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07. 摂政のその先へ


「そんなに怒らなくてもいいじゃない。」



身体を捻り、手を頬にあてるエレベスト公爵。


ルカを抱き、公爵から少しばかり距離を取る。

こんなに私を怒らせたというのに、何事もなかったかのように笑っている。



「あなたがやったことは、ルカに対して不敬よ!」


「あら、私はルカちゃんと喋りたかっただけよ。」



同じ肉親同士でね、とルカに対してウィンク。

何も可愛くないし、恐ろしい。



衛兵は何をしているのかしら。

ルカの護衛は、どうしようかと右往左往している。

もしエレベスト公爵が短刀を持って暗殺に来てたら危ないじゃない。


とりあえず、ルカから公爵を離すことができた。



緊迫の間



あとは、どう落とし前を付けるか。

少し思案していると、エレベスト公爵の方から話しかける。



「もう、そんなにララちゃんが怒るなんて想定外だわ。一度出直そうかしら」



エレベスト公爵のマントが向きを変える。

その歩は、そのまま王宮の扉へと進む。


ええ、そうしてちょうだい。

心の中では、とにかくエレベスト公爵をルカから離したい。


ルカを狙っているのだから、出来る限り接触を排除して、ルカ×エレベスト公爵の婚約ルートを破壊しないと…



何を言っているんだ、私は



「じゃあね~、ルカちゃん♡ また会おうね!」


去り際のエレベスト公爵。

扉を出るタイミングで、私たちに振り返ると、ルカに対して手を振る。

ルカはどう反応していいのか困ったように、一瞬手を挙げたが、その手はただ空中に留まっただけだった。





バタン、扉が閉まる。


暗闇がエレベスト公爵の笑顔を消す。

唯一、開いている窓から光が差し込むが、時刻は夕刻。

夕陽に照らされた影が、廊下の扉をいくつも跨ぐほど長く伸びていた。


陰から声がする。


「どうでしたか?」



エレベスト公爵はしばらく黙っていた。


そして、



「なかったわ。」







☆★☆★☆★☆★☆★



「しくじった」


激しい後悔。

私があそこで激情になってしまったばかりに、すっかり大事なことを忘れていた。



「ルカへの忠誠を誓わせるのを忘れていたわ。」


今回の目標は、摂政の位を諦めさせること、

ついでにルカへの忠誠を誓わせることだった。


まさか、私の感情を高ぶらせて、これを拒否するのが目的だった…?

いや、さすがに考えすぎか。


どちらにせよ、失敗した。



ふー

一旦息を吐く。


失敗したときほど、冷静になるべきだ。


考えろ、

エレベスト公爵への陰謀が失敗した今、やるべきことは残ったケーツ伯爵に忠誠を誓わせることだろう。


私は中断されていたルカへの謁見を再開するよう指示を出す。

ある程度の駄々をこねるだろうと想像していたが、ケーツ伯爵はすんなりと応じ、忠誠の儀は、つつがなく進行した。



「えっと、王国?とルカ殿下への忠誠をここに誓います」


「はい、よくできました」



ケーツ伯爵は、渡したカンペ通りに読み上げる。

ここまで言質を取れば大丈夫だろう。

念のため、後で宣誓書も書かせておこう。

餌は、、、果実酒でいいかしら。


臣下の儀は終わった。

ケーツ伯爵は終わると、ルカにまたねと挨拶すると颯爽と帰っていった。


玉座の間は私と、ルカ、それから護衛だけ。



「そういえばララお姉様、あの時なんでエレベスト公爵から僕を遠ざけたのですか?」



ルカが問いかける。

曰く、あそこまでお姉様が怒っている姿は初めて見たとのこと。

そこまで怒って遠ざけた理由が分からないそうだ。

それは…



「ルカを狙っているからよ」



私には、あれがルカを狙っているようにしか見えなかった。

現代で言えば、セクハラだ。


なんてうら… けしからん!



「僕にはそう見えなかったのですが...」


「それはルカがまだ大人じゃないからよ。」



まったく、将来悪い大人に悪いことされないか心配になってきた。

私の言葉、”大人”に反応したのか、ムッとした顔に代わる。



「じゃあ、具体的にどこを狙っているのですか?」


「え?」



私は悩む。


なんて答えればいいのか

強いているなら…


「お尻?」


すぐに自分の口をふさぐ。

ルカに聞かれてはいないよね。

恐る恐るルカの方を振り向く。


すると、ルカはクエスチョンマークを浮かべて問いかける。



「ララお姉さま 先程なんと?」


「わわわ… 忘れて!」



ダメよ。

そんなはしたないこと、ルカに聞かれては

全力で手を振って拒否するが、ルカはしつこく問いかけてくる。



「兎に角、あなたにはまだ早い大人の世界なの!」



エレベスト公爵がルカを恋愛対象に思っているなんて知ったらどう反応するだろうか。

おそらく困惑するはずだ。

そして、どう対処するか悩むに違いない。


そこに、悪い大人が付け入るスキが生まれる。


ルカの美貌は女のみならず、男にも通用する。

ルカが大人になるまでの間、悪意からルカを守ることこそが私の使命。


悪意を知るのは大人になってからで十分なのだ。



なおも不満そうなルカ。

だが、ここで側に控えていた執事がフォローに入る。



「ルカ殿下。 姫様が心配されているのは、殿下の身の安全です。

 此度の公爵は、可能なら殿下を暗殺できる距離まで接近しました。」



そして、ここからは大人の世界なのだと執事は付け加える。



「大人の世界には責任というものがございます。

 今回、殿下を危険な状況にしてしまったことに、姫様は責任を感じているのです。」


なので、姫様が話を躊躇うのは無理がないと。


ナイス、フォロー。

嫌な話題から話をそらすために、責任の話を持ち込んだのね。

グッジョブ有能。


感謝のウィンクを密かに執事に送る。


「はあ」


困惑気味の執事をよそ眼に、私は護衛に目を向ける。


「次からは、どんな相手であろうともルカに近づけさせないで」


「ははっ」


護衛の額には汗がにじんでいる。


王族だから、止めるのを躊躇したのだろう。

親族同士のじゃれ合いという見方もできる。

それにエレベスト公爵はこの国の重鎮。

公爵の邪魔をすれば出世に影響を与えるかもしれない。


エレベスト公爵からルカを守れないなら、護衛の意味がない。

なんてたって、ルカを恋愛対象として見ているのだから。



「ルカ、ごめんなさい。ルカを危険な身に合わせてしまって…」


口元をすぼみ、視線を落とす。

エレベスト公爵を警戒していたはずなのに、結局、ルカをあそこまで危険な距離に近づけてしまった。


もっと早く気づいていれば…


私の意味がない。


自然と拳に力が入る。


「お姉さま、大丈夫ですよ」


ルカはいつものように微笑む。


「要は… 僕を守ってくれたということですよね?」


もじもじと恥ずかし気に応えるルカ。

いつもボディタッチだってするのに、どこに恥ずかしさがあるのだろうか。


「ルカ」



守りたい、この王子様を


私は摂政なんかじゃない。

お姉ちゃんでもない。


ただ、ルカを守れる人間になりたい。

ルカを狙う輩を跳ねのける、そんな人間になりたい。


私は越えてゆくわ。



「ありがとう」




私は、あの変態な公爵の、その先を行ってやるわ。




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