ACT.105 落涙の聖泉(Ⅳ)
「──それで、落涙の聖泉って何するところ?」
セリアと共にしばらく聖泉を眺めていたライが、そんなことをポツリと呟く。
それを聞いた彼女は、一瞬その意味がわからなかった。
「えっと、見るだけなんだけど?」
「見るだけ?」
「見て『青いね不思議だねー』『御利益ありそうだね、ありがたいねー』みたいな話をするだけっていうか」
「そうなの!?」
ごく当たり前の、当然のことをセリアは言ったつもりだったが、ライはその言葉に大きく驚きの声をあげる。
「そんな、実利なんてほぼ無いのか」
続くライのセリフを聞いて、目の前にいるこの少年のズレに軽く眩暈がした。
この優しく生真面目が過ぎる少年は、今までどんな生き方をしていたのかセリアは改めて不安を覚えた。
それでも、彼をなんとかしたい楽しませてあげたい、笑顔がみたいと思ってしまうのは──。
「──好きになっちゃったからなぁ」
「セリア?」
「あ、うんなんでもない!」
パタパタと慌てて手と首を振って誤魔化すセリア。
不注意で口から出てしまった言葉がライに届いてなかったのを安心しつつ、照れて熱った頬に両手を当てて冷やそうとする。
「えーと、えっと、じゃじゃあ次行こっかなー! ほら、ライくん行こっ!」
顔の赤さを誤魔化すようにわざとらしく明るい声を出しながら、彼女は聖泉から離れようとする。
しかし、聖泉周りの人混みが先程より増えていた。
「あ、あれちょっと!」
小柄なセリアは、その人混みの流れに逆らえずに思うように進めずどこかに流されそうになった瞬間。
「セリア」
彼女の手をライがしっかりと掴む。
思いもよらなかった彼の行動に、セリアは驚いて惚けたようにライを見つめる。
「危ないから、しばらく手を繋いでいようか」
ライとしては先程ノアから聞いた話もあり、絶対に彼女から目を離せないというある種の使命感からくる行動であった。
一時的にセリアと手を繋いで歩くという対外的な意味を忘れたからこそライは照れもなくこういった行動に移せたのだが、それがある種の自信に満ちた男らしい様子に見えたセリアは。
「は、はひ」
──少し情けない返事を返してしまった。




