3-2
「ようやってくれたの、皆の衆」
翌日、俺たちはガーベラさんに呼び出された。
今日は後夜祭の初日。
広場は屋台や商人たちに溢れ、飯と酒が飛ぶように売れて、すぐに消費されていく。
前日、俺たちが利用したカフェやレストランも繁盛していて、傭兵稼業の連中で賑わっていた。
国を挙げたイベントってのはレベルが違う。
今日はガーベラさんの屋敷で集合になっている。
到着すると、客間にはすでにガーベラさんがいて、シンプルなドレスを身に纏っていた。
ソファで胡坐を掻いている・・・出会った当初と同じスタイルだ。
そしてその傍にオニキスがいる。
重要な話でもあるんだろうか?
「いやいや、大したことはしてませんよ」
「そんなこともあるまい。十分な戦果じゃ」
リオーネは謙遜しているが、
「この少人数で中型を一日で数頭狩れている。一般的に上出来なレベルだぞ」
一般的に上出来・・・それは確かにそうかもしれない。
「あたしらの成果だって、大半はキリヤのモンだしなぁ」
「え?い、いや、そうでもないぞ?」
だが、大半はヴェロニカの成果だ。
パワードグリズリーは俺の成果。これは自信を持って言える。
他はヴェロニカが倒したもの・・・
この成果を見て考えてみると、一瞬、神か何かかと思ってしまう。
大型はそれなりに手数を撃っていた。
初級のフレアバレット、周辺を焼き尽くすためのフレアストーム。状況の把握のために何発か初級を撃ち、ある程度整ったら周辺を焼き払い、止めの一発を撃ち込む。基本的にはその流れではあった。
中型も同様だが、道すがら遭遇したモンスターは一発で仕留められた。
”居たからついでに討伐してしまおう”
そんな一言で、成果報告に挙げたモンスターは倒されてしまった。
そう・・・道すがら、ついでに討伐できてしまう。
今のパーティで最大火力を出せるリオーネでさえも、たぶん一発で仕留めるのには時間が掛かる。グリーンコアトルを仕留めるために放ったシャインセイバーも、威力を溜めるのに時間が掛かった。
だが、ヴェロニカは一発で仕留める。しかも、仕留められるほどの火力を出すのに五秒も掛からない。
いや・・・やろうと思えば、あの頭のイカれた老人魔術師みたいに、村や町を吹っ飛ばす攻撃だって簡単にできるんだろう。
大型モンスターを瞬殺するんだから。
これが魔族故にできることなのか、それともヴェロニカ故にできることなのか・・・
どっちにしても、やっぱり俺の手元にはとてつもない大砲が鎮座しているってことには変わりない。
「そこまで謙遜すると腹が立つな」
「ちょっと、ガーベラさんの前で声を荒げないでよ」
「構わん構わん」
謙遜するしかねぇだろう・・・実際、俺が倒したもんじゃないし、マイコ―たちみたいに力を誇示したいわけでもないし。
というか、俺もへこんでる最中だしな・・・余計なことを言いたくない。余計へこむ。
「ふむ・・・まあ、それはそれとして一旦置いておこう」
ガーベラさんは膝を叩いて、
「まずはご苦労じゃった」
軽く頭を下げる。
「此度の勝利はお主たちのおかげじゃ」
狩猟祭はガーベラさんの勝利で幕を閉じた。
他の候補者たちとは比較にならないにしても、最大の戦力を有したマーガレット陣営も歯が立たないほどのポイントになったらしい。
まあ、そりゃあそうだろって感じだ。
俺たちが必死こいて討伐した中型モンスターも大概だが、マーガレット陣営から奪取したガノダウラスと、たまたま遭遇したグリーンコアトル、そしてヴェロニカが狩った大型三頭・・・特に後者がだいぶ効いたって話だ。
「無論、他にも協力してもらった者たちもおれば、うちの部隊の者たちもおって、それぞれの努力の結果じゃ。その中で、今回はお主らの活躍が目立ったというわけじゃよ」
「主にわたしだけどねぇ」
目立ちすぎだ。
やり過ぎで逆に疑わしい結果になってる。特に身内からの視線が痛い。
「本日はお褒めの言葉をいただくだけ、というわけではないと思うのですが?」
マーベルさんもそれなりに気にしていたらしく、
「そう急くものでもないが、まあ、よかろう」
本当なら広場で店を開きたかったんだろうなぁ・・・ちょっとイライラしてるのかね?
それとも別の理由があるのか?
「単刀直入に言えば、狩猟祭以降もワシに協力してほしくての」
「・・・協力ですか」
うむ、とガーベラさんは小さく頷いて、
「お主らが今のこの国をどう思うておるかは分からんが、人材が更に不足していくとワシは思うておる」
あくまでも予想ってことか?
