ACT.188 会敵(Ⅲ)
「作戦として」
レジーが黒であるという裏取りが完了し、屋敷へ突入をかける前。
ベルタは今回の作戦を二人へと共有した。
「ライ・コーンウェルは正面から突入、ソレを陽動として私が裏から侵入する」
「言うほど作戦かコレ?」
口をへの字に曲げて、揚げ足を取るようにベルタへと苦言を呈するアルフォンソ。
確かに、ベルタが話した内容はあまりにも単純で、作戦というよりは方針と言った方が合っている。
「方針だけ決めて臨機応変に動く方が、我々には合っているよ」
一般兵を指揮するなら年蜜な作戦立案が必要であるが、それに要する時間も無い。
そして各々の力量も把握した上で、ベルタはそう結論付けた。
「僕の役割はあくまで陽動としてですか?」
ライは二人のやり取りへ意見を挟まず、淡々とした面持ちでベルタへ確認を取る。
一番腑が煮えている筈のライが、顎に手を当てて冷静に仕事を考えている様にベルタは頼もしさを、アルフォンソは一抹の不安を覚える。
「いや、君は君でなるべく派手に立ち回りながらレジーを目指してください」
「それだと逃げねぇか?」
追手が堂々と派手に侵攻してくるなら、逃げるのが楽じゃないかというアルフォンソの指摘。
普通ならそうであるが、今回は少々状況が違う。
「一般的な転生者案件と違い、今回は顔が割れている。それが街の有権者当人であるのなら尚更、あらゆる人の目が自然と逃走の抑止力になる」
転生者案件は基本的に隠れ潜み事件を起こす彼らを探し当てる──という所から始まる。
しかし、今回は既にその素性が暴かれている上に街の有名人だ。
仮に逃げても、街そのものが封鎖されている現状でその人物の行方は、見つけ易く追い易い。
「俺たちが迫って来た場合、逃げるより向かってくると?」
「その可能性が高いと見ている」
まるで山の獣だな、とアルフォンソは嘆息をする。
片田舎出身の彼からすれば、獣の行動と捉えた方が理解しやすい。
「仮に逃亡を図ろうともライがわかりやすく行動してくれれば、逆算で裏から侵入する私が接触しやすくなる」
「なるほどなぁ」
まぁ、よく考えてるんだな。
そう腕を組みながら首を縦に振って納得したアルフォンソだが、今の話に大事な事が抜けていることに気がついた。
「──それで、俺はどうすれば?」
「待機」
「ふざけんなよ!?」
▼△▼
「聖教会所属、粛清騎士です。レジー・グレイヴ氏に転生者に纏わる嫌疑があるので通してもらいます」
「は、え? いや、少々お待ちくだ」
そう言い掛けた門番の顔面に次の瞬間、黒い鉄拳がめり込む。
直前に指示されたように、ライは屋敷の正面から武力突入を敢行した。
「止ま──ゴッ!」
続く第二の警備兵へ、静止を聞かずにその顎先へ鋭い拳を見舞う。
普段であるなら、もう少し穏便なやり取りを経るのだが、今の彼には二重の意味で余裕がない。
レジー及び転生者共を絶対に逃さないと急く気持ちと、リゼに重傷を負わせた怒りと憎悪だ。
ベルタが覚えた頼もしさも、アルフォンソが危惧した不安も、どちらも的中している。
今のライ・コーンウェルは、冷静に暴走していた。
地に臥した二人の警備兵を尻目に、荒々しく漆黒の片手半剣を抜き放つ。
眼前に聳える鋼の門のその隙間に沿わせる様に縦に一閃。
門の反対側で封をしていた閂を断ち斬り、蹴破って侵入する。
無論、そんな真似をしてタダで済む筈がない。
踏み入った先は、美しい庭園。
その先にある目的の屋敷へと更に進もうとするライを止めるべく、次々に警備兵たちが彼へと殺到する。
──無論、そんな真似をしてタダで済む筈がない。
迫り来る彼らを盾で殴り、剣で殴り、蹴り飛ばして投げ捨てる。
命までは取らない理性は働いているものの、容赦なく迎撃を行いながらもズンズンと死屍累々となった庭園を横断していく。
その姿は聖騎士というより、魔王が何かの様であった。
屋敷まであと僅か、という地点まで進んだその時であった。
一瞬の直感。
第六感的な危機感覚を覚え、ライが頭部を守るように円盾を構える。
瞬間、盾に衝撃が走る。
兜をつけているとはいえ、直撃すれば命に届き得る威力だ。
甲高い音を立てて盾に弾かれたのは──この国ではあまり見慣れない硬貨。
硬貨を使った狙撃と来て、ライは情報共有されたある転生者が現れたのを察した。
「貴金の──転生者!」




