ACT.97 聖女と特務神父(Ⅱ)
「だからコーンウェル、私の管轄内では本当に穏便にしてて下さいよ」
カーティス特務がしゃがみ込んだまま、ひとりそう呟いた時だった。
「あら、何の話?」
突然聞こえたその声に、彼は声にならない悲鳴をあげて落雷に打たれたかのように飛び上がって姿勢を正す。
そして声の方へ向き直ると、ライを見送った後の入り口に立つひとりの少女の姿が。
「せ、聖女ステラ」
今の今まで考えていた当人の突然の来訪に、その名を呼ぶ声が若干裏返る。
聖女ステラはにこやかに微笑みながら、そんな彼に質問する。
「カーティス、私のライがどうかしたの?」
その声に得体の知れない圧を感じて、カーティス特務神父は額から変な汗が噴き出る。
「コーンウェルは今回の任務で負傷しまして、療養の為にしばらく休暇を出しました」
カーティス特務の説明に対し、彼女は無言。
そのリアクションに焦りを覚えて、更に彼は言葉を続ける。
「い、今は本部にフーカー、ゴドウェン、ローの三名がいますので万一があっても十分対応できるかと」
そこまで話すと、ようやく彼女が口を開く。
「ライにも頼もうと思ったけど、それならいいわ」
聖女ステラはそう呟いて、小さく嘆息する。
「申し訳ありません、お気に障りましたでしょうか」
「いえ、気にしないで。貴方がそう判断したのならそれが正しいのでしょう」
──カーティス特務神父は自身の事を取るに足らない消耗品であると思っているが、そこは少し勘違いが含まれている。
少なくとも、聖女ステラは彼の手腕に一定の信頼を預けているからである。
そして何より、彼に畏れられていることを知っている。
だからこそ、彼が聖女ステラにとっての不利益をやらかさない事も知っているのだ。
「私のライを慮っての指示に、私が怒るわけないじゃない?」
「は、はい」
少し彼に向かって微笑んだ後、彼女は再び真面目な顔を作ってカーティス特務神父の名前を呼んだ。
「カーティス、その三名を後で招集して。新しい仕事──蟲掃除があるから」




