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「ご来場の皆さま」
ガーベラさんはステージ中央に立ち、司会からマイクを受け取った。
口元にマイクを寄せて、
「お忙しい中、この場に集まってくださり、ありがとうございます。政務官のガーベラでございます」
丁寧な挨拶で演説をスタートさせた。
まあ、この辺りはおかしいところはない。
他の候補者もそうだったし、俺でもそれくらいは言う。
あとは、
「誰だよテメェはァ!!」
「お前みてぇのが女王なんかできるわけねぇだろ、引っ込めェ!!」
このしょうもないヤジをどうするかだが・・・っていうか、ガーベラさんにも仕掛けてくるのか。
そりゃまあ、マーガレットに有利になるように仕掛けてるわけだし、当然っちゃあ当然だが・・・
「あら、随分元気な方がいらっしゃるようですね」
ガーベラさんはくすくす笑って、
「元気があって非常に良いですね。心と体の健康が人の資本です。ですが」
ほんの一瞬間を置いて、
「こうした場でそのような態度は品を欠きます」
軽く牽制。
「声の質からして大人と断定しますが、事の良し悪しを判断できるのが大人とわたくしは思います」
随分冷静に対処できてるな・・・
「この場にはお子様もいらっしゃるでしょう。大人は子供を導く役割を持っております。大人は子供の手本にならねばなりません。静かにお聞きいただけますでしょうか?」
こういう妨害を受けることを想定していたのか?
いや、トップバッターから始まったことだし、ある程度は現場対応できるか。
それにしても冷静だ。
俺たちと初めて出会った時の対応もそうだったが、この人は何か心構えでもしてるんだろうか。
突発的に起こる事象に対する予測?
「キリさん、冷静なように見えて、ガーベラさんも必死だよ」
「ほう」
テレパシーで読み取ると、
「めちゃくちゃ怒ってる」
「・・・は?」
「余計なことで時間を使わされてるからね」
具体的に持ち時間が設定されているようなことは聞いてないが、時間と手間を掛けさせられてるのは事実か。
本来演説を予定している内容とは別に説教をするとなると、下手に余計なことを言えば揚げ足を取られるリスクもある。
それに、国民のために働いてる立場だってのに、こんなチープな手で潰しに掛かろうってんだから、怒って当然だよなぁ、これ・・・
しかも、相手がマーガレットだってのが更に拍車を掛けるだろうし・・・
「ガーベラさんに教えておくか」
「すぐどうにかなるわけじゃないけれど、演説の材料にはなるかもね」
とりあえず、何かのネタに使えるかもしれないなら、教えておいて損はない。
テレパシーなら誰にも悟られることなく伝えられるし、ヴェロニカに動いてもらうか。
「すぐさまどうこうなるわけじゃないからしんどいところだな」
今もヤジは続いている。というより、増している。
そこそこ雇ってるな、これは。
「皆さま、ご静粛に!」
「構いませんよ」
司会が場を収めようとするが、
「このまま続けます」
ガーベラさんは続行する。
ヴェロニカのテレパシーは届いてるはずだし、その上での判断か・・・?
