して役に立たん」
「貴様・・・言って良いことと悪いことの区別ができんようだな」
「じゃあ、何の役に立つのか教えてくれよ」
美しい。そりゃあ、それに越したことはない。
だが、それで得られることって何だ?
「パッと思いつくのは外交でちょっと得することくらいか?」
女王が美しいなら、相手の印象も良くなるかもしれない。
ただ、それはあくまでも見た目だけの問題である。
「それ以外に何かあるか?」
美しいから税金が減る?
そんなわきゃない。国を維持するために必要なのが税金だ。女王の美しさで国が維持できるなら、とうの昔からできているし、今の状況から察してガンガン上がっていってるわけだから、そういう効果はない。
美しいから防衛力が上がる?
そうだったら嬉しいな。ただでさえヤバいモンスターがうろうろしているこの世界で、防衛力は切って離せない。美しい女王がいるだけで他所に行ってくれるなら助かるが、大型モンスターは当たり前のようにいるわけだし、そういう効果もない。
「結局のところ、美しさなんかより、当人ができるヤツなのかどうかだよな」
政治家だろうが何だろうが、ものを言うのは結局、当人の資質なんだよな。
行動力があるとか、打つ対策が的を得ているとか、相手とやり取りする話術や交渉術だったりとか。
他にも色々あるんだろうが、美しさよりもそっちのほうが優先順位が高いはずだ。
「あんたらも大概だが、そういう考えに国民も至ってないんだろ?だったらもう何やっても無駄だよ」
しょうもない法律が足かせになってはいても、一応は選挙制。最終的には国民の判断に委ねられているし、実績上、美しさこそ正義でマーガレットに政権が渡っているわけだから、選挙自体の意味がないわけじゃない。
それでも、この流れを止められないなら、これ以上やり様はない。
「あんたら上の連中はバカが揃ってるみたいだからもうどうしようもないが、国民は現状を理解してるはずだ。それでも美しさで国が救われるなんて夢物語を信じてる、もしくは法律だから変えられないって思ってるなら、そのまま共倒れが妥当だろうよ」
「だから潰れろと、そう言うのか?」
「おう、そう言ったろ?」
「・・・そうか、分かった」
おっさんが剣を抜いた。
「貴様を侮辱罪で断罪する」
「おお、こわ」
「あなた方に我々を裁く権利があるのですか?」
マーベルさんが割って入ってきたが、
「関係ない。女王陛下を侮辱する輩は国家の敵。故に裁かねばならん」
「そんな理屈が通るとお思いで?」
「小僧を処刑した後で判断する」
「結構無茶苦茶だなぁ」
「テメェはもっと緊張感を持て!!」
これでも結構緊張してるんだけどな・・・
周りにはそう見えないのか?
「キリさん、周りを見てみて」
いよいよ一触即発・・・と思いきや、
「・・・ええ?」
会場が何か揉めてる・・・???




