04.腹黒摂政
ひと段落付いたところで、ティータイムといきますか。
側仕えが持ってきたお茶に口を付けて、手を傾ける。
鼻孔を燻る、仄かな蜂蜜の香り。
蜂蜜マシマシのお茶を頼んだ私は、その暴力的な甘さに舌を丸めながら、目の前の執事と雑談をすることにした。
雑談と言っても、仕事の延長線の話だが。
執事と話していると、ふと前世の知識を思い出す。
「そういえば、あなたの御子息もそろそろ貴族会デビューかしら。」
「はっ、今はそのための訓練を続けております。いずれは王城にてご奉公をさせて頂きたいと思っております。」
なんでも執事には相当、優秀な息子がいるらしい。
しわが刻まれた顔がみるみる緩んでいることからも、息子への溺愛ぶりは相当なのだろう。
「王城勤務なら、私の側仕えでもさせようかしら。」
ちょっと冗談めかすと、執事の顔はいつも通りの渋い顔に戻る。
「息子は優秀なのですが... 如何せん生意気なところがございまして… 今は矯正に苦労しております。」
そこから始まったのは子供の苦労話。
執事も苦労しているようで、普段口数が少ない寡黙な大人なのだが、息子の話になると饒舌になる。
その気持ち、分かるわー
「お名前は?」
「クロウで御座います。」
その瞬間、脳内に一枚のカードが浮かんだ。
『Duel Sisters』の登場人物、クロウ。
将来はルカの執事兼護衛になるスーパーイケメンだ。
ただしゲームでは、私の最大の天敵だった。
ルカへの面会をことごとく阻止する、クソ真面目な番犬。
前世では苦汁を飲まされたが、私が知っている攻略対象の一人。
「あなたの息子なのだから、きっと大丈夫ですわ。」
「姫様にそう言ってもらえるとは... ありがたき幸せ。」
「そうね、そんなに生意気なら逆に興味があるわ。とりあえず会ってみたいわ。」
その生意気、一生治らない。
権威というものが全く通じないタイプの人間だから、ある程度生意気を許容しなければ。
「はっ、迅速に致します。」
息子の矯正、頑張ってねとエールを送る。
無理だろうけど。
いいな、家族の問題が息子が生意気だという可愛いもので。
誰にもバレない程度の小さな溜息、だが長年、側に仕えてきた執事は気づいたようだ。
「姫様、王城での陰謀で疲れておいででしょうか?」
余計な気配りをさせてしまったかなと思ったが、その問題について思考を巡らすと、その思考は次第に重くなる。
「事がことだけにね。」
また、ため息をつく。
今度は重たい溜息だ。吐き出しても吐き出せない、この重さは事の重大性を表している。
「姫様の叔父上たちのことですか… 今頃になって主張し始めるとは。」
家族問題と言えばいいのか。
歴史に言わせれば、それはお家騒動だろうか。
「この国の摂政は、父の遺言通りこの私。疑いようがありませんわ。なのに、こうどうして騒ぎを起こすのかしら。」
遺産相続で揉めることはあるだろう。
だが、それは資産をいかに配分するかの問題ではない。今回は、権力を誰が受け継ぐかという問題だ。
弟は幼少で、国政を担えるほどの責任能力は持ち合わせていない。
そこで父は遺言書で、ルカが15になるまで摂政として、補佐してほしいと書き記した。
え、私12歳なんだけど!?
「姫様は年若いので…」
実体のない摂政だと舐められている…と。
口にはしなかったが、言い淀む執事の言葉に納得する。
女×若年、というのは舐められる。
いや、実際こんなの舐められる要素しかないわ。
ただ、中身は37歳、これでも立派な大人だ。
コ〇ンよりも大人だ。バーロ
「ふふふ、大丈夫よ。これでも大人ですから。」
「姫様…」
大丈夫。
ルカという燃料がある限り、私は動き続けれる。
そして、このお家騒動は私の身、だけでなくルカの命にも関わってくる。
摂政として働いてから3カ月、摂政の権力の大きさに気づかされる。
軍隊の移動、財政の支出の管理、人事の裁量権など、国王とほぼ同等の権力を持っている。次期国王のルカでも止められない絶大な権力だ。
もし、これが悪意あるものに移れば…
王亡き今、王位継承権を持つのは三人。
ルカと、叔父二人の計三人だ。
肉親ではあるが、半端な情を持ってはいけない。
彼らが摂政の位を握れば、私たちを殺して王になる、なんて選択肢もあり得る。なまじ、『Duel Sisters』では展開されていないストーリなため、不安しかない。
他のストーリなら、ある程度ゲーム知識に頼ることができたのに…
「エレベスト公爵と、ケーツ公爵だったかしら。」
排除すべきは、この二人。
二人とは何度もあたことがある。情はないわけではないが、摂政の位を要求するとは、すなわち政敵だ。
「ティータイムは終わり。二人を呼び出して頂戴。」
今のところ、実権を握れているのは私だ。
招集令状を出せば、おとなしく従ってくれるだろう。
ただ、さらに陰謀を企てると、今ある権力を失いかねない。
権力がある今こそ、積極的に動くべきだ。
私の号令に、素早くティーカップをしまい込むと、次から次へと官僚が部屋へ出ていく。おそらく、招集令状を携えて、二人の下に走ったのだろう。
「一先ず、あらかたの指示は出せたかしら。」
独り言のようにつぶやく。
ただその期待は、机に出された大量の書類に押しつぶされる。
「姫様、まだ仕事があります。」
まだ課題があるのかと恐怖する。
「王家の財政が傾いております。加えて勝手に税を徴収する不届きもの、国境では魔族の侵入が続いており、そのための増援が必要になります。…姫様?」
「なんでこんな事に~!!」
執事「きっと姫様が腹黒になられたのは、そうせざるを得なくなったからですね。」
*元からです




