ACT.189 "最優"vs貴金の転生者(Ⅰ)
仮称、貴金の転生者。
先日、アルフォンソとベルタが会敵し、取り逃した転生者だ。
暗闇の中で僅かな時間のみの戦闘であったものの、二人のお陰でその異能は既に割れている。
初撃を防ぎ、盾によって弾かれたソレが乾いた音を立てて庭園の鋪装された床に落ちる。
その正体は、硬貨。
この国であまり流通していないイトワ帝国のモノであるとベルタは言った。
イトワ硬貨の特徴は、自国でのみ採掘される特殊な金属が含有されていること。
わざわざ敵がこの国では入手経路の限られるこの硬貨を武器にしている理由は、おそらくそこだろう。
「その異能は、特殊な金属を操る」
そして弾いた硬貨が再び息を吹き返して襲いかかる様子もない。
アルフォンソが前に会敵した際に、大型動物を盾にして接近した。
件の転生者はある程度接近されたのちに、盾にした死体に埋まった硬貨を操作して妨害を行った。
──それが刺し示す事実とは。
「操作イメージは見えない手の様なモノで、尚且つ範囲は限られている」
弾丸のように射出するのは投擲のようなイメージだろうか。
操作範囲内から操作範囲外へ加速度をつけて打ち出す。
このやり方で遠距離攻撃を可能としているのだろう。
だがしかし、問題はそこからだ。
この異能には、目立った弱点が存在しない。
近づいてしまえば、相手の異能は射撃以上の汎用性を獲得して此方へと牙を剥く。
しかし離れたままでは、ノアと違い遠距離攻撃方法を持たないライでは殺せずに的になるだけだ。
通常であれば攻めあぐねて様子見に移りそうではあるが──ライ・コーンウェルは違った。
「粛清騎士、序列六位ライ・コーンウェル──推して参る」
そう名乗りをあげた瞬間、盾を構えて突貫する。
向かう先は無論、硬貨を射出した射線の先である。
まさか最短距離で詰め寄ってくる事を想定していなかった貴金の転生者は焦る。
「嘘だろお前っ!?」
上手く狙撃を使って、罠を張っている箇所まで誘導する腹積りだったのが完全に裏目に出る。
今ここで接敵されたなら余りに危険だ。
いくら異能があるとはいえ、彼女の身体は少女である。
鍛え抜かれた成人男性相手に万が一フィジカル勝負になったら勝ち目が無い。
一瞬のうちにメリットデメリットを脳内で天秤にかけた彼女は、意を決して身を隠してた花のアーチの影から身を出して走り出した。
自分から動いて、罠を張ったポイントへ誘導するしかない。
自身と彼とはまだ距離がある上に、自分の見た目は可愛らしい少女だ。
西洋人形みたいと称される程可愛い少女相手なら、まともな大人は動揺する。
そのほんの一瞬さえ稼げれば──という考えの元カリンはわざと姿を晒したのだが、ソレは完全に間違いであった。
転生者の正体が年端のいかぬ少女だったとわかったライの感想はこうだ。
「なら、接近戦に持ち込めば勝てる!」
──復讐の怨鬼、ライ・コーンウェルには転生者へかける情けも容赦もありはしない。