「ジェシカとリオーネは察しておるかもしれんが」
「・・・まあ、そうなるかもな」
ジェシカは言ってることは分かってるような感じだな。
「そうなのか?」
「そうかもね」
リオーネも同じらしく、
「実家はマーガレット様を支持していたんだけど、狩猟祭の結果がああだったから、結構慌ててるみたいなのよね」
マーガレットに協力してるってことは聞いちゃいたが、そこまで影響があることか?
以前、こういうことになるかもって話が出たけど、俺は想像しきれてなかったのか?
「狩猟祭の結果はバカにはできん。マーガレットも自分が有利ということは把握しておったはずじゃが、蓋を開ければ大敗だったわけじゃ。今も王座で腹を立てておろう。その矛先がどこに向くのかと言われると?」
「・・・まあ、お察しか」
矛先が自分たちに向けられて、最悪刺しにくるわけか。
民衆がどうなのかは分からんが、知ってしまうとヤバいとしか言い様がないな。とんでもねぇ女王だよ、あの女・・・
「協力してる者たちのことは大なり小なり把握はしておるじゃろう。仮に見知らぬ末端の冒険者ならまだしも、ベネット家のような一族なら把握しておって当然。何かしら報復を考えておっても不思議ではないの」
その逆も然り、か。
ベネット家もそういう展開は想像できていただろうから、慌ててる、と。
「ベネットがどう動くかは分からんが、中には国を出る者も出てくるじゃろう」
「やられる前に出ようってことですか」
「そうじゃな」
やられる前にやれ。刺される前に国を出ろ、と。
やれるかどうかの問題もあるが、身軽ならそのほうが楽だし、安全か。
いくら何でも国外まで追っかけてブッ刺すのは労力が掛かり過ぎる。税金も動くだろうし、普通なら捨て置くだろうが・・・相手はあのマーガレット。どんだけ金を掛けてもいいから刺せっていうかもしれない。
問題はリオーネの実家みたいに、ある程度大きい組織だろう。
身軽でもないし、そこそこの地位があるから、夜逃げでもしようもんなら名が穢れるとか、そういうのがあるはず。
動こうにも動けず、動かないと刺される。
どういう人材であったとしても、マーガレットの報復を恐れて国外へ逃げる可能性は高い。
ガーベラさんの懸念はそこか。
「まあ、減るのはマーガレットを支持しておった者じゃろうが、ワシが王座に就いた後は傭兵の待遇も改善していく。今のような収入を得ることも叶わぬとなれば、傭兵たちも出ていくじゃろう」
働かなくても高収入を得ることができる今の制度。これが変わってしまえば、ここにいる意味はなくなる。
そうなれば、傭兵たちも別の国に向かうはずだ。俺だって同じ立場ならそうする。
「ワシが懸念するのは、一時的な戦力の低下じゃ」
いくら働かない傭兵であっても、マーガレット支持者であっても、使えるかどうかは別として、単純に人材は減る。
狩猟祭である程度モンスターの数を減らせたにしても、野生なわけだし、また脅威は発生する。それに対応する人材が無くなる。
それが戦力低下になるわけだが・・・
「ワシの部隊を当てようにも、如何せん国全体を守ることができるほどの戦力ではない」
「そこで俺たちってわけですか」
ガーベラさんの部隊は恐らく私兵ってレベルの規模だろう。
仮に狩猟祭に参加していた人員が全てだったとしたら、百人そこそこのはず。大型モンスター一頭の相手ならまだしも、国防となれば有って無いような規模だ。
戦える人材は喉から手が出るくらいに欲しいだろう。
いや、こういう話になるなら、ヴェロニカのみになるか?
実際、大型モンスターを倒せるレベルとなりゃあ、ヴェロニカが筆頭になるわけだし。俺たちはオマケ程度だわな。
「まあ、直々に頼むわけじゃし、待遇は弾むぞ」
宮仕えになるようなもんだし、給料は良さそうだ。後はガーベラさんがどこまで査定してくれるかってところだが・・・
「すぐに答えを出せとは言わんよ。お主らにはお主らの都合がある」
まあ、そりゃそうだよな。誰だって自分の都合がある。
「今日の話は以上じゃ。わざわざ来てもらってすまんな」
「あれ、本当にそれだけですか?」
「報酬などは追々させてもらう。マーベルに任せることになるかの?」
「無論です」
当然のように言うな。
「では、解散とする。後夜祭にでも行ってみれば良いぞ」
ガーベラさんは立ち上がって、そのまま退室していった。仕事があるんだろう。
「まあ、俺らも出るか」
ここに残る理由もないし、
「表まで送ろう」
「おう」
考えることは増えたが、今日は羽でも伸ばさせてもらいますかね。