「皆さま、今のシルフィに満足していらっしゃいますか?」
ヤジが飛ぶ中、
「増える税金、不安定な職業事情、跋扈するモンスターに怯える生活」
最後の一つ以外は聞いたことがあるような話だ。
日本にいた頃も、大体聞こえるのはこういう話だったと思う。
税金を減らす話が出たと思えば別のところで増えたり、その使い道が無茶苦茶だったり。
労働者が余っている割に、人件費削減のために人を減らしたり。
シルフィも同じような・・・いや、この世界でも同じようなことは起こっているってことか。
「わたくしもシルフィに住む一人として、この環境を憂いています」
ここからが本題だ。
「わたくしを次期女王に選んでくださったなら、様々な環境の見直しを行います」
左手の人差し指を立て、
「今の税金の使われ方の大半はモンスター退治に当てられておりますが、まずはここの見直しを行います」
モンスター討伐に使われている税金・・・ってことは、
「現状、我が国のモンスター討伐を行う部隊の半分以上は、外国からの有志です。彼らは傭兵としての扱いとなり、その報酬に税金を使っておりますが、ここに非常に多く割り当てられているのが現状です」
契約して戦場に出るだけで最低でも二百万フォドル。
外に出るだけで、何もしなくても二百万も貰える。
「傭兵の方々の大半はヒト族です。我々エルフ族が不得意とする接近戦を担っていただいています。こればかりは昔から・・・いえ、遺伝的に不得意であったと言えます。故に頼らざるを得ない」
エルフは体が細く、体力的にも接近戦が不得手・・・
高い回復力はあれど、一発もらえばノックアウトになりかねない。ジェシカが見事に体現しているわけだが、これがエルフ族を悩ませる原因になっている。
「外国から人員を入れることを悪く言うつもりはありません。ですが、あまりにも多く、そして高額な報酬を渡し続ければ、本来すべきことに手が回せなくなってしまう」
エルフたちの戦闘は弓兵を用いた遠距離攻撃がメイン。
中には特例がいることも確か。それがオニキスのような存在なわけだが、それでも肉体的に接近戦に耐えられるわけでもないだろうし、あそこまでの戦闘能力を持つかどうかは別の話になる。
そして高い回復力を活かしたヒーラーによる後方支援。
オニキスの部隊の中にも何人かヒーラーはいたようだが、味方の治療に困る様子は見られなかった。全ての人員がそうではないだろうが、優秀な証拠だろう。
接近戦を得意としている種族じゃない。これは恐らく、エルフたちも分かっている。
だから外から接近戦を得意としている連中を入れて、戦力を補強しようって腹だったわけだが、当初からずっとこうだったのか・・・?
「このままこの状況を続けていれば、本来やらなければいけないことに皆さまから頂いた税金を回せなくなる。いえ、すでに回せていないと言っても過言ではないでしょう」
制度自体を否定することはしない。実際、今のシルフィには傭兵が必要だろう。
だが、いつからかバランスを崩してしまっている。
シルフィを守るための対策が、今は首を絞めることになっている。
「ここに使われる税金の見直しを行うことで、各職業に対する手当だけでなく、各種インフラの整備も行えます」
これ、余程手が回ってなかったんだな・・・
職業に関しちゃよく分からないが、インフラはそれなりに整ってるように見えた。たぶん、見えないところで不具合があるんだろうし、大規模整備なんかもやりたかったけどできないとか、そういう感じなんだろう。
「傭兵の報酬見直しを行い、各職業の手当て等に手を回せるようになる」
中指も立てる。
これで問題が二つ解決するわけだ。残るは・・・
「そして問題となるモンスター討伐。これに関しては従来のように傭兵に依頼することもありましょう」
「なんだよ、結局続けるのかよ!!」
「ですが、ボルドウィンから派遣される人員を基本と致します」
おっ、上手い。
ヤジを使って話を進めていくとは。
「現在、ボルドウィン外交官と交渉を行っており、シルフィとの戦力共有化を協議中です」
「なあ、この戦力共有化ってどういうことだ?」
「・・・たぶんだが、お互いの戦力を出し合うってことだろう」
詳しくは分からないし、今の段階でどういう話になっているのか俺には分からないが、単純に考えると戦力を出し合うことになるだろう。
