ACT.186 "最高"vs分身の転生者(Ⅰ)
同じ顔に同じ身体、そして同じ服装の女性たちが大挙して押し寄せてくる。
その手には、鉈や金槌や包丁などといったバラエティ豊かな凶器を携えて。
「悪夢か、三流作家の書いた演劇か」
根源的な恐怖と生理的嫌悪を同時に抱かせるその様子を淡々とそう評したベルタは、即座に踵を返して逃走を開始した。
「「「「逃すものかっ!!」」」」
異口同音。
背中から響く叫びを無視しながら、ベルタは廊下を駆ける。
脳内で屋敷のマップを広げながら、状況を打開する為の思考を並列で展開していく。
まず、相手は転生者で異能を使っているのは間違いない。
ならば、その異能とは何か。
突き当たりの角を曲がる瞬間に、チラリと追っての姿を瞳に焼き付ける。
数は十人以上で、顔も服装も同じ。
感覚としては分身する異能であるが、系統は未だ不明。
顔どころか服装まで同じであるならば、あの分身たちは本体を除いて実体の無い幻影である可能性もある。
そう考えた瞬間、置き去りにした後ろの曲がり角で止まり切れなかった個体が後続の群れに押しつぶされて壁に赤い染を付けるのをベルタは背中越しに確認する。
「──違うか」
アレらには実体がある事が後味が悪すぎる光景にて実証された。
そもそも、仮定分身たちが手にしている武器はそれぞれに違う。
ならば本体の姿を丸ごとコピーはしていないという事にも繋がる。
実体を持つ分身を作る異能であることは確定。
しかし、そうなると次の疑問が現れる。
「分身が作れるなら、何故待ち伏せをしない」
後ろから物量に物を言わせた人海戦術で向かってくるのみで挟撃する素振りや気配は無い。
そもそも易々とソレが出来ないようなルートを選んでベルタは走っているというのもあるが、あの量の分身を動かせるなら物量戦の最適解が違う筈だ。
「つまりは、出来ない──?」
走り切った廊下の先、吹き抜けのある広間に出た瞬間にベルタは懐から蛟尾を取り出す。
真上に向かって振るわれた真紅の鞭は、敵ではなく天井の梁を巻き掴む。
ソレを軸に身体を支えながら、遠心力をも利用して壁を斜めに駆け上がり二階相当に当たる高さにあった装飾部分へ立つ。
大理石で出来た厳しい獣の頭を踏みつけながら、広間に流れて来た転生者の群れを見下す。
寸分違わない彼女らの様子を俯瞰して確認する。
転生者たちは周囲をキョロキョロと見回したのち、うち一個体が白獣を踏みつけにする貴人の姿を発見した。
「「「「どこだ、どこに──そこかっ!」」」」
またしても異口同音。
地響きのような不快な声量に眉を顰めながら、ベルタは彼女の異能の正体を断定した。
「君たちは、全員が本体だね」




