ACT.104 落涙の聖泉(Ⅲ)
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「──と、いう訳で一般聖騎士たちと一緒に街中をくまなく監視と調査って感じッスね」
セリアに聞こえないようにこっそり耳打ちされた内容を聞いて、ライは思わず口元に手を当てて考えこむ。
自分が居ない僅かな間に、そんな事が起こっていたとは想像していなかったのだ。
ライ自身、混沌教団の危険性は十二分に理解している。
それが身近に身を潜めているのなら、恐るべき脅威である。
ならば、とライは口を開く。
「今すぐ休暇を返上して、僕も任務に」
「それは駄目ッス」
ライの発案は、ノアに瞬時に拒否された。
彼から返ってきた予想外の反応に、ライは目を丸くする。
「パイセン、仕事優先してデート中止させるだなんて流石にナンセンスがすぎますよ」
少し怒ったような、たしなめるような言い方でノアはライに意見した。
普段のノアらしからぬ、まるで先輩が後輩を戒めるような言い方であった。
「それにパイセンだって人間ッスから、偶には命の洗濯というか、息抜きしっかりしてきてください」
そう言いながらノアはスルッとライの後ろにまわり、セリアの方へと肩を押す。
「セリアちゃん、パイセンをよろしくッス!」
「ノア!」
ライが振り返ると彼は意味深に笑ってそのまま早足で人の群れに溶けていった。
おそらく、ノアなりにライの身を慮っての行動だろう。
それはわかっているが、生真面目なライにはそれでも納得がいかない。
理屈ではなく、感情として腑に落ちきらない。
その様子を見たセリアは、不安げにライに問いかける。
「ライくん、さっきの人と何かあった?」
セリアの方を向き直り、その顔を見た瞬間にライは考える。
混沌教団がベネトナシュに紛れているのなら今日はもう帰ってしまうべきじゃないか、と。
その方がセリアの安全につながる。
だが、当然ながら混沌教団の件は秘密にされている。
その辺の事情をはぐらかしながら、セリアを帰す──多分出来なくはない。
セリアは素直な良い娘であるから、ライが真実を言わなくとも真意を察して頷いてくれる筈だ。
しかし、そうなってしまうと──。
ちらりと再び彼女を見る。
不安げにコチラを見上げているその表情を見たライに──。
「──いや、なんでもない」
──残酷な選択など取れなかった。




