ACT.100 聖なる観光都市(Ⅲ)
【祝】100話達成!
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「──そんな余裕、僕には無かったよ」
ライの口元から溢れた言葉が孕むモノは、存外に重い。
その重さを、セリアはなんとなく感じ取る。
感じ取り──それはそうだと、無神経な事を聞いたと後悔した。
セリア・カワードは、ライ・コーンウェルという少年の事をよくは知らない。
彼が自身のことについて、あまり多くを語らないからというのもそうだ。
だが、断片的な話や彼の今から察せられる事はある程度ある。
まだ17歳でありながら、家族も帰る家も無い。
聖教会で働きながらも、頼れる友人や知人も見当たらない。
それだけの情報でも──なんとなくは、察せてしまう。
セリアは、自分自身が恵まれた幸福な環境にいるという事を自覚している。
"驢馬の鬣亭"にて日頃、様々な客たちの話を耳にしているからこそ相対的に理解している。
大きな借金が無いことの、犯罪を犯さなくても良いことを、身体を売らずに済むことを、何かを選択できるということを、帰る家があることを、家族が笑顔でいることの──幸福を。
当たり前に自分に与えられている、ありふれた奇跡のような幸福を。
そして、目の前にいる少年にはありふれた幸福が少し無かったことも。
「──じゃあさ」
だがここで、彼に同情して意気消沈するような娘ではなかった。
両手を目一杯伸ばして彼の顔に触れて、遠くを見つめるライの瞳を優しくそれでいて強引に自身に向けさせる。
遠く過去ではなく、今の自分にライの意識を向けさせる。
「これからいっぱい作ろうよ、余裕」
真剣な眼差しで、ライにそう言った。
「なんでもいいよ、朝たまにちょっとだけ寝坊してみるでもいいし、お昼にちょっと高めのご飯を食べるのでも、帰りに甘いお菓子買い食いするでも──って食べ物ばかりだね」
私って食い気ばかりかな、そう言って彼女は苦笑する。
「今まで無かったからって、これからも無いなんて決まってないよ。ライくんがやり方わからないなら、一緒に教えてあげるから」
心の余裕を、ありふれた幸福を。
あまりに生き急ぎ過ぎてライが取りこぼし続けてきたソレらを、セリアは拾い上げようとする。
ライ・コーンウェルを真に救うのは復讐か、ただの少女か。
──今はまだ、誰もわからない。




