ACT.96 聖女と特務神父(Ⅰ)
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ライ・コーンウェルに休暇を言い渡して帰し、大きな円卓の座す部屋にひとり残ったカーティス特務神父は大きく息を吐く。
それは諦観によるため息でなく、安堵の嘆息であった。
「なんとかなったか」
無事にライとの対話を乗り切ったことで安心し、思わずその場にしゃがみ込む。
カーティス特務神父という男は、特別ではない。
その事実を何より彼自身が知っている。
たまたま人より仕事が出来て、ウエに歯向かう度胸もない、非常に都合の良い人材であるから特務神父という役職を与えられただけに過ぎない。
自身の代わりなんていくらでもいる。
そんな十把一からげな人材の山から、良いのか悪いのか偶然摘み上げられたのがカーティス特務神父だ。
名目上は粛清騎士たちの上官になっているが、そんなのはあくまで名目上。
実態としては、彼らはあくまで特務神父の後ろにいる聖女ステラの存在に従っているだけにすぎない。
彼女の威光ありきの存在であるから、世渡りはより慎重にならないといけない。
カーティス特務の前任者は、とある粛清騎士に殺されている。
しかし、その粛清騎士は上官殺しをしても尚咎めを受けず、任を解かれることもなく現在も在籍し続けている。
「所詮は私も粛清騎士も聖女からみたら消耗品だ」
だが、価値には雲泥の差がある。
高価な消耗品である粛清騎士と、安価な消耗品である特務神父。
有事の際にどちらを取るかなんて、分かりきったことだろう。
だからこそ、自身の立ち振る舞いには細心の注意を彼は払う。
そして現在最も注意を払わねばならない粛清騎士がライ・コーンウェルであった。
前例の無い聖女ステラのお気に入り。
彼女が直接顔を見せにくる──否、遊びに来る程だ。
その気に入り方、入れ込み様はカーティス特務は恐ろしかった。
明らかに彼は彼女にとって、高価な消耗品以上の価値を持たれていると感じたからだ。
今回ライに突然の長期休暇を出したのも、彼の怪我や体調如何によっては自身の命を保証しかねるとカーティス特務が感じたからに他ならない。
彼にはある確信があった。
聖女ステラという人物は、カーティス特務がライにとっての不利益を与えたのなら──。
そこまで考えて、カーティス特務は強い悪寒を感じて身震いする。
「だからコーンウェル、私の管轄内では本当に穏便にしてて下さいよ」
祈るような気持ちで、カーティス特務は呟いた。




