ACT.98 聖なる観光都市(Ⅰ)
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"驢馬の鬣亭"に帰ってきた翌日。
天高く飛ぶ鳥が、広場の銅像の前に立つライに影を落とす。
よく晴れ渡った空を呆けたように眺めながら、彼は小さく呟く。
「早く来すぎたかな」
暇を持て余したライはそのまますっと視線をずらし、待ち合わせの目印とした銅像を見る。
ライたちが普段着る黒鎧に似た意匠のある鎧に身を包み、大剣を携えた厳しい顔つきの初老男性の像だ。
「確か、始まりの聖騎士シャスティフォルだったか」
以前師匠から教わった話を脳内で手繰り寄せる。
聖教会に伝わる話では、女神からの信託を受けた初代聖女と共に最初の渾沌の使徒──転生者を迎え討った人物だとか。
彼の存在が今日のライたち粛清騎士へと繋がっているらしい。
「そう考えると少し感慨深いモノがあるか」
彼と初代聖女、そして賢人マティアスの三人は聖教会の祖として有名であり、このベネトナシュ各地に像やレリーフが建てられている。
もっとも、職務の多忙さ及び興味のなさでソレらをライが見たことは殆どないが。
「確かマティアスは地名の由来にもなってたような──」
ライがそこまで考えた時、遠くから彼の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。
その声に銅像から目を離して振り返る。
「ライ君!」
満面の笑みでこちらに駆け寄ってくるセリアの姿があった。
無邪気なその姿に自然とライも顔を綻ばせて、彼女に向かって軽く手を振って返す。
「お待たせ!ごめんね、ちょっと時間かかっちゃって」
「大丈夫、気にして無い」
謝罪する彼女に対してなんでも無いと笑って返すライ。
しかしと不思議そうな顔をしながらライは顎に手を当ててセリアに質問する。
「でも、どうせ同じ"驢馬の鬣亭"から出るんだからわざわざここで待ち合わせなくてよかったんじゃないか?」
その素朴な質問に対して、セリアは──。
「それはダメ!」
──と、素早く強く否定を返した。
意外なセリアの反応に少しライは驚き、目を丸く見開く。
ライのその驚いた表情に気がついたセリアは、慌てて理由を説明した。
「いや、その、わ、私とライ君が一緒に店を出たらさ」
「うん」
「──バレちゃうじゃん。常連のおじさんたちに、で、で、デートしにいくの」
トレードマークの三つ編みを手で弄びながら赤い顔でそう呟いたセリアに、不覚にもライは少しドキりとした。




