ACT.102 落涙の聖泉(Ⅱ)
「──落涙の聖泉の湧水にはある金属が微量に含まれてて、それが光を屈折させた結果がこの色ッスね」
突如背後から聞こえた見知った声に、ライは驚き振り返る。
「ノア!?」
そこにいたのは、先日までエルトール伯の領地にて共に任務に当たっていた粛清騎士ノア・ローであった。
平日の黒鎧ではないラフな出立のノアはいつもの軽そうな笑顔でライに──いや、ライたちに向けてパチンと片目を瞑ってみせる。
驚くライを尻目に、ノアは解説を続ける。
「光というのは元々七色で、たまたまこの金属の屈折作用が青色を強く見せてるッてのが最近の研究結果ッスね。いやぁ、それにしても──」
そういいながら、ノアはするっと何気ない仕草でセリアに近づく。
ニコりと人好きのする笑顔を、有り体にいうなら異性向けの笑顔を浮かべながら。
「こんな可愛い子とデートだなんて、パイセンも隅におけないッスねぇ」
「あの、えぇっと?」
「初めましてお嬢様、今度ジブンとふたりでお食事で」
お食事でもどうですか、というノアの台詞が終わる前に、ライは行動を起こした。
左手でセリアに触れようとしたノアの腕を掴み引き剥がす。
ギリギリと万力で締め付けるような音が、ライの左手から漏れ出している。
「さ、流石に冗談ッスよパイセン、落ち着いて下さい」
「僕は至って冷静だ」
「めっちゃ怖い顔してる自覚あります?」
そう言われたライはパッとノアを掴んでいた手を離し、不思議そうにペタペタと自分の顔に触れる。
歳下の先輩の、そんな反応を見たノアはニヤニヤと意地の悪そうな笑顔を浮かべる。
「へぇ、ふぅん?」
その笑顔に少し苛立ちをライは覚えた。
文句のひとつやふたつ言ってやろうと口を開きかけた時、先に言葉を発したのは彼でもノアでもなくセリアだった。
「あの、貴方はライくんの友達ですか?」
「「友達!?」」
彼女の口からでた予想外の言葉に、ふたりは異口同音で驚愕する。
いやいやと否定の意味で全力で頭を横に振るライを尻目に、ノアはわざとらしくうやうやしい仕草でセリアに改めて挨拶する。
「ジブンは、ライ先輩の親友のノア・ローです。以後お見知りおきを」
「ライくんの親友なんですか!」
「いやいやいや!」
調子に乗ったノアの態度に少しの苛立ちを感じたライ。
ノアの肩を強引に掴んで引き寄せるとセリアに聞かれぬように耳打ちする。
「ノア、何しに来た? 今日は非番という訳じゃないだろ」
「たまたまパイセン見つけたからちょっかいかけただけで、絶賛仕事中ッスよ」
ノアの言葉に、思わずライは眉間に皺を寄せる。
「仕事って、何が」
「──蟲掃除ッスかね?」




