06.二人の変態 こいつ、変態ですわ!
ララの暴走回です。
睨みあう二人。
ララは歯ぎしりをするように、強くエレベスト公爵を睨む。
相対するエレベスト公爵は、不気味な笑みを浮かべてララを睨む。
両者一歩も譲らず、緊張が満ちていた。
その緊張をほどいたのは意外な人物だった。
「もう二人とも、話すの止めたら?」
つぶらな瞳の、ケーツ伯爵。
どこからか持ってきた菓子を貪りながら、興味なさげに問いかける。
「はあ… ケーツ伯爵の言うとおりね。」
これ以上、争ったところで意味がない。
今回呼び出したのは、あくまで摂政狙うの止めない?と呼びかけるもので、エレベスト公爵があそこまでの意思がある時点で失敗だ。
むしろ、舌戦を繰り広げたところで、失言をしてしまいそうだ。
政治分野では、エレベスト公爵の方に分がある。
「ケーツちゃんがそこまで言うなら。」
一旦、勝負はお預け。
ケーツ伯爵から言質を取っただけでも満足しよう。
さりげなく視線を落として敵対の意思がないことを伝える。エレベスト公爵も公爵杖を懐に仕舞いこむ。
頬の筋肉が緩むのを感じる。
私でも気づけないほど、表情が固まっていたのだろう。
玉座の間は、落ち着きを取り戻した。
ふと、エレベスト公爵が口を開く。
その所作は先程までのお姉仕草ではない、目上の人にも通じるような洗練された礼を披露してから一言。
「そういえば、今日はルカ殿下が参られると聞いておりますが、いつ来られるのでしょうか?」
ここからは貴族としてお話ししましょう、そういった意図があるのだろう。
再び、頬の筋肉が張るのが分かる。
「ええ、ルカ殿下はそろそろ登城されると思いますわ。」
摂政である私が呼び出したという口実よりも、次期国王たるルカが来るから、皆も来てね。
といった方が、外聞がいい。
なので、ルカにも来てもらう。
第一目標である摂政を諦めさせることは出来なかったが、せめてルカへの忠誠を誓わせたい。
私とは権力争いをしても、王位を簒奪するような真似はしないよ。
そう誓わせれば、少なくともルカを傷つける口実は潰せる。
「噂をすれば…」
側に仕えてあるメイドから、ルカの準備完了の知らせが届く。
私はOKサインを出すと、王座の間へと続く扉が、重厚な音を立てて開く。
「ルカ」
私のアイドル。
宝石が散りばめられた王冠に、紫色のマントを被っている。
今すぐに駆けだしたい。
群青の瞳はまっすぐ私を見据えて
一歩歩く姿は、自然と陽光を纏うポップスター
保護欲を燻る、私の執着の行き着く先が滅びだとしてもあなたを守りたい。
私は一歩、ルカに近づく。
「ル…」
「ルカちゃん!元気?
私が見ない間に、こんなに大きくなっちゃって♡」
駆けだしたエレベスト公爵。
ルカとの距離が近い。
肌と肌が密着する。
それは男同士が絡み合うというレベルを超えている。
は?
「エレベスト公爵、近いです。」
「もう照れちゃって
久しぶりの甥っ子なんだからしょうがないでしょ。」
苦笑いを浮かべるルカ。
その目が、ほんの少しだけ困っている。
エレベスト公爵の蛇のようなねちっこい目は、ルカの身体を舐めるように視線がうつろう。
は?
「昔のように高い高いしてあげようかしら?」
「あ エレベスト公爵、くすぐったい。」
は?は?は?
伸びた食指は目にしたものを追うように
ルカの胸に、くびれた腰に、艶めいた太腿に
私にしか見えない、公爵は下品に、舌鼓を打つのが見えた。
そこは私のもの!
反射的に伸びた手が、ルカとエレベスト公爵を分ける。
一瞬、エレベスト公爵の顔を見た。
嗤い。
驚いたような、それでいて予定通りと言わんばかりの笑み。
もしかして、罠に嵌ったのだろうか。
いや、例え罠であろうとも許せない。
マジで私のルカに何してんの?
ルカの顔を見た?
嫌がっている顔だったじゃん。
ルカが不快に感じたことが許せない。
なにより、私にしか見せない、困った時の顔。
ルカを困らせていいのは私だけなんだから、邪魔しないでほしい。
そして、恐ろしい事実に気づく。
エレベスト公爵がそういうボーイズラブ的な趣味をしているのでは…
確かに、エレベスト公爵はお姉口調で、化粧をかけている。
男も守備範囲であることには疑いはあった。
まさか毒牙がルカに向いている!?
背筋が凍りつくのを感じる。
あの可愛いルカが別の女に渡るのでさえ許せないのに、ましてやお姉のエレベスト公爵?
(あら~、ルカちゃん。私のお姫様♡)
朱に染まったエレベスト公爵の唇が、ルカの頬に接近するのを想像して…
この変態が、
許せない、
断じて。
そう、私のライバルなのだ。
かつて、ルカ王子を取り合ったように、排除するだけ。
今までにない殺意を込めて
「やっぱり、あなたに摂政は譲れないわ」
独占欲で暴走しちゃうこと、あるよんね~