例えばシルフィなら遠距離とスピードを活かした機動戦、それに加えてヒーラーによる後方支援を得意としている。
ボルドウィンは逆に接近戦を得意としている。
両極端な構成になっているが、仮に互いの戦力をミックスして共有化できればバランスは取れる。
「そんなすぐできるのかしら?」
「いや、これからじゃないか?」
あくまでも理論上の話だ。
交渉中だって話だし、仮にやろうとするならお互いの手札を見せ合わなきゃいけなくなる。まあ、自国の戦力を公表することで不具合も生じるし、全てをオープンにすることはないだろう。
それでもこの話に旨味があるのは、お互いが自分に足りないモノが分かっていて、解決する手段の一つになることだろう。
ゼロベースから戦闘員を一人育成するのは時間とお金が必要になる。一つの軍隊を作り上げるなら、莫大なコストが掛かる。
ある程度下地がある者・・・つまり、シルフィで言うところのアーチャーやヒーラーは、エルフが得意としている分野で、ゼロベースで育成を始めたとしても、早期の習熟が望める。それはヒト族も同様だ。
この話でパッと思いつくのは、双方のカードをオープンにすることによる戦力把握による弊害か。
相手の戦力が分かれば、薄い個所を突くように攻撃を仕掛けることができる。戦力不足であっても勝てる可能性が高くなる。
つまり、戦争になった場合、最悪の状況になり得る・・・ってことになる。
まあ、この世界も人間同士の争いがないわけでもないが、せいぜいその辺でケンカ騒ぎが起こったり、窃盗や器物損壊くらいなもので、最悪殺人ってレベルのはず。
ヒト族の国、エルフの国っていう、明確な住み分けも成されている。
国家間の争いはほぼ発生しない・・・って考えてもいいのかね?
とするなら、
「無論、現状では難しい対策であることはわたくしも承知しております。ですが、我々人類は共通の脅威があります」
そう、モンスターの存在だ。
モンスターはヒト族だろうがエルフ族だろうがおかまいなし。とにかく生きている獲物を求めて襲ってくる。
つまり、共通の脅威になる。
人間のみの場合、色んな理由をつけて人間に仕掛けることもする。戦争とまではいかなくても、学校や職場でのイジメなんかはその最たる例だろう。
そこには感情やら利益やら、そういった要素が絡む。素直に分かり合うこともできるが、一方でそれができないケースがあるのも確か。
だが、モンスターは共通敵と言ってもいい。体力や戦闘能力は人間をはるかに凌ぐ。
絶対的に強いモンスターがいるというこの世界じゃあ、例え主義とか主張が違っても、協力して事に当たっていかないと生きていけない。
この認識があるラヴィリアなら、国家間の協力関係を築くのも難しくはないかもしれないな・・・
「この共通の脅威に対抗するためには、国家間での協力が必要不可欠です。幸い、モーラ大陸上、存在する国家は我々シルフィとボルドウィンのみ。交渉は双方の合意のみで済み、調整も単純です」
単純とは言うものの、それをするのが難しいんだろうなぁ、これの場合。
個人間の商売とか、そういうレベルじゃないわけだし・・・
「小難しい話はこれから詰めていくことになりますが、今のところ共有化の話は好感触です。双方ともに脅威の認識は共通している以上、そこに手を入れなければいけないのは明確ですので」
ガーベラさんがどういう交渉をしているかは分からないが、こういう場で下手なことは言わないだろう。
下手に嘘をついても、隠し通せればいいが、どこかでボロが出ると痛い目に遭う。日本の政治家もこういうのですぐ叩かれている。
「わたくしはこの国を愛しています」
他のマニュフェストの説明も済ませたガーベラさん。
「この広大な自然と、ここで育まれた人々の営みや文化は過去も、現在も、未来も守り通さねばなりません」
いつの間にかヤジが飛ばなくなっていた。
オニキスが上手くやったのか、それともマーガレットの手先の連中も感化されたか、それとも別の何かかは分からんが、ガーベラさんが会場を自分のモノにしたってことか?
「皆さんの清き一票を、わたくしにどうか託してください。わたくしは必ず応えます。シルフィの未来を共に作り上げていきましょう」
ガーベラさんが深く一礼。
これで演説は終わった。
「・・・簡単にはいかないようだねぇ」
「・・・そのようですね」
会場の反応があまり良くない、だと・・・?




