ACT.108 ふたりの食事(Ⅱ)
セリアが選んだのは、テラス席のある軽食店だった。
明るい色の屋根と看板が印象的なお店であった。
「"驢馬の鬣亭"は軽食あんまりないからちょっと気になるのよね」
「種目が違うなら一番の意味も変わるしね」
「──そ、その話はやめよう?」
受付で注文をしたふたりは野外にある大通りに面した席に座る。
そして席に着くと、おもむろにセリアは話し始めた。
「そう言えば、ライくんと一緒にご飯食べるのってもしかして初めてかな?」
「かもしれない」
普段"驢馬の鬣亭"に住んでいるとはいえ、あくまでライは客である。
食事のタイミングはセリアたちとは違う。
故に、ふたりが顔を合わせて対面で食事を摂るのは今日が初めてであった。
「不思議な感じね、ライくんがウチに来てから三年くらい経ってるのに今日が初めてなんて」
「そう、だね。案外、機会に恵まれなかったから」
「ライくん、仕事で何ヶ月も留守にすることも多いしね」
そう、努めて明るく話すセリアであったが、内心は全く別であった。
ライ・コーンウェルという少年は私物を殆ど抱えていないというのを彼女は知っている。
その上、家を借りるのではなくわざわざ宿屋である"驢馬の鬣亭"に日割で宿泊代を払って生活している。
だから、彼が数ヶ月仕事で帰らない時はいつも心配していた。
──ライがもう二度と帰ってこないのではないのか、と。
それ程までに、彼がここにいたとする証明があまりにも少ない。
何気なく「またね」と別れて、一生会えなくなるような危機感を常に彼女は心の片隅に抱いていた。
「──ライくんは、ずっと今の仕事を続けるの?」
抱え続けていた不安が、少しだけ今溢れ落ちる。
「セリア?」
不意にかけられた言葉に、ライは不思議そうに彼女の名前を呼ぶ。
「お父さんもお母さんも顔が広いからさ、ライくんさえ良ければ別な仕事をオススメできたりすると思うんだ」
一度発した言葉は取り消せない。
それどころか、呼水のように次から次へと溢れたす。
──止まらなくなる。
「ライくんが危ないことをしなくても良いように、きっと出来る筈なんだ」




